『ハースストーン』最大の大会で、日本人のglory選手が世界一の栄光を掴む。賞金は約2000万円

『ハースストーン』の世界大会である「2020年ハースストーン世界選手権」において、日本人選手であるKenta “glory” Sato選手が優勝し、賞金20万ドル(日本円で約2,080万)を獲得した。

『ハースストーン』の世界大会である「2020年ハースストーン世界選手権」において、日本人選手であるKenta “glory” Sato選手(以下、glory選手と表記)が優勝し、賞金20万ドル(日本円で約2,080万)を獲得した。これは5年前にベスト4に進出したKno選手以来の快挙であり、日本人選手としても初の偉業である。

「2020年ハースストーン世界選手権」は12月13日から14日にかけて開催された、『ハースストーン』のeスポーツシーンにおける最大規模の大会である。賞金総額は50万ドル。出場するのは南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋の3つの地域それぞれ16名ずつで構成された公式リーグ「グランドマスターズ」および中国独自の「Gold Series Champions」において、地域ごとに選出された計8名。昨年度には中国出身のプレイヤーLiooon選手が優勝し、女性プレイヤーとしてその強さを世界的にアピールした。


グランドマスターズとは


まずは『ハースストーン』のeスポーツシーンの中心にある公式リーグ「グランドマスターズ」について説明したい。グランドマスターズは先述したとおり南北アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋の3つの地域それぞれ16名ずつで構成された公式リーグである。

今年度は4月から10月にかけて行われた。8週を1シーズンとし、1~3週目は変則スイスドロー形式の対戦を行い、週の末日にトップ8が優勝決定戦を行う。その後、成績順にポイントが振り分けられ、3週で獲得したポイントの合計順によって、上からAとBのディビジョンに振り分けられる。

4週目~7週目は、分けられたディビジョン内で総当たり戦が行われる。その後ディビジョンAから上位6名が8週目のプレイオフに進出。Bは上位4名で予選を行い、うち2名が進出。プレイオフで優勝することができれば、年末に行われる世界選手権への切符を獲得することができる。その一方で、成績下位者達による降格戦も発生。リーグ全体として9名の選手が戦いの場を去る事になる。

なおグランドマスターズのメンバーに加わるには、「マスターズツアー」と呼ばれる世界大会の参加権を獲得し、約300人を超える参加者の中で上位入賞を果たすことで高額賞金を獲得、賞金獲得額で地域別の上位3名に入る必要がある(マスターズツアーに参加するには世界規模で開催される予選で優勝か一定数上位入賞、もしくはランクマッチのサーバー毎のランキングで上位記録者になる必要がある)。さらに詳しいルールについては公式HPを参照してほしい。


栄光へ至るまでの階段

glory選手はシーズン1におけるアジア太平洋地域プレイオフ優勝者として大会に参戦。ルールとしては「4種類のデッキを持ち込み、お互いが相手が持つデッキひとつを使用停止にさせ、先に3本勝利した方が勝ち抜け」である、4Hero1Banと呼ばれる形式で行われた。

初戦はグランドマスターズの中でもっともレベルが高いとされるヨーロッパ地域の代表Jaromír “Jarla” Vyskočil選手と対決。Jarla選手の持ち味である、メタゲームを熟知したデッキ構成の妙技によって破れ去るも、敗者復活戦であるディサイダーズマッチにおいて、前年度世界選手権2位の成績を誇るLuna “bloodyface” Eason選手を相手に見事勝利。その後順調に勝ち星を重ね、決勝にて再びJarla選手と対決。1-1の状況の中、前回の敗因であった一撃必殺のコンボを利用するウォリアーデッキが、コンボ破壊を導入したプリーストデッキ相手に勝利を収め、続くJarla選手の一撃必殺コンボ型デーモンハンターデッキに対してもコンボを発動させない絶妙なプレイングによって勝利。一度破れた相手に再び決勝で相まみえ、これを制するという、まるで少年漫画の王道を征くかのようなドラマチックな展開を経て見事「栄光」をその手に掴んだのであった。


glory選手が世界一の称号を獲得し、2000万円プレイヤーとして日本eスポーツの歴史に名を残すことができたのは、2018年のHCTアジア太平洋シーズン1で優勝して以来、安定して好成績を収め続けているその確かな実力にあることは間違いない。だが、日本国内におけるプレイヤーコミュニティの影響を無視することは出来ないだろう。

プレイヤー人口7000万人を超える『ハースストーン』のシーンにおいて、日本はプレイヤーコミュニティの活動が非常に盛んな国のひとつとして知られている。「炉端の集い」というBlizzard公式が提供するファンイベントが全国津々浦々で開催されていることをはじめ、コロナウイルスによってオフラインの集会に制限がある現在でも、『ハースストーン』イベント企画チームBeerBrickを筆頭に、プレイヤーたちが自主的に大会を開き、腕を高め合い、情報を集積し続けている。その草の根活動は結果として現れており、事実グランドマスターズのメンバーには世界一のglory選手ふくめAlutemu選手、Posesi選手と3人の日本人選手が在籍しているほか、参加に伴って非常に狭き門をくぐる必要がある「マスターズツアー」には約20人から30人の日本人が今年度は毎回出場を果たしている。ゲーム黎明期より続くプレイヤーたちの強固な結びつきが、glory選手を栄光へ導くための階段を形作ったこともまた真実に他ならない。

2018年度に優勝したHunterace選手をモチーフにしたカード


ちなみに、世界選手権において優勝したプレイヤーには賞金のほかにも、自身をモチーフとしたカードが来年度発行されるという特典が存在する。一体どのようなイラスト、そして効果を持ったカードになるのか待ち遠しい。加えて現在、『ハースストーン』では新規プレイヤーおよび復帰プレイヤーに対して、スターターセットとしてデッキをまるごとひとつプレゼントするキャンペーンが実施中。これを機に『ハースストーン』に興味を持ったという方はぜひ臆すること無く酒場の門を叩いてほしい。愉快で奥深い世界があなたを待っている。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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