『鉄拳』『ストリートファイター』『シェンムー』そして『ドラクエ』…国内で「Unreal Engine 4」旋風を巻き起こすEpic Games Japan代表 河崎 高之氏に訊く
『鉄拳7』『ストリートファイターV』『シェンムー3』『キングダムハーツIII』、そしてPS4版『ドラゴンクエストXI』。これらはいずれもEpic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 4」を採用し開発が進められているタイトルだ。かつて『Gears of War』や海外デベロッパー製タイトルのエンジンという印象が強かったUnreal Engineは、いまや国内のトリプルA級タイトルでも続々採用されている。この仕掛け人に当たるEpic Games Japan代表の河崎 高之氏に、日本市場での展開など、ここ最近のUnreal Engineの動きについてお聞きした。
――6月のE3以降、ひっきりなしにUnreal Engineの名前を聞いてきたように思います。さまざまなタイトルに採用されていましたね。
河崎 高之氏:
E3では『シェンムー3』が発表になりました。E3で発表かどうかはうかがっていなかったので、ソニーさんのイベントで初めて見て、僕もちょっと驚いたというか、知らされていなかったのでもう発表するんだと。『ドラクエXI』は夏頃に、というのがだいぶ前から決まっていました。
――E3で登場した『シェンムー3』ですが、どういった経緯でUnreal Engine 4の採用が決定したんでしょうか。
河崎氏:
『Mighty No.9』という稲船さんのタイトルがKickstarterを利用されているんですけども、Kickstarterを使ってお金を集められるなかで、Unreal Engineも宣伝材料の一つとして押し出していただいたんですね。そのご縁があって、『シェンムー3』でもUnrealを出していきたいというご要望がありました。
あとはやっぱり、『シェンムー』という物量的にも大きなタイトルを、今回は前2作と比べるとかなり限られた予算でやらなければならない。そこで鈴木祐さんのこだわっているところ、大事にされているというのが、いかに効率を上げてモノを作れるかというところでした。いろいろなエンジンを試されたらしいんですけど、やはりUnrealならイテレーション(短く反復する作業)がすごく早く回せると。それとやはり表現力ですかね。その二つで選んでいただいたという風には、ご本人からうかがっています。
――Unreal Engine 4は今年のGDCで「Kite」のデモを公開して、オープンワールド作品での利用を強く推していますよね。実際にインディーゲームでも、『ARK: Survival Evolved』ですとか、『Downward』ですとか。あらためて、UE4をオープンワールドゲームで使用する利点はどこにあるでしょうか。
河崎氏:
「Kite」の場合には10マイル×10マイル、16キロメートル四方で、山手線のなかと同じぐらいの面積をデモでは表現しているんです。それだけ大きな空間をメモリで保っておける、動かせるというのを可能にしている技術の部分ですね。
あとは「Kite」ですごく皆さんから注目していただいたのは、作る過程です。あれって、実際にニュージランドとスコットランドへロケに行って撮影して、それからテクスチャとかモデルを起こしているんですね。特徴的な岩だとか地形っていうのは、実際の写真を撮ってきて、それからテクスチャやモデルを組んだりしている。100マイル四方の面積をぜんぶアーティストが手で組み上げて描いていると、ものすごく工数がかかってしまいます。でもそれを、イメージに近いところでロケをして、それを制作のパイプラインに落とし込んでいる。物量を抑制しつつ、広い世界を作れるって意味では、すごく皆さんからご注目いただきましたね。その辺りも強みというか、比較的小さなチームでも大きなワールドを作っていただける秘訣なのかなと思います。
――先ほど挙げた『ARK』ですが、今年7月からModの配信がスタートしました。『ARK』はUnreal Engine 4製のタイトルで、さらにModの制作ツールもUE4のエディターをベースにしていると聞いています。
河崎氏:
フリー版Unreal Engine 4のエンドユーザー契約に含まれる形にはなっているんですけども、Unrealのエディターを実際にゲームの中に組み込んで、まさに『ARK』のような形 で再配布してビジネスやっていただいていいですよ、という条項が新しく入っています。それの第1号のような形ではありますね。
『ARK』の場合には、もともと彼らもすごく小さなチームで、うちのサンプルから派生する形で作っていました。だからうちの本社の人間ともある意味すごく距離が近くて、ずっとお話してたっていうところではありますね。
――今後、Unreal Engine 4製のタイトルは、ああいう形で簡単にModツールを提供できそうですね。
河崎氏:
そうですね。PCの場合だと、ああいう形はまったく問題なくできます。前回のインタビューでもお話したかと思うんですけども、やっぱりUnreal Engine自体が、そういうMod文化から育ってきたというところがあります。うちの本社のエンジンを作ってる人間たちからすると、そういうModを作る文化っていうのが、最近はちょっとコンソールが盛り上がるにつれて若干元気がなくなってきたというか。メインから外れつつあるようなところはあるので、そこをもう一度盛り上げたいという気持ちは、技術者の方には強くあるようです。
――PS4版『ドラゴンクエストXI』にて、Unreal Engine 4を採用することが今年9月に明らかされました。スクエニは『キングダムハーツIII』でもUE4を採用していますが、その流れで今回も決定したのでしょうか?
河崎氏:
前回のインタビューで、夏以降に大きなタイトルが、みたいなお話をさせていただきました。それとまったく別件ですが、『ドラクエXI』プロデューサーの斎藤さんが、今年4月ぐらいに執行役員になられたので、僕がお花を贈ったんですね。写真に撮ってTiwtterにアップロードされて、その木札に「Epic Games Japan 河崎 高之」って出ていた。そのTwitterの写真と、AUTOMATONの記事を組み合わせて、次は『ドラクエ』はUE4に違いないって言ってる人がいて(笑)お贈りしたお花はあくまでも昇進祝いだったので、ドラクエとは直接関係なかったんです。まあ結果的には、正解だったんですけど。
――大正解ですね(笑)
河崎氏:
インターネットって怖いなあとつくづく思いました(笑)
経緯としては2年前ぐらいからになります。『ドラクエXI』が立ち上がり、いくつか技術を試すなかで、Unrealをお試しいただいたんです。『キングダムハーツIII』は同じ会社ではあるので、社内で多少の情報交換なんかはされていたのかもしれないですけども、割とプロジェクト同士で距離もあるので、あまり関係が無いかもしれないですね。
それよりはむしろ、実際に『ドラクエXI』を開発されている株式会社オルカさんとか、スクエニのなかの『ドラクエ』チーム、プロデューサーとかディレクターの方とお話したなかで、Unreal Engine 4を選んでいただいたっていう流れになります。
あと、スクエニの『ドラクエ』担当のリードプログラマーの方がずっとおっしゃっていたことなんですけども、できるだけエンジンに手を加えたくないというのが、そのリードプログラマーの方のポリシーでした。せっかく有り物のエンジンを使うのだから、そのエンジンの良さを最大限に活かしたい。余計なトラブルを増やすようなことはしたくないので、可能な限りエンジンに手を入れずにそのまま使い、開発を進めたいと。それが全体からするとベストだろうというのが、リードプログラマーの方のお考えです。
それは我々としてもすごく同意できる部分で、その観点で考えた時に、一切エンジンに手を入れることなく、彼らが想定しているビジョンを実現できるものとして、UE4が一番最適であったようです。そういう事をおっしゃっていただけまして、すごくありがたかったですね。
――Unreal Engine 3の時代ですと、エンジンがあってカスタムして使ってという事例が多かったように思いますが、UE4はむしろベースになるようなエンジンということでしょうか。
河崎氏:
UE3もUE4もそうなんですけど、実際に使う方々にはソースコードをまるごと全部お渡ししていますので、UE4でも手を入れようと思えばいくらでもカスタマイズはできます。実際カスタマイズをかなり入れて使われている開発会社さんも多いです。それで、必ずしもそれを否定するものではないんですが、『ドラクエ』の場合はそうじゃなくて、なるべくそのまま使いたいと。その方がリスクは減らせるだろうという話になりました。
やっぱり『ドラクエ』という、ものすごく物量の多く、一方でスケジュールが決まっているというタイトルで、そのリスクを可能な限り減らすっていうのが、先ほどのリードプログラマーの方のお考えでした。ただ、そこでリスクを下げつつも、やりたいことができないと意味が無い。エンジンに手を入れず、リスクを増やさずに、やりたいことができるっていうのが、UE4を選んでいただいた理由だという風におっしゃってました。
――過去の『キングダムハーツ』や『ドラクエ』のグラフィックと、従来のUnreal Engine作品のグラフィックの方向性は大きく異なるように感じます。
河崎氏:
『キングダムハーツ III』のかなり初期の頃、Unrealにするかどうか迷っているころには、そういうお話も結構させて頂きました。うちの技術チームが実際に『キングダムハーツ』のチームの方までうかがって、シェーダーとかマテリアル、彼らがイメージしているものをどう組み上げるかみたいなお話を、かなり突っ込んでさせていただいたんです。
結論から言うと、Unreal Engine 4は非常にマテリアルとかシェーダーの自由度が高いんですね。どうしても一般のイメージでいうと、『Gears of War』みたいなフォトリアルでギラギラしててっていうのを思い浮かべそうなんですけど、今はもう全然そんなことはなくて。『キングダムハーツ III』のトレイラーなんかも出てますけども、ああいうトゥーン風であったり、NPR(ノンフォトリアル)な表現ってのも十分できます。そういう意味では、『キングダムハーツ』が先に動いてたので、それを見て安心して使って頂けることになった、というのは『ドラクエ』の方ではあったかもしれないですね。
『ドラクエ』も発表会で映像を出されていましたけれども、ちょっと今までの『ドラクエ』とはテイストの違う、若干フォトリアルに振りつつも、でも鳥山さんのタッチは残しつつという、すごく新しい絵作りに挑戦されています。そこのお手伝いができているっていうのは、すごくありがたいことです。チームの方でも、いろいろ使いこなしていただいているなあと感じています。
――日本国内では、Unreal Engine 4のタイトルが特に今年急増したような感覚を受けますが、その背景にはなにがあるんでしょうか。
河崎氏:
確かに発表という意味では今年……去年からですかね。『鉄拳』があって、『キングダムハーツ』があって、『ストリートファイター』があってっていう流れで、一番最新の『ドラクエ』まで。発表が続いているので、ここ1年ぐらいでたくさん決まったように見えます。ただ、実際お話しているのは2、3年前からで、発表できるタイミングになったのが去年の夏ぐらいからというところです。
UE4自体の発表をさせていただいて、大手のゲーム会社向けにご提供を開始したのが2、3年前からになりますね。ちょうどプラットフォームの世代が変わって、DirectXの世代も変わってというタイミングで、じゃあ次のPS4/Xbox One、DirectX11の世代に向けてものを作る時には、どういう技術がいるんだろうと各社さん考えられた。そういう中で、1つの選択肢としてUnreal Engine 4を選んでいただいたっていうのが2~3年前にあって、その結果がここ最近世に出ているのかなという感じですね。
――ゲーム以外の場でもUnreal Engine 4を聞く機会が増えました。特にドラマ「デスノート」の件は話題になりましたが、あれはプロダクションとどのような経緯で制作に至ったのでしょうか。
河崎氏:
いえ、「デスノート」もそうなんですけども、ああいう映像モノの場合って、現在フリー版を自由に使っていただける形になっているんです。かつインタラクティブじゃない映像の場合は、うちに対するロイヤリティも発生しない。変な言い方ですけど、うちが知らないところで勝手に使っていただいて構わないって状態なんですね。ダウンロードしてきて、どうぞご自由にご使用くださいっていう体裁なんです。
なので「デスノート」の件も、実際に我々の方は全然知らなくて、デジタル・フロンティアの豊嶋さんというプロデューサーの方がTwitterでつぶやかれているのを見て、初めて知りました。豊嶋さんはよく存じ上げているので、あわててメールを書いて、これうちの宣伝に使わせてくださいみたいな(笑)それで初めてコンタクトさせていただきました。ですのでまだ知らないところで、ほかに映像で使っていただいているのは、たぶんいろいろあるかと思います。
――「デスノート」は公式Unrealブログで紹介されていましたが、ではアレも事後にお願いした形になるんですか?
河崎氏:
おっしゃるとおりですね。豊嶋さんのTwitterを見て、素材を使わせてくださいっていう連絡をして、日テレさんの承諾も必要だったので多少時間はかかったんですが、OKをもらいました。そしてうちのブログに載せた流れです。
――ライセンス料なども発生していない?
河崎氏:
映像の場合は一切発生しないですね。
――すごいですね……(笑)誰がどう使っても構わないというか……。
河崎氏:
細かい規定はいろいろあるんですけども、ざっくり言うと「インタラクティブ性のない映像メディア」の場合には、ロイヤリティは発生しません。映画であれ、テレビであれ、コマーシャルであれ使っていただいても、うちに対するご報告とかロイヤリティのお支払いってのは、発生しないです。
――「デスノート」の件のほか、先日のインタビューでは「車でのショーケース」での使用も挙げられていましたが、具体的な映像分野の使用例というのは他にありますか?
河崎氏:
うちが把握しているなかでは、そのまさに車関連でいくつか動いています。ちょっとまだ正式に決まっていない、正式に発表されていないもので、うちからは詳しく申し上げられないですね。ゲーム以外でもたくさん出てきてますし、VRとかARと組み合わせた事例でもいろいろ使っていただいているようです。
――たとえばまちなかを歩いたり、Webブラウジングをしている際に、「あ、これUnreal Engine 4使ってる」と気づいたりする機会はありますか?
河崎氏:
そうですね、時々あるんですけども、確認ができないので(笑)そういう意味では、ちょっといま変な状況なんですよね。全然なにも言わずにやっていただいても問題ないんですが、ご報告がないとわからないままで。「デスノート」の件も、言っていただかなければわかりませんでした。
――Epic Games Japan的には、把握しておきたいというか、報告がない状況はどうなんでしょうか?
河崎氏:
いまのフリー版の規定から言うと、うちに報告していただく義務はまったくないので、そういう意味ではまったく問題ないんです。ただできればうちとしても、こんなすごいことで使っていただきましたとか、こんな面白い使い方がありましたっていうのは、知らしめていきたいですね。知りたいんですけども、向こうから言ってきていただかないとわらかない。それだけ気軽にたくさんのところで使っていただいてるっていうのはありがたいんですけども、なんだろう、歯がゆさというか。だから制約を強めようっていう方にはまったくいかないんですけども、一抹の寂しさというか(笑)
――ちなみに報告をすると、Epic Games Japanからサポートを受けられるようなことも?
河崎氏:
映像系などで無料で使ってもらっているものには、うちからサポートするっていうことは基本的にやっていないですね。というのは、やっぱり無料なので(笑)無料で使っていただいていいですけども、サポートはご提供できないですっていう整理になっています。
まあ、ほとんど映像の場合はそんな難しい、ゲームと違ってフレームレートが落ちると困るとか、バグがあるってものでもないので。デジタル・フロンティアさんの場合もそうですけど、ほとんど皆さん自分たちで解決してしまうので、あんまりご相談いただくことはないです。もうちょっと込み入ったVRとか、インタラクティブ性のあるものの場合には、ご相談いただいて、別途ビジネスとしてお話させていただくっていうのはあります。実際そういう案件もいくつか動いています。
――フリー版もそうですが、Epic Gamesは「開放していく」という印象が強くなりました。先日も『Infinity Blade: Dungeons』のアセットを無料公開されていましたよね。
河崎氏:
そうですね。『Infinity Blade: Dungeons』のアセットも出しちゃいましたし、VRの「Showdown」のデモも出しちゃいましたし、その前もVRではないですけどデモの「Infiltrator」ってのも出しちゃいましたし。もうどんどん、コンテンツをうちの本社は公開していっちゃうので。うちの方で困るのは、いろんなイベントの自社のブースで見せるものが、どんどんなくなっていってしまうというか。それが頭痛いというか(笑)
――お家で見れてしまいますもんね(笑)
河崎氏:
そうなんですよ(笑)まあかなりパワーのあるPCでないと動かないってところはあるんですけど、それにしても一般で公開しているものをわざわざブースで見ていただくのも、ちょっとなんというか、せっかくの機会がもったいないので。それに追いつくぐらい、新しいコンテンツを出していければいいんですけども。
――Unreal Engineは以前からデモが大量に公開されていますが、Epic内には専用のチームがあるんですか?
河崎氏:
ないですね。だいたいいつもGDCに向けて、今年は何を出そうと話が始まる。まあ流れとしては、まずエンジンの開発があって、次に実装するべき目玉の仕様やフィーチャーがあって、じゃあそれを一番最適に表現するにはどういうデモがあればいいだろうっていうところから逆算していく。それで今年のGDCはこういうのを見せようって決めたら、人がアサインされて一気に作るんです。だいたい何を作るのか決まるのが年明けてから、クリスマス終わってからです。GDCって3月ぐらいなので、実質の作業時間が2か月しかなくてっていう。いつもそんな感じです。
――UE4の効率性ならではの話ですね。
河崎氏:
そうですね(笑)効率性と、アセットなんかは昔から作っていたものを使いまわしたりしているので。Epicのコンテンツをよく見ていただいている方には、先日の『Bullet Train』の最後に出てくるボスのロボットはもうお馴染みのロボットだと思います。あの辺のロボットは、もういろいろなものに登場したりしてますね。
――来年以降、各社のVRヘッドセットが販売され、いよいよVR分野が活況になってくるかと思います。先ほどの映像の話で思ったのですが、Epicでは「VRのゲーム」と「映像」の区分はどのようになさっているんでしょうか。
河崎氏:
ロイヤリティが発生するかどうかで言うと、VRであるかどうかではなくて、ゲームかどうかっていうところですね。あとは不特定多数に販売されているかどうか、っていうのが線引きになります。VRなので当然インタラクティブ性はほぼあると思うので、そうなると後は不特定多数に販売されるかどうか。
たとえばある開発会社が車会社から仕事を請け負われて、その車会社のショールームで無料で展示するためのコンテンツを作って納品された。こういう場合には、エンドユーザーに販売しないので、ロイヤリティは発生しないです。ただ、開発会社がゲームのパブリッシャーから同じようなコンテンツの委託を受けて、ゲームのパブリッシャーが一般のゲーマー向けに販売したとすると、これはゲームの販売ってことになるので、ロイヤリティの対象になってきます。
――先ほども名前が出ましたが、先日Epic GamesがVR用プロジェクト『Bullet Train』を発表されていました。こちらの作品は、Epicではどのような意図で開発されたのでしょうか。
河崎氏:
いままでは「Showdown」っていう、あまりインタラクティブ性が無い、ただ前に進むだけのデモがありました。あれも非常に好評をいただいてたんですけど……やはりどこもそうなんですけど、VRって騒がれている割には、実際にゲームに落とし込めるの?ゲームとしてどうなの?ってところで、かなり疑問というか、まだ解決されていない部分があったと思うんです。特に酔いの問題はすごく大きくて、実際にVRのデバイスが出てきて、本当にゲームに使えるのかっていうところが、意外とまだ置き去りになっていたというか。大丈夫ですっていうよりは、コンテンツがいままで無かった。そこに対する一つの解答、解答というかEpicはこういう風に考えますっていう一つの例として、提示したというところですね。あとは「Oculus Touch」を使うことで、もっとインタラクティブ性をあげるという意図もありました。
移動はもう全部オミットしてテレポート、ポイントからポイントに飛ぶだけにして、ゲーム性は単純なシューターというか、昔の『ダックハント』みたいなもんですよね。目の前にいる敵を撃っていくだけっていう。こういうアプローチをすれば、VRデバイスってのはゲームに使えるんじゃないかっていう、一つの提案というか、Epicなりの考えを示したというところですね。
――4.9へのアップデートなどを見ると、Unreal Engineの柱の一つにはやはり「VR」への対応があるかと思います。VRプロジェクトを制作するという面で、Unreal Engineの強みはどこにありますか。
河崎氏:
なにも考えずに作っていただければ、VRに持っていけるっていうところですかね。普通に一般のゲームを作るのと同じように3Dの空間を作っていただければ、あとは視差を計算して各VRデバイス用に出力するってのをエンジン側でやりますので。これはVR用だからってなにか気を使わなくても、普通に作っていただければ、そのままVRに持っていけるってのが、Unrealの一番の強みだと思います。
――たとえば「PlayStation VR」などのVRデバイスもありますが、Unreal Engine 4を使用しているタイトルであれば、簡単に対応することが可能なんでしょうか?
河崎氏:
持っていくだけなら、PS4向けに作ったものの出力を「PlayStation VR」に換えるっていうのは、ボタン一つでできます。ただ、それをやった時に快適かどうかってのは別の問題ですね。多分「PlayStation VR」なら「PlayStation VR」専用のコンテンツを作らなければならないかと思います。でも、VRデバイスで出すからなにか特殊なことをしなきゃならない、気をつけなければならないってことはなくて、そこはエンジン側で引き受けますというところです。
――前回のインタビューでは、無料化の発表以降、ユーザー数が一気に増加したとうかがいました。具体的な実数はまだ公表されていないんでしょうか。
河崎氏:
実数はこれからも多分発表はしないと思います。うちの場合、ダウンロードの数はもちろん追えるんですけれども、起動のチェックとかオンラインでの認証とかいうのはやっていないので。あまりそこの実際のユーザー数とかダウンロード数っていうところを、全面に打ち出していくっていうのは考えてないですね。
――では国内ではUnreal Engineのユーザー向けイベントなどが開催されていますが、そこで参加者が増えた、作品数が増えたと実感はしましたか?
河崎氏:
次の機会でいうと、10月18日にまた横浜で「UNREAL FEST 2015 YOKOHAMA」というのをやらせていただきます。キャパシティ的には1000人入る広さで、いまインターネットで登録を受け付けているんですけども、800人近くご登録いただいていますね。あとはCEDECとか各種イベントですね。ちょっと前だと、Unrealって名前は聞いてるけどどんなものなんだろうって反応が多かったんですが、今はもう皆さんに知っていただいていて。そこからもう一歩進んだ、もっと詳しい話が聞きたいっていう感じになっているので、認知度はかなりかわったなという実感がありますね。
――ちなみに10月18日のUnreal Festはどのようなことが実施されるんですか。
河崎氏:
去年は大きなメインホールを借りて一部屋でやってたんですけども、今年はなかに仕切りの壁があるので、2トラックで1日やろうとしています。公演数も6×2と基調講演、合計13セッションありまして、去年とくらべると公演の内容もかなりバラエティに富んでます。基調講演は稲船さんが引き受けてくださったので、最初に稲船さんからお話いただきます。あとはUE4でもモノが実際に世に出始めているので、その辺の実例の話をバンダイナムコの『鉄拳』チームの方とか、『サマーレッスン』チームの方からお話いただけることになっています。もちろんEpic Gamesの人間も、よりプログラマー寄りの細かい深く掘りさげたようなお話をさせていただく予定になっています。
――最後になりますが、今後のUnreal Engineの展開に教えて頂きたく思います。ズバリ、隠し玉は有りますか?
河崎氏:
またいろいろインターネットで調べられると怖いのでアレですけども(笑)多分、年末にまた大きなタイトルが一つ、Unrealを使っていただいているのが発表になるかと思います。
エンジン自体としては、いまバージョン4.9まで出ていて、4.9の次は5.0になるのかって質問をよくいただくんですけど、4.9の次は4.10になります。4.10はタイミングはまだ発表していないんですが、いままでと同じようなペースで頻繁なアップデートは続けていくと思います。4.10の中身でいうと、やっぱりモバイルとかVRデバイスへの対応とか、最適化にはより力を入れていくと思います。あとはDirectX 12。今までも対応はしていたんですけども、どちらかというと実験的というか、先行対応版、評価版みたいな感じだったのが、プロダクションレベルの対応になるのが、4.10に入るかなというとこですね。
4.10というわけではないんですが、もうちょっと中長期的な期間で言うと、今まで「マチネ」という名前だったカットシーンを作るツールが、「シーケンサ」という新しいものに置き換わります。あとは「カスケード」というエフェクトを作るツールがあったんですけども、それも「ナイアガラ」という新しいツールに置き換えようとしていまして。「キスメット」というUE3の時のビジュアルスクリプティングが、ブループリントに置き換わったようなイメージです。「マチネ」も「カスケード」も随分古いものなので、それをUIとかも一新してもっといいものにしようというのが、いま動いています。
――ありがとございました。
[聞き手 Shuji Ishimoto]
[撮影 Mon Gonzalez]