アンチウィルスの「ノートン」仮想通貨マイニング機能搭載に懸念の声。強制ではないもののユーザー拒否感消えず
セキュリティソフトウェア「ノートン 360」の暗号通貨マイニング機能「ノートン クリプト(Norton Crypto)」に注目が集まっている。これは、PCの空いたリソースで仮想通貨をマイニングする機能だ。動作にはゲーミングPC相当の環境が必要かつ自動では起動しない仕組みながら、 ユーザーから懸念の声が寄せられている。
「ノートン 360」は、PC向けのセキュリティソフトウェアだ。シマンテックを前身とするセキュリティソフトウェア開発企業、NortonLifeLockが手がけている。ノートンといえば、大手アンチウィルスソフト。「ノートン360」は、ウィルス対策のみならずVPN接続機能やパスワードマネージャーなど、さまざまなノートンシリーズの機能にアクセスする統合ソフトとなっている。今回注目を集めている「ノートン クリプト」は、そうした一連の機能のひとつだ。こちらはセキュリティ対策とはやや毛色が違っており、仮想通貨「イーサリアム」のマイニングをおこなう機能となっている。
実をいえば、「ノートン クリプト」自体は昨年、海外向けにすでに機能提供されている。この機能が今年になって注目を集めたのは、海外ジャーナリストCory Doctorow氏がTwitterアカウント上にて、同機能について懸念を示す意見を投じたためと見られる。同氏は「“アンチウィルス”がこっそりマイナーをインストールして、手数料をかすめ取るらしい」とツイートし、懸念を示している。この投稿は多くの反響をあつめ、Brian Krebs氏によるセキュリティブログKrebs on Securityに取り上げられるなどさらに広く波及した。また、こうした報道で「ノートン クリプト」を知ったユーザーの多くが、批判的な意見を投稿している。
「ノートン クリプト」が批判を受ける背景には、そもそもユーザーのマイニングへの拒否感もあると思われる。ユーザーのリソースを乗っ取り、暗にマイニングをおこなう悪質なソフトウェアもある。そうした悪いイメージが先行している面もあるだろう。また、「ノートン クリプト」の仕組み自体に疑問を呈する声もある。同機能の公式FAQによれば、ユーザーは“採掘料”として、マイニングしたイーサリアムの15%を支払う必要があるという。取引にまつわる手数料などもユーザー負担だ。そして、マイニングした通貨は暗号通貨取引所CoinBaseのウォレットに送られ、今の所はほかの選択肢はないようだ。こうした手数料の高さや自由度のなさが、懸念を引き起こす要因のひとつとなっている。
一方で、ノートン側は「ノートン クリプト」についてオプトイン、すなわち同意がなければ実行されないと明言している。また、セキュリティソフトが提供するマイニングプログラムだから安心であると考えることもできるだろう。しかしながら、ノートン側が有耶無耶に機能を有効にしてしまう可能性を指摘する者や、機能は実行されずとも、マイニングプログラム自体が「ノートン360」と共に強制的にインストールされる点に拒否感を示すユーザーもいる。筆者が実際に「ノートン360」をインストールしてみたところ、日本語版にもマイニングプログラムである「NCrypt.exe」が含まれることが確認できた。なお日本向けには、同機能はまだ搭載されていない。
留意したいのは、ノートン クリプトが利用できるのは、ビデオメモリ6GB以上のグラフィックボードを搭載するPCのみである点だ。つまり、ゲーミングPCなどが該当してくる。PCゲーマーでノートン360を利用している方は、留意しておいた方がよいだろう。
「ノートン クリプト」が大きな注目を集めた背景には、セキュリティソフトがマイニングプログラムを強制インストールさせる仕組みへの懸念や拒否感があったのだろう。15%の手数料が適正か否かも意見が分かれるところだ。また、ノートンには「PCの動作を重くする」といったイメージも根強く、同ソフトを知るゲーマーでは忌避感をもつ方も多いのではないだろうか。昨今ではWindowsがアンチウィルスを標準搭載するようになり、最低限のセキュリティが確保しやすくなっている。ノートンが意外なマイニング機能搭載に至ったのも、多機能化によって付加価値を高めてアピールするためかもしれない。