『マリオカート』の“海賊配信サウンド”がネットで大流行中。ココナッツモールBGMに若者が夢中、Spotifyの米ランキング15位に浮上
『マリオカート』シリーズのBGMが今、若者の間で流行しているようだ。特に話題を集めているのは、とある学生が「スター音」をかけながら課題をこなすという動画だ。フォロワー83万人以上を誇る女性TikTokerのDanielle氏が公開した動画で、「ライティング・エッセイの提出を忘れていたが、『マリオカート』のBGMをかけて取り組んだら1時間で終わった」というもの。動画に使用されているBGMは『マリオカート8』『マリオカート8デラックス』にて採用されているスター取得時の楽曲。疾走感のあるBGMにのることで、課題を素早く終えることができるという映像である。130万回以上のハートがつけられており、人気動画になっている。
実は、この動画は例のひとつ。さまざまな『マリオカート』サウンドを用いた映像が、インターネットで拡散されているのだ。特に今ホットなのは、ココナッツモールのBGMである。ココナッツモールは『マリオカートWii』に登場する、ショッピングモールコース。『マリオカート7』でもアレンジされ登場している。南国を思わせる陽気さに、軽妙なテンポが織り交ぜられており、聴き心地の良い音楽に仕上がっている。こちらのBGMについては、もともとYouTubeでも人気を博してきた。車の暴走や事故など深刻なトラブル映像に、爽やかなココナッツモールBGMを添えるというネットミームとして浸透。中には凄惨な映像にまじえて流されているものあることから、使われ方としてはややショッキングであった。
※ ココナッツモールBGMにて、コミカルに描かれるロシアの空港での車暴走(死傷者などなし)
しかし最近ではダンス動画の添えられるサウンドとして親しまれている。発信源は、またしてもTikTokなどだ。BGMにあわせて軽快なステップを踏む、“らしさあふれる”コラボダンスをRo-hawn氏が踊っており大好評 。ダンスBGMとして定着しており、プラットフォームを問わずさまざまな場所で親しまれている。リミックスサウンドも人気を博しており、Naz3nt氏のアレンジBGMの再生回数は100万回を上回る。その勢いは強まるばかりで、10月24日付けのSpotifyのバイラル50チャートでは、15位にもランクインしたという(10月27日時点ではランク圏外)。今アツいサウンドのひとつになりつつある。
このように、TikTokをはじめとしたSNSや動画サイトでは、『マリオカート』BGMを使った遊びが盛んなのだ。ただし彼らは、それが『マリオカート』のBGMだとはっきりと把握しているか定かではない。というのも、「Mario Kart」とタグ付けられたTikTokの人気BGMには、実は『マリオカート』ではないものもある。たとえばこちらの「123start」と名付けられたBGM 。動物とじゃれたり、ウォーキングマシンに自分を乗せたりといったシーンに使われている。出だしのレーススタート描写こそ『マリオカート64』のサウンドだが、その後のサウンドはよくきくと『スーパーマリオ64』のアスレチックシーンである。『マリオカート』とタグ付けられた動画のサウンドが実は違う作品のものだったという例は、度々見かけられる。シチュエーションにあったBGMなら、なんでもいいのだろう。
『マリオカート』に限らず、任天堂タイトルのBGMがSNSなどで流行になるケースは散見される。3年ほど前にはWiiの「似顔絵チャンネル」のBGMが、コミカルなダンスBGMとして大流行。脚光を浴びていた(関連記事)。任天堂には豊富な作曲家スタッフを抱えており、やさしくも耳に残るサウンドが制作され続けている。世界中で親しまれているということだ。
ただし、こうしたネットで使用されている任天堂サウンドは、いずれも非公式であることを付け加えたい。Spotifyで人気の『マリオカートWii』ココナッツモールBGMを投稿しているのは、Arcade Playerという名のアーティスト。メーカーに無断でサントラを投稿している人物だ。一部はサンプリングでもあるが、オリジナルのBGMや効果音なども配信している。サンプリングについても、メーカーに許可をとっていないであろう。Amazon MusicではこれらのBGMを販売しており、ビジネスを展開している。Spotifyの再生でも、収益を得ているだろう。TikTokなどで音楽がバズり、Spotifyで再生されまくるといった現象はしばしば生まれている。
半ば容認されるケースとして見かけるのが、TikTokの元音源はグレーであるものの、流行することでSpotifyなどで再生され、再生数が積み重なることで、多少なりとも作曲者に利益が還元されるパターン。しかし任天堂サウンドはサントラなどの販売は限定的で、ネット上にBGMを公開したりはしていない。たとえば『マリオカートWii』サウンドトラックはクラブニンテンドーのプラチナ会員特典として手に入れることができる限定品なのだ。
現状では、ソース不明な任天堂楽曲を使用した映像がSNSなどで流行して再生回数が伸び、その結果“任天堂ではない組織”が利益を受け取るといういびつな構造になっている。さまざまな人々がゲームBGMに親しみを持つようになったのは喜ばしいことであるが、権利関係が整備され、正しき場所に再生による収入が入ることを望みたい。