サバイバルホラー『ソング オブ ホラー』開発者インタビュー。緊迫の恐怖体験は、ラヴクラフトや90年代ホラー愛から産み出された
『ソング オブ ホラー』はPlayStation 4/PC(DMM GAME PLAYER)向けに日本語版が発売中のホラーアドベンチャーゲームだ(Xbox One版は近日配信予定)。90年代のクラシックなホラーゲームを彷彿とさせる、固定カメラの三人称視点と謎解きをベースに、邪悪なオルゴールとメロディの謎を解き明かしていく。「それ」と呼ばれる未知の存在との対峙と、一度失ったキャラクターは二度と戻ってこない、パーマデスの採用による緊張感が特徴だ。
本稿では、スペイン・マドリードを拠点に活動する、『ソング オブ ホラー』開発元Protocol Gamesの開発メンバーにメールインタビューの機会を頂いたので、その内容をお届けする。
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――ゲームや映画、小説など、媒体を問わず開発に影響を与えたコンテンツはありますか。
『ソング オブ ホラー』は、ゲーム、文学、映画など、あらゆる分野におけるホラージャンルへの情熱を表現した創作物です。そのため、ゲーム内にはさまざまなホラー作品へのレファレンス、ホラー作品から影響を受けた要素が含まれています。
もっとも影響を受けたのは、90年代のホラーゲームでした。『ソング オブ ホラー』には、『アローン・イン・ザ・ダーク』『サイレントヒル』『零』『バイオハザード』など、サバイバルホラージャンルにおけるクラシックな名作のオマージュが含まれています。また、ラヴクラフトやエドガー・アラン・ポーなどの古典的な作家からも影響を受けています。ラヴクラフトの人知を超えた宇宙的恐怖から、日常生活のなかで生み出される心理的な恐怖まで、代表的な作家たちが作品の中で伝えてきた物語の本質を捉えようとしました。
――クラシックなホラーゲームからの影響が見られますが、個人的に近年のホラーゲームで注目している作品はありますか。
最近では、ホラーのさまざまなサブジャンルを代表するゲームがたくさん出てきており、嬉しく思います。また、『Dead by Daylight』のようなオンラインホラーゲームが、ファンから多大な人気を集めることに成功している点にも驚いています。
ただ、我々はクラシックな三人称視点のホラーゲームの大ファンであり、それがもっとも好きなジャンルでもあります。最新の『バイオハザード』作品のような、一人称視点のホラーゲームにも触れていますが、私たちが情熱を注いでいるのは、今も変わらずクラシックな三人称視点ホラーです。
――ホラーゲームにおけるパーマデスの採用は珍しいものです。パーマデスにした理由を教えてください。このシステムによってどのような効果があると考えていますか?
パーマデスによって、プレイヤーにリアルな恐怖と心もとなさを味わってもらうことを目指しました。13人の登場人物は皆、長所も短所もある普通の人間です。彼らは自分たちの想像や理解を超えた超自然的なものに立ち向かわなければなりません。
悪い選択をした場合の結末はひとつであり(すなわち「死」)、間違いを犯せばペナルティが課せられ、リアルな喪失感を覚えることになります。また、キャラクターごとに、その人の意見や過去の経験に基づいて、置かれた状況や見つけたアイテムに関する独自の、異なる情報を得ることができます。使用するキャラクターによって話の見え方が変わるのです。そうやって背景を知り、好きになったキャラクターを失った場合、より強い喪失感を感じることができるでしょう。パーマデスは、よりプレイヤーをストーリーに没頭させ、主人公たちの弱さを感じさせ、つまり本当の恐怖を体験させるのに役立つと考えています。
――緊張感を高める緩急のついたサウンドが素晴らしかったです。こだわりを教えてください。
ありがとうございます。本作ではサウンドを重要視しており、物語を彩るうえでも、緊張感ある瞬間を演出するうえでも欠かせない要素となっています。
一般的に、音楽はゲーム全体を通してプレイヤーを導くものであり、感情を伝えるものでもあります。ゲーム中の緊張感のある部分では、その緊張感を強調することができます。また、ある場所から別の場所に移動するという小さな変化だけで、その新たな環境に対する感情や期待を喚起させることも重要です。そのため、プレイ中のあらゆるサウンドについて細心の注意を払っています。
また本作では、高度なAIによって制御され、プレイヤーの行動に順応して追い詰めてくる謎の存在「それ(Presence)」も重要な要素となっています。 プレイヤーごとにゲームプレイ体験がまったく異なるものになるよう、「それ」に力を注ぎました。最終的な結果にはとても満足しています。「それ」がいることで、プレイヤーはいつなんどきも油断できません。
もうひとつの重要なポイントは、プレイヤーの心をつかみ、もっと知りたいと思わせるようなナラティブをつくることです。そのため、ただストーリーが進むだけでなく、ロケーションも変化するようにしました。謎のアンティークショップ、忘れ去られた修道院、廃墟となった精神病院など、さまざまな場所を訪れることになります。
――本作の開発は長期間に渡ったと思いますが、エピソードを重ねるごとに開発体制、チーム人数などは変わっていきましたか。
開発チームのコアメンバー4人は昔から変わっていません。
<コアメンバー>
イグナシオ・フェルナンデス / Ignacio Fernández(ゲーム&アートディレクション、ゲーム&レベルデザイン)
カルロス・グルペリ / Carlos Grupeli (脚本、プログラミング、ナラティブ&システムデザイン)
デビッド・ナバーロ / David Navarro (3D&環境アート、キャラクターデザイン&モデリング、2Dアート)
ルイス・ヘルナンデス / Luis Hernández (プログラミング、サウンドデザイン&ミキシングツール、UI/ UX)
2014年の時点で、すでにいくつかのアイデアがありました。私たちはビデオゲームへの情熱を共にする高校時代の友人同士で、ビデオゲームの制作を夢見ていました。スタジオを正式に設立し、『ソング オブ ホラー』の制作を開始したのは2015年です。ゲームの開発には、外部の協力者の方々にもご協力いただきました。何年も悪戦苦闘した末に、パブリッシャーのRaiser Gamesがプロジェクトに参加してくれて、共に当初の構想通りのゲームを完成させることができました。
ゲームの開発に関しては、ストーリーは最初から決まっていました。ゲームのコンセプトは進化していきましたが、オルゴールや超自然的な存在、複数のキャラクターから選択できることなど、いくつかの核となる要素は、最初から決まっていました。
――ひとつ前のエピソードに関するプレイヤーからのフィードバックを、次のエピソードに活かす、といった対応はおこなっていましたか。もしあれば、どのようなフィードバックを取り入れていったのか、教えてください。
※本作は海外リリース時、エピソードごとの分作として販売されていた。
私たちはコミュニティの意見を知りたいと思っており、フィードバックを熱烈に歓迎しています。フィードバックは、ゲームの改善に役立つ、非常に貴重なものです。すべての意見をゲームに反映できるわけではありませんが、フィードバックを取り入れた例としては、パーマデスがオフになる「E.T.A.ホフマン」難易度が挙げられます。ユーザーの中には、殺されてもキャラクターを失うことなく、同じキャラクターで再挑戦したいという人もいます。パーマデスは、物語やゲームが伝えたいことにとって重要であると考えています。とはいえ、パーマデスを望んでいないユーザーの体験を向上させる余地があると思い至り、パーマデスがオフになる難易度を実装しました。
――現時点で次回作や追加エピソードの構想はありますか。
『ソング オブ ホラー』のストーリーには終わりがありますが、さらに発展させて別の視点から体験し得る部分があるのも事実です。今のところ続編の予定はありませんが、多くのファンの方から要望をいただいていますので、その期待に応えることができれば良いなと思っております。
――ありがとうございました。