マンチェスター・ユナイテッドがセガを提訴。サッカーゲームで商標権を侵害しているとして

マンチェスター・ユナイテッドは、クラブ名やエンブレム等の不当な使用によって商標権を侵害しているとして、『Football Manager』シリーズの発売元であるセガと、セガ子会社のデベロッパーのSports Interactiveを提訴した。

イギリスのプロサッカーリーグ・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドは、クラブ名やエンブレム等の不当な使用によって商標権を侵害しているとして、サッカーシミュレーションゲーム『Football Manager』シリーズの発売元であるセガと、セガ子会社のデベロッパーのSports Interactive(以下、SI)を提訴した。IGNなどが報じている。

マンチェスター・ユナイテッドの申し立てによると、『Football Manager』シリーズにおいて同クラブ名が「ゲームを通して広範囲に渡り」使用されていることにより、商標権が侵害されていると訴えているようだ。さらに、同ゲーム内で使用されているチームのエンブレムについても、「(公式エンブレムではなく)単純化された赤と白のストライプのロゴに置き換えている」と指摘している。つまり、クラブ名と公式エンブレムを揃えて使用していないことによって、ブランドイメージを害しているということだ。「(ライセンス契約を交わさずに)クラブ名を使用していること」に加え、公式エンブレムを使用しないことによって「クラブチームが所有する公式エンブレムのライセンス権を奪う行為である」として権利の侵害を訴えている。

これに対しセガとSIは、クラブ名の使用について 「サッカーという文脈の中で、適切に使用している」と述べており、『Football Manager』シリーズの前身である『Championship Manager』(1992年)の時代から「原告から苦情がきたことはない」と反論。また、マンチェスター・ユナイテッドが「このような(実際のプロサッカーを題材とする)ゲームの中で、ライセンス契約なしではクラブ名を使用できないようにすることで、ゲーム業界の正当な競争を妨害している」と主張した。


弁護士を通した双方の主張

現地時間の5月22日に行われたリモートによる予審にて、マンチェスター・ユナイテッドの弁護士Simon Malynicz氏は、「“マンチェスター・ユナイテッド”というクラブ名は世界でもっとも価値があり、認知度が高いブランドのひとつである」と述べ、同クラブにとってクラブ名やエンブレム等に関するライセンス事業による収入は「非常に重要」であることを強調。ゲームの中でクラブ名を使用することで、セガとSIが“マンチェスター・ユナイテッド”のブランドバリューの恩恵を受けているのではないかと指摘した。また、「クラブ名を使用しつつ、公式エンブレムを使用しない」ことによってブランドイメージが害されると加え、これが「不当な使用」であり権利侵害に当たると示した。

さらに、Simon Malynicz氏は裁判官Justice Morgan氏に対して訴えの変更を求め、権利侵害に当たるとする内容を追加。その内容は、「レプリカのエンブレムを含むパッチやModを供給して、ユーザーがゲーム内で使用できるようにしている」というもの。セガとSIが、有志によるModを使うよう「促して」いるとして、「ライセンス契約を交わさないまま不当に儲けている」と訴えた。一般的に、ゲーム内でサッカークラブのクラブ名やユニフォーム、ロゴなどを使用するには、クラブもしくはリーグとのライセンス契約が必要。つまるところ、使用料を払わなければならない。特定のゲーム内で「マクレスターU」といったクラブが登場するのは、そうした事情が関係している。

画像左上のロゴが、今回の対象となっている簡略化されたロゴのひとつ Image Credit: Sports Interactive / Manchester Evening News


マンチェスター・ユナイテッド側の主張に対し、被告側の弁護士Roger Wyand氏が反論。そもそも、マンチェスター・ユナイテッドは『Football Manager』でクラブ名が使用されることに対して同意していたという。そのため、「今になって不平を言うことはできない」と異を唱え、ゲーム内で“マンチェスター・ユナイテッド”というクラブ名を使わないように取り組むことになれば「自由に表現する権利が不当に抑制される」と主張した。

ゲーム内でデフォルトで使用されているエンブレムについても、「ニューゲームを始めるたびに、ノーブランドのテンプレートの中から無作為に選ばれるもののひとつ」と述べ、「マンチェスター・ユナイテッドの許諾を得るべき著作物の使用」に当たらないとしている。


『Football Manager』シリーズは長きに渡って人気のあるサッカーシミュレーションゲーム。何年もの間、SIはプロサッカー関係者や選手たちに同シリーズのゲームソフトを贈っており、多くのポジティブなフィードバックを受けてきたそうだ。『Football Manager』のデータはプロが参考にするほど質が高いようで、実際にマンチェスター・ユナイテッドのデータ分析スタッフやスカウトチームがSIにコンタクトを取って『Football Manager』のデータベースへのアクセス許可を求めて連絡を取り合っていたという。

Roger Wyand氏は、このようにSIとマンチェスター・ユナイテッドが良いビジネス関係にあることを示し、「我々の行動によってマンチェスター・ユナイテッドのブランドに対する混乱が起きたりダメージを与えたりする可能性はない」と述べた。裁判官のJustice Morgan氏は、マンチェスター・ユナイテッドの訴えの変更についての判定を後日まで保留としている。


新型コロナのパンデミックの影響はあるのか

新型コロナウイルスの影響を受け、無観客で試合を再開したドイツ・ブンデスリーガを除くヨーロッパのプロサッカーリーグはいまだ試合ができない状態が続いている。イギリス・プレミアリーグに所属するマンチェスター・ユナイテッドにも影響が出ており、The Guardianによると、2020年1月1日から3月31日までの同クラブの税引き前損失は285万ポンド(約3億7400万円)に及ぶという。試合が行われないことにより放映権料などの収入が減少したため、今シーズンの予想収益を下方修正し、負債額は1億2740万ポンド(約165億円)増えて4億2910万ポンド(約560億円)に達した。

一方、ウイルスが影響を及ぼす前の昨年11月、Redditの『Football Manager』スレッドに「Modのロゴパックにマンチェスター・ユナイテッドのロゴが入っていない」との投稿が寄せられていた。ユーザーによると、マンチェスター・ユナイテッドから著作権の侵害として通告され、すべてのModからマンチェスター・ユナイテッドのロゴが消去されたという。

前述のとおり、マンチェスター・ユナイテッドの弁護士Simon Malynicz氏によれば、同クラブにとってライセンス事業による収入は「非常に重要」だという。新型コロナウイルスによって大打撃を受けたことも確かだが、ウイルスがヨーロッパに大きな影響を及ぼし経営状態が悪化する前から、マンチェスター・ユナイテッドが『Football Manager』のModに含まれていた同クラブのロゴについて権利侵害であるとの意を示していたことも確かである。

Maho Ikemi
Maho Ikemi

ニュースを担当します。物心ついた時にはゲームに囲まれていました。この先もゲームとともに楽しく過ごしたいと思っています。

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