PS4/Switch立体重力パズル『マニフォールド ガーデン』は7年をかけて作られた。長期間にわたる開発の苦しみと生みの喜び

無限に繰り返される神秘的なデザインが特徴の一人称パズルゲーム『Manifold Garden(マニフォールド ガーデン)』。7年をかけて開発された同作の開発エピソードを、制作者のWilliam Chry氏に訊く。

ひと目見て心奪われるような、無限に繰り返される神秘的なデザインが特徴の一人称パズルゲーム『Manifold Garden(マニフォールド ガーデン)』。同作のPS4/Nintendo Switch版が、5月20日に弊社アクティブゲーミングメディアのパブリッシングブランドPLAYISMより発売される。パッケージ版が現在予約受け付け中だ。


『マニフォールド ガーデン』は、一人称視点パズルゲームだ。プレイヤーは、現実ではあり得ない重力と空間にて構成された、まるでアート作品のような世界の中でパズルを解いていく。ステージとなるのは、真っ白な空間に浮かぶ幾何学的なデザインの巨大構造物。上下左右あらゆる方向に同じ構造物が存在し、構造物から飛び降りると元いた構造物へと落下する、不思議な無限空間である。プレイヤーはさまざまな構造物を進む中で、スイッチを押したり、アイテムを特定の場所に運んだり、あるいは水の流れを操作して木を成長させたりなどの、シンプルではあるが頭をひねるパズルに挑む。
【UPDATE 2021/3/26 11:10】
ゲームの紹介文を追記


『Manifold Garden』は、アーティストとしてのバックボーンを持つWilliam Chyr氏の手によって7年という長い開発期間を経てリリースされた。そして、メタスコアは85点を記録し、2019年には9以上のアワードにてノミネートされるなど、高い評価を受けている。本稿では、そんな『Manifold Garden』のデベロッパーWilliam Chry氏本人に、本作についての話を聞く機会に恵まれたので、インタビュー内容をまるごとお届けする。

William Chry氏


――『Manifold Garden』開発の出発点について教えて下さい。何がきっかけで開発が始まって、どうしてゲームという媒体を選んだのでしょうか?

William氏:
この話は2012年頃まで遡るのですが、当時私はインスタレーションアーティストとして活動していました。風船で作ったアートを美術館や科学館などに提供したり。仕事自体は順調だったのですが、何か新しいことに挑戦したいという気持ちはずっと燻っていました。「風船の人」から脱却したかったんですね。ちょうどその頃友人と一緒に「Indie Game: The Movie」というドキュメンタリー映画を観ました。彼はインディーゲームが好きで、私に『Braid』『FEZ』『Journey』(邦題:風ノ旅ビト)といったゲームを紹介してくれました。私は学生時代に物理学を専攻していて、そして短い間ですが広告業界で働いた経験もあります。つまりプログラミングとデザイン、どちらの経験もあるわけです。

そこで思ったんです。ゲーム開発の要素のうちアート、デザイン、プログラミングは経験済なわけですから、そこまで苦労せずにゲームを作れるんじゃないか?と。そうして、試しに数か月ほど取り組んでみようと思いゲーム制作を始めました。元々はシカゴを舞台にしたタイムトラベル要素のあるオンラインゲームを作りたかったのですが、さすがに大変そうだと感じたのでまずはUnityの練習も兼ねてもっと小規模なプロジェクトを始めることにしました。3か月くらいで終わらせるつもりのプロジェクトだったのですが、これが後の『Manifold Garden』になりました。3ヶ月で終わる練習プロジェクトのはずが、結局7年かかりました。


――7年もの制作期間の中で、開発環境や開発チームなどはどのように変化していきましたか?

William氏:
ゲームのクレジットには大体40~50人くらいいたと思うんですが、もちろん最初からその規模で開発していたわけではないです。最初の3年は私だけでの開発でしたね。特に業界の知り合いがほとんどいなかったので……。私はシカゴ在住で、シカゴにはそこまでインディー開発者がいたわけではなく。いくつかのイベントで他の開発者と知り合う機会がありました。2014年にはGDC(Game Developers Conference)に初めて参加し、そこでさらに多くの人と知り合うことができました。

2015年にはイベントでIndie Fundと話をする機会もあり、資金援助をいただきました。そしてこの頃から開発に人を招くようになりました。問題はその頃の私には十分なお金がなく、また他人と一緒に開発することに不慣れだったことですね。新しく来た人も2~3か月で辞めていってしまい、入れ替わり立ち替わりで常に2~3人くらいのチームでの開発でした。それが2年くらい続きましたね。そして2017年、その頃私はグラフィックプログラマーを探していたんですが、エンジニアのArthur BrusseeがTwitter経由で連絡してくれました。

チームに加わった彼とは、結局『Manifold Garden』のリリースまで一緒に開発することになります。最終的な『Manifold Garden』開発チームのコアメンバーのうち、最初の一人がこのArthurですね。Arthurが加わって以降は長期的なチームメンバーもどんどん増えました。サウンドデザイナー、コンポーザー、プログラマー、プロデューサー……みんな2018~2019年の時期に参加していますね。まとめると、2012年から最初の3年は私が一人で開発。そこから2年くらいはチームの入れ替わりが激しい時期で、そこでチームメンバーと上手にやっていく方法や、マネジメントのコツなどを学びました。

2017年からは徐々にチームメンバーが増えていき、最終的に『Manifold Garden』をリリースした時のコアメンバーは大体8~9人でしたね。リリース直前には各コンソールやプラットフォームの担当者、QA、プレスやマーケティング関連などで30人くらいと交流があったと思います。そして一段落ついた今の開発チームメンバーは5人ですね。


――最初の3年は一人で開発していたというのはちょっと意外でした。もともとは数か月で終わらせるつもりの練習プロジェクトだったんですよね?何がモチベーションとなって3年も続いたのでしょうか?

William氏:
「あと2か月でリリースできる」と自分に言い聞かせて続けていたのが一番大きかったと思います。開発を始めた2012年には25歳だったのですが、当時の私に「そのプロジェクトは7年かかるよ」と教えたら投げ出していたと思います。その頃のわたしはそこまで我慢強い方ではなかったので……。でも最初の3年はずっと「あと2か月で仕上がるから、そしたらリリースだ」と思い続けていたんですよね。短期的な目標を設定しては延期することの繰り返しを続けていた感じです。とにかくもうすぐリリースだとずっと思い続けてたのが、モチベーションになっていたと思います。

――何がきっかけで一人での開発をやめて、開発メンバーを増やすことにしたのでしょうか?

William氏:
2015年くらいからゲームのすでに出来上がっている部分でもいくつか作り直したい箇所が出てきて、自分一人ではさすがにちょっと手が回らないという感覚がありました。その頃から人の手を借りるようになったのです。……が、さきほども言ったように最初は全然上手くいきませんでした。このプロジェクトは自分の能力を証明するためのものであって、基本的には自分が全てをこなさなければならないという思いがありました。やはり2017年のArthurの参加が大きなターニングポイントですね。彼のインプットによってゲームが劇的に改善されていくのを感じてからは、スムーズにチームでの開発体制への移行ができたように感じます。

――開発期間中で印象的な出来事などはありますか?

William氏:
もちろんたくさんあります。2014年から2016年の間に30個近いイベントやカンファレンスに参加しました。月に1度くらいのペースですね。GDCにも行きましたし、E3にも行きました。2016年の東京ゲームショウにも行きましたよ、とても良い経験でした。これらのイベントひとつひとつで色んな人と知り合い、話をして、シカゴに戻ってその内容をゲームに反映しました。なにか1つ印象的な出来事を選ぶとなると難しいですが……、ラスベガスのPSX(PlayStation Experience)でJonathan Blow(『Braid』や『The Witness』のデベロッパー)と会って話をしたのには非常に大きな刺激を受けました。彼は私のゲームに興味を持ってくれて、当時のビルドを送るとたくさんのフィードバックをくれました。今考えると、私のような若くて未経験の開発者に『Braid』のデザイナーがフィードバックをくれるだなんてありがたい……とても贅沢な経験で、印象に残っています。

『The Witness』


――7年もの開発期間で、開発環境だけではなくゲームそのものも変化していったと思います。たとえばタイトルなんかも最初は『Manifold Garden』ではなく『Relativity』でしたよね?

William氏:
そうですね。開発を開始した当初、私はゲームというものを10年近くプレイしたことがありませんでした。小中学生の頃にはNINTENDO64を持っていてプレイしていましたが……14歳頃からはぱったりとやらなくなっていました。

ゲームを作りたいと考えるようになってからまたプレイするようになったのですが、その時最初にプレイしたゲームのうちのひとつが『Portal』でした。なので、最初期のゲームデザインは『Portal』に大きく影響を受けたものです。ポータルガンに相当するギミックをひとつ考えて、それを使うステージを10個ほど作って、最後に大きなステージを一つ用意する感じのゲームです。私は物理学専攻なので数学のテキストなどでエッシャーの作品はよく目にしていましたし、当時観た映画「インセプション」にもエッシャーのモチーフが散りばめられていました。「インセプション」にはパリの街が突然半分に折れ曲がって、壁を上に歩き始めるシーンがあるんですよね。あれを見て「これをゲームのコアギミックにしよう」と思いました。重力を操って、地面が入れ替わるゲームです。そしてエッシャーの作品『Relativity』(相対性)がまさにそういう作品ですので、それをそのままゲームにしようとしました。なので、最初は『Manifold Garden』に見られるような特徴的な建築デザインや無限ループ、そして「庭」といった要素はなくて、重力の方向を操るだけのゲームでした。

ですが開発期間中に色んな新しいアイデアやギミックがゲームに取り入れられていって、もうほとんど別物と言っても差し支えないほどゲームは進化していて、そこで「なんで10分くらいで考えついた最初の名前をいまだに使っているんだろう」って思ったんですよね。とはいえ『Relativity』という名前で今まで通してきましたし、たとえば東京ゲームショウなんかもそのタイトルのまま参加したわけですから……悩む部分ではありました。でも結局『Relativity』という名前が、どうしても今自分達が作っているゲームを正確に表しているように感じられなくなってしまった。『Relativity』というのはこのゲームのギミックのことですから、なんというかこのゲームを『重力操作』と呼んでいるのとあまり変わらないのではないかと。

重力操作以外にもさまざまな要素が増えた今のこのゲームには『Manifold Garden』の方がもっとふさわしい名前だと感じました。Manifoldというのは「多くの」「多様な」のような意味ですから、フィットしていると思えましたし、数学的な観点でもふさわしい単語です。ちょっと言葉で説明するのは難しいのですが、Manifoldというのは数学では多様体という意味もありまして、『Manifold Garden』の世界は三次元トーラスで、全方向で無限に繰り返すので……とにかく、数学用語としてもぴったりなんです。


――ゲーム内に登場するキューブや樹といった小道具に、モチーフなどはありますか?

William氏:
droqen氏というデベロッパーが作った『Starseed Pilgrim』というゲームがありまして、『Manifold Garden』はそれに大きく影響を受けています。実はdroqen氏は2019年に開発チームにも加わっていて、エンディングの制作に関わっています。キューブに関しては最初からあって、スイッチに入れるとドアが開くという、まあどのゲームにもあるようなありがちなギミックですね。樹の方は最初はどちらかというと目印のような存在で、プレイヤーが樹を見かけたらそっちに向かって行くような、動線誘導のためのものだったんです。キューブのディスペンサーも別に用意する予定だったんですが、途中からどうにかして樹とキューブを組み合わせられないかと考え始めました。イベントでゲームのデモを披露していた時だと思うんですが、誰かから「キューブを樹の種や実のように扱ったらどうだ」というアイデアをもらって、良さそうだなと。そこから徐々に今の形になっていきました。

――『Manifold Garden』の開発で、William氏が最終的に担当した部分はどこですか?

William氏:
レベルデザインは基本的にすべて私がやっていて、アートスタイルに関しても私が方向性を決めました。私の好きな二人の建築家にフランク・ロイド・ライトと安藤忠雄がいて、『Manifold Garden』の建築デザインはこの二人に大きな影響を受けています。安藤忠雄の作品をスケールアップさせたような、ブルータリズム的なデザインに、フランク・ロイド・ライトの作品のような複雑な意匠を組み合わせたものを目指しました。

『Manifold Garden』のゲーム内には人間や人間を模したオブジェクトは登場しませんから、こういった細かいデザインや意匠がサイズ感を演出するのに大切です。なので、私の担当はこういったアートスタイルやデザインの方向性の決定と、パズルのレベルデザインになりますね。もちろん最初の3年は私がプログラミングなどもすべてこなしていましたが、それは徐々に他の人に任せるようになりました。サウンドに関しても私は一切制作していません。サウンドデザインはMartin Kvale、コンポーザーはLaryssa Okadaがそれぞれすべて担当しています。開発終盤に近づくにつれて私の役割はどちらかというとディレクションがメインになり、あとはレベルデザインに集中して取り組んでいたと思います。


――『Manifold Garden』は最初Epic Gamesストアの専売タイトルとしてリリースされましたが、これはどういう判断だったのでしょうか?

William氏:
最初のリリースはEpic GamesストアとApple Arcadeの同時リリースだったのですが、これはスタジオの安定のための判断でしたね。インディーゲーム業界というのは何が起こるのか、何がヒットするか予想するのは難しいですから。7年も開発を続けていて、資金が潤沢というわけではありませんでした。開発チームも給料が出ているというわけではなく、レベニューシェアという形での契約でした。スタジオの安定、特に投資してくれた人や開発に携わってくれた人にきちんとお金を返せること。これが私にとって最優先だったということです。

――リリースの感触はどうでしたか?プラットフォームによる違いなどは感じましたか?

William氏:
2019年10月にEpic GamesストアとApple Arcade、2020年8月にNintendo Switch、PS4、Xbox Oneなどのコンソール版、そして2020年10月にSteam版という順番でリリースしていきました。Apple Arcadeはやはり特殊なプラットフォームで、サブスクサービスであることに加えて、Mac OS、iPad、tvOSなどのクロスプレーが前提になっているのも技術的に難点ではありました。セーブデータの移行等はもちろん、タッチ操作、キーボード/マウス操作、コントローラー操作のすべてに対応している必要がありました。

リリースの感触自体は大成功だったと感じています。好意的なレビューをたくさん頂いていますし、Metacriticでも評価されています。特にSteamで高評価なのは大きくて、現時点でレビュー数1500、「圧倒的に好評」を頂いています。プレイヤーやレビュアーがゲームを楽しんでくれているというのは非常に励みになります。資金繰りもかなり安定しましたので、開発を継続してバグフィックスのアップデートなどにも取り組めていますし、次の作品について考える余裕も出てきました。私の生活自体もかなり変化しましたね。前はレベルデザインとにらめっこする毎日でしたが、今はミーティングやカンファレンスに出て、スプレッドシートとにらめっこする毎日です。そして私にとって一番大きな変化が、昔は「ゲーム」を作っていたのが今は「開発スタジオ」を作っているということですね。

――ユーザーからの反応やフィードバックで印象に残っているものはありますか?

William氏:
ユーザーからはたくさんの好意的なフィードバックをもらっています。特に『Manifold Garden』で感動を受けた、インスピレーションを受けたといったメッセージやメールをいただくたびにとても嬉しく思っています。あとは、よくTwitchで『Manifold Garden』をプレイするストリーマーを見に行ったりもしています。実を言うと今から変更したり手を入れたりしたいステージやパズルは結構あったりするんですが、たぶんあまりそういった調整はしないと思います。完璧なゲームではないですが、そういう部分も含めて今の『Manifold Garden』が成立していると思うので。

人が自分の作ったゲームをプレイするのを見るのは、これはこれでなかなか勉強になっています。開発チームは合計で2000時間近いプレイテストをして、あらゆる方法でパズルを解いたつもりですが、それでも配信を見ていると我々の気付かなかったような新しい方法でパズルを解く人がいて驚きます。特に驚いたのは、やはり『Manifold Garden』のスピードランを観た時ですね。実はAGDQ(Awesome Games Done Quick)で『Manifold Garden』を走ったスピードランナーがいたんですが、10分くらいでクリアしてしまうんですよ。正直に言って、信じられなかったです。自分の作ったゲームについて隅々まで知り尽くしているつもりでしたが、スピードランナーたちはさらにその上をいっていました。

※ ネタバレ注意

――『Manifold Garden』のスピードランコミュニティと交流したことはありますか?

William氏:
Discordサーバーがあって、そこで話をしたりはしますね。スピードランナーたちは自分達にとって有利に使えるゲームのバグなんかを見つけたりしますが、99%のプレイヤーはそんなバグには気付かないし、ましてや利用なんてしませんから、そういったものは修正しないようにはします。まあ彼らは彼らで好きにしてもらえれば、と。実はスピードラン動画に対して「開発者の反応」的な動画を作ったことがあるんですよ。実際のスピードランを観ながら私が開発者視点でコメントをしたりしています。これもなかなか面白い経験でした。

※ ネタバレ注意

――音楽や効果音も素晴らしいゲームですよね。音関連はどういう開発経緯がありましたか?

William氏:
効果音はMartin Kyale、BGMはLaryssa Okadaが全て担当しています。先にチームに加わったのはMartinですね。Martinとの共同開発は実は最初は難航していて、というのも当時の私は自分一人で開発するのに慣れきっていて、チーム内でのコミュニケーションを取るのがあまり上手くなかったんですね。Martinが提出してくるものが私のイメージしていたものと違うので、衝突することもしばしばでした。Martinだって、私の頭の中を直接覗けるわけではないですからね。コミュニケーションの問題でしたし、Martinと一緒に開発を進めることで私も徐々にチームで開発するノウハウを獲得していったと思います。

最終的には私もMartinを信用していて、彼に判断を任せることも多くなりました。たとえばゲーム内でキューブを持ちながら階段を登っていて、キューブが階段に当たると独特の衝突音、効果音が鳴るんですよね。これは元々Martinのアイデアで、私はあまり気に入っていませんでした。ですがこれはプレイヤーの間では好評で、さきほど話に出したAGDQでのスピードラン配信なんかでも「このゲームで一番好きな効果音がこれだよ」なんて言ってわざわざ注目して聴くように仕向けたりしていました。『Manifold Garden』の世界は極めて非現実的ですから、ゲームに登場する建築物やオブジェクトがどういう音を鳴らすかに関してはかなりの自由度があります。木造でもないし、別にコンクリートというわけでもないし、なんというか現実の物質で構成されているわけではないので、どんな音が鳴ってもいいわけです。なので、逆に難しかったと思います。最終的には、『Manifold Garden』の世界を歩き回るだけでまるで楽器を鳴らしているような、そんな雰囲気を出したいというのが全体を通してのサウンドのテーマになりましたね。

BGMについては、まずTwitterでコンポーザーの募集をかけました。すると300件近い返事があったので、全員分のポートフォリオを聴き込みました。可能な限り全員ですね。ファイルにパスワードがかかっていて聞けなかったりした人はいましたが。それで、Laryssaの曲がとても印象に残りました。この募集をかけるまではLaryssaのことは知らなかったんですけどね。結局候補としてはLaryssaも含めた3人にまで絞って、そこで何人か友人にも相談したら全員口を揃えて「Laryssaがいいだろう」と。

Laryssaの音楽には大きな感情が込められています。当時『Manifold Garden』が抱えていた問題として、ゲームの雰囲気があまりにも冷たすぎるという懸念がありました。機械的で無機質な印象のゲームで、誰かに「Manifold要素が多すぎて、Garden要素が足りていない」とも言われました。当時のこのゲームの問題点をよく言い表していると思います。格好いいデザインや建築には満ち溢れていますが、なんの感情も呼び起こさないのです。ですので、Laryssaの音楽が必要だと感じました。彼女の音楽で、ゲームにとって足りないピースがちょうどハマりました。当初は、BGMは合計でも40分程度を想定していて、私自身あまりBGMがほしいとは思っていませんでしたが、Laryssaが最初に仕上げてきた曲を聞いて意見を変えました。蓋を開けてみれば合計4時間近いボリュームのBGMが用意されることになりましたね。

――『Manifold Garden』に関して今後アップデートでコンテンツを追加する予定などはありますか?続編や今のチームで新作を作る予定などはどうでしょうか?

William氏:
バグ修正に関しては今後も継続していく予定ですが、コンテンツの追加に関しては特に予定はありません。続編についてもちょっと分からないですね。このゲームの開発は2012年に始まって、今はもう2021年なわけですから……『Manifold Garden』に10年近く費やしてきたことになります。また何か新しいことにチャレンジしたいという気持ちがあります。今は開発チームがいますから、彼らと一緒に今後も何かを作っていければとは思っています。新作についても検討していますが、今アナウンスできるようなものは何もないです。開発中は「このプロジェクトが終わったらゲーム開発からは離れるかもしれない」というようなことを何度か言ったと思いますが、今は続けていきたいと思っています。

――最後に、日本のプレイヤーに向けて何か一言あればどうぞ。

William氏:
日本のみなさんが『Manifold Garden』を遊んでくれることをとても楽しみにしています。最近はPLAYISMと一緒にパッケージ版のデザインを検討していて、とても素晴らしいものが出来上がったと思っています。特典としてオリジナルサウンドトラックCDと特製のマスキングテープがついてくるんですが、このテープが『Manifold Garden』のテーマにぴったりなデザインとなっています。

――本日はありがとうございました。

Manifold Garden』国内向けPS4/Nintendo Switch版は、5月20日リリース予定。パッケージ版は現在予約受け付け中。PC(Steam/Epic Gamesストア)やApple Arcade向けにもリリースされている。なお画像の下部分に、ネタバレ回避のためエンディングについての質問と回答を記載している。クリアしたプレイヤーは読んでみるといいだろう。



















――『Manifold Garden』といえばエンディングが非常に印象的です。あれは一体どういう経緯で作られたものなんですか?

William氏:
そうですね、あのエンディングは開発の最終盤で完成したもので、かなりの難産でした。『Manifold Garden』には次元を越えた旅、のようなテーマがありますから、ゲームの終わりにはプレイヤーが次元を超越したような、超越的な存在になったようなフィーリングを与えたいと思っていました。それでチームのVFXプログラマーであるSam Blyeに「ここにエンディングがほしい、大体このくらいの尺で、あとはもう自由にやってくれ」と注文したんです。たとえば『2001年宇宙の旅』のエンディングなんかはインスピレーションとしてありましたし、フラクタルやフラクタル構造なんかは『Manifold Garden』の重要のテーマのひとつなので、そういったことは伝えてありました。3次元から4次元へ、そして無限に突入していくような、そういう感触のある映像がほしかったんです。かなり難しい注文だったと思いますが、Samが作り上げたものは素晴らしく、我々の期待に応えるものだったと思います。大体3週間くらいかかったと思いますが、出来上がったものに私は非常に満足しました。もちろんLaryssaによるBGMも完璧にマッチしていて、そういった経緯であのエンディングがあるわけです。

Mizuki Kashiwagi
Mizuki Kashiwagi

PCとPS4をメインで遊んでいます。自分で遊んでも、観戦していても面白いような対戦ゲームが好きで、最近は格闘ゲームとMOBAをよく遊んでいます。

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