「『ペルソナ3』を配信させてほしい」と90分懇願し続けるVTuberの配信が話題に、「#CallioP3」運動へ発展。ただし一部ファンの暴走に批判も

 

「VTuberの少女がアトラスに対しひたすら拝み倒す」——“90分間”にもおよぶ、ある配信が賛否を招いているようだ。ストリームをおこなったのは、ホロライブプロダクション傘下のVTuberグループ「ホロライブEnglish」に所属する森美声(モリカリオペ)氏。英語でのストリームを中心に活動するほか、今年9月に公開したラップ動画「失礼しますが、RIP♡」は866万回再生される大ヒットを記録。実況配信から音楽活動まで幅広くおこなうチャーミングな死神として人気を集めている。

ただし、そんな彼女が12月3日におこなった配信動画は多くの視聴者を困惑させるものだった。約1時間半におよぶストリーム枠の中で彼女は、ゲームもしなければ歌声も披露しない。ただ、どアップの画面で熱心に何かを語り続けているのだ。配信のタイトルは「【ATLUS, PLEASE LET ME PLAY PERSONA 3】please. 」。実は森氏は英語で、延々と「『ペルソナ3』のプレイ配信を許可してほしい」と日本のアトラスに向けて訴え続けているのである。
 

https://youtu.be/vXysv-_1X6w

 
というのもアトラスは、実況者による同社のゲーム配信やネタバレ全般に対し厳しいスタンスをとることで知られている。代表的な例は『ペルソナ5』だろう。動画掲載サイト・生放送動画・Twitterでの動画公開およびツイートについて、ネタバレにあたる箇所の取り上げを自粛するようにユーザーへ呼び掛けた。その指定範囲はというと、「オープニング以外のすべて」という大規模なもの。その後海外では多少範囲が緩くなっていたものの、アトラスの厳しい規制方針に対してはSNSを中心に、大きな反対運動が生まれた。騒動の末、最終的にはアトラスが謝罪しゲーム内の11月19日までの配信が許可されるようになった(関連記事)。

『ペルソナ3』に関していえば、2006年の発売からかれこれ14年の歳月が流れ、はっきりとしたネタバレ禁止令があるという点でいえば曖昧。とはいえアトラスの従来の態度、とりわけ『ペルソナ』シリーズにおけるネタバレ自粛の風潮を踏まえれば、おいそれと配信することは気が引けるものだろう。こうした状況を踏まえ、森氏はいかに同作の実況プレイを実現するか策を巡らせたのだろう。その結果が90分間におよぶ「懇願配信」。見ていて気恥ずかしくなるほどの距離でアトラスに頼みこみ倒す動画は、キュートながらも狂気を感じさせる。こうしたシュールな絵面が海外ユーザーの笑いを誘い、ファン同士のTwitterでは「#CallioP3」のハッシュタグが流行。草の根的に、アトラスへ配信許可を願う運動が活性化したのだ。
 

https://twitter.com/sakuuremi/status/1334584304630779904

 

 
海外では一躍センセーションを起こした#CallioP3運動だが、日本ユーザーの視線は冷ややか。その一因は熱気を帯びた一部ファンの行動にある。実は少なくない数のユーザーが#CallioP3のタグを使用すると同時に、アトラス公式Twitterアカウントへ“直接”リプライを飛ばしているのだ。一部ファンの暴走が企業を圧迫しているとして、行き過ぎた応援活動を批判する声も根強い。「森氏がファンを扇動し、アトラスへけしかけた」と捉えて痛烈に非難する向きもあるようだ。

実際には、森氏はストリーム内で「アトラスに直接メッセージを送って迷惑をかけることはしないように」と明言している。自身のアカウントで#CallioP3を含むツイートをリツイートしているものの、ファンアートを紹介するのみにとどまり、アトラスにリプライを送るといったツイートを直接支持はしていないかたちだ。今回の騒動は、一部のマナーを守らないファンの行為が火種となったケースといえる。森氏本人からは、配信直後の締めくくりツイート以降は本件に触れられていない状況。現在の状況を踏まえて、今いちど彼女がどのような動きに出るか注目したいところだ。

なお海外メディアPolygonは本件についてアトラスに問い合わせを送っている。アトラスの広報によれば、同社側で#CallioP3のハッシュタグを確認したことではじめて森氏の懇願について認識したという。またアトラスとしては、森氏のプレイを拒否したという事実は確認されていないとのこと。少なくともアトラスが森氏の『ペルソナ3』配信をかたくなに拒んでいるわけではないようだ。

また先述の『ペルソナ5』の件から「とにかくネタバレに厳しいアトラス」とのイメージが根強くもたれているものの、実際のアトラスは徐々にネタバレに対する態度を軟化させている。たとえば今年から配信開始したSteam版『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』に関して見てみると、「エンディングの動画配信」のみを控えるように呼びかけるマイルドな要請に。『ペルソナ5 スクランブル』についても、配信禁止区間が定められているものの、ラストダンジョン以外はほとんどシェア可能な範囲だという(するめ以下マン氏によるnote)。アトラスとしても、ユーザーに対する信頼の委ね方と新規プレイヤーに対する配慮に苦慮しているのだろう。ネタバレの是非については古今のゲームで議論が絶えず、今後も何かと火種は出てきそうだ。