App Storeのアプリに「外部決済手段」が導入可能になる日が近いか。裁判所がEpic裁判のAppleの保留申し立てを棄却
Epic GamesがAppleと争っている米国での裁判の一審判決に関連して、また新たな動きが出てきたようだ。一審判決では、裁判所はAppleに対し永久的差止命令を出し、Appleはその発効を保留するよう申し立てていたが、裁判所はこれを認めないと通知したという。海外メディアThe Vergeなどが報じている。
まず、これまでの流れを簡単に振り返っておこう。Epic Gamesは2020年、モバイル版『フォートナイト』に、Appleが提供するものに加えるかたちで独自の決済手段を実装。Appleへの手数料がかからないことから、同じアイテムを安価でユーザーに提供した。しかしAppleは、規約違反行為であるとして同作をApp Storeから削除。これを受けてEpic Gamesは、Appleを反トラスト法(いわゆる独占禁止法)違反などで訴えた。
裁判所は今年9月に下した一審判決にて、Appleは法が定める独占企業とは認められないとし、契約違反の損害賠償金をAppleに支払うようEpic Gamesに命令した。一方で、Appleが規約違反だとしたメーカーへの規制は、反競争的であり消費者の選択を違法に妨げていると認定。アプリ開発者が外部の決済手段にユーザーを誘導することを禁じるガイドラインを撤廃するよう、永久的差止命令を出した。痛み分けのような格好にも見えるが、Apple側は一定の成果を得たと強調する旨のコメントを出す一方で、Epic Games側は損害賠償金を支払ったうえで控訴している。
この永久的差止命令は今年12月9日に発効するものとされたが、Appleは10月、裁判所に審判請求書を提出し、Epic Gamesとの裁判が完全に終結するまで発効を保留するよう申し立てた。またAppleは、指摘されたガイドラインの改訂にあたっては、消費者やアプリ開発者、そしてiOSプラットフォームを保護する必要があるとコメント。関係する法的・技術的・経済的な問題は複雑かつ流動的であるため、時間をかけて対応すべきものであるとも主張した。
そして裁判所は11月9日、永久的差止命令の発効保留を求めるAppleの申し立てを退けた。裁判所は、Appleの主張は永久的差止命令の根拠となる事実認定を部分的に切り取り、そのほかを無視したものであると指摘。Appleは、知的財産の価値に見合わない非常に高い営業利益を得ており、これは過当競争と関連する手数料設定の結果であるとコメントしている。
なお、Appleは今年10月、App Store Reviewガイドラインを改訂し、アプリ開発者がユーザーに対してアプリ外決済を促すことを認めるよう方針転換している。ただし、アプリ内でのユーザー登録などを通じて得たメールアドレスなどの情報をもとに、アプリ外決済の存在を通知することができるのみであり、アプリ内にApple以外の決済方法を実装することは認めていない(関連記事)。今回の永久的差止命令では、ユーザーがアプリ内から、何らかのかたちでApple以外の決済方法を利用できるよう開放することを求めている。
今回の裁判所の判断を受けて、Appleの弁護士Mark Perry氏は、アプリ内にそうした機能の実装を許可することは初めてのことであるとし、保留申し立ての際に述べたさまざまな問題点にふたたび言及。また、裁判所の命令に従えば(iOS)プラットフォームは混乱に陥り、消費者や開発者を傷つけることになると主張した。同氏は、これは事実であり、実際に起こることだと述べた。一方のEpic Gamesの弁護士Gary Bornstein氏は、Appleは遅延戦術をおこなっているに過ぎず、(裁判所から)強制されない限りなにも行動しない、とだけコメントしている。
Epic GamesとAppleの裁判での判決が確定し、争いが終結するまでには5年はかかるとされている。裁判所もこの点に言及し、Appleはリスク評価のための時間を求めているのではなく、3〜5年ほどの現状維持を求めているのではないかと指摘。また、Appleからは納得できる理由も示されなかったとして、保留申し立てを退けることとなった。
これを受けてAppleは、第9巡回区控訴裁判所に控訴する方針を示している。あくまでEpic Gamesとの裁判が終結するまでは、ビジネス面におけるさらなる変更をおこなう考えはないとのこと。アプリ内への外部決済機能関連の実装を許すかどうかは、Appleのビジネスに大きく影響する。今後は、同控訴裁判所がどのような判断をするのかに注目が集まりそうだ。