『GTA6』に飢えるプレイヤーたち、短期間に二度もフェイクにもてあそばれる。6年待たされて濁ったファンの眼

『GTA6』に飢えるプレイヤーたち、短期間に二度もフェイクにもてあそばれる。「GTAVI」を名乗るTwitchチャンネルが、「4月1日」へのカウントダウンとともに公開したフェイク映像。

Rockstar Games(以下、Rockstar)ファンは飢餓にあえいでいた。『Grand Theft Auto VI(以下、GTA6)』の情報が、こない。前作が発売されてからもう6年以上が経つ。『Grand Theft Auto V』は今年に入り月平均10万人以上のプレイヤーを動員し続けているが、それはそれとして新作を待望する熱はくすぶり続けている。そんな煩悶を見透かすかのごとく、『GTA6』の情報公開を予告するアカウントがTwitch上に出現したのだ。当初は、期待にはやる一部のファンを多くの冷静な大人たちがいさめた。あきらかにエイプリルフールを意識した嘘だとわかったからだ。ところが事態は29日に急転する。件のアカウントがあまりにクオリティの高いムービーを投稿したのだ。かろうじて理性を保っていたコミュニティも、このときには思わずだまされてしまったのである。

6年間で数えきれない噂が過ぎ去っていった。次の舞台はサンアンドレアスだ、バイスシティへの回帰だ、いやひょっとしたらロンドンかも。2019年の暮れには、にわかにコロンビア説が有力となった——Rockstarがインフルエンサーたちへ配ったクリスマスギフトの中に、コロンビア国旗カラーの企業ロゴワッペンが紛れこんでいたからだ。

image credit / dexerto.com

誰もが新作のヒントを求めて必死だった。手がかりを求めるファンの目は、Rockstarの求人情報にも読解能力を発揮する。募集されていたのはキャラクターの衣装担当だ。求める人材は「過去から現代まで、グローバルなストリートファッションやトレンドを把握できる」デザイナー。この募集条件はすなわち、『GTA6』が複数の地域・時代をまたいで展開することを示唆しているのではないか。推理の答え合わせはまだやってこない。今年の1月にも「“60秒フォーマット”で映像を作れるビデオディレクター」の求人広告が出され、ついにトレイラーが作られるかとコミュニティはざわついた。皆、疲れていた。

混迷のなか投げこまれたのが、Twitchにおいて突如出現した「GTAVI」を名乗るチャンネルであった。同アカウント上にはライブストリームが開設され、そこには鮮やかな蛍光ピンクの『Grand Theft Auto VI』ロゴとカウントダウンタイマーが表示されていた。配信枠は瞬く間にSNS上で拡散され、数えきれないファンが足を運ぶ。放送の詳細欄にはRockstarのWebサイトへ導くリンクが貼られており、次のような挨拶も記されていた。「Grand Theft Auto VI 公式Twitchチャンネルへようこそ」「来たる数日の間じゅう、Twitchの力を通してお知らせと予告ライブを放送します!」

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「GTAVI」チャンネルが伝播するのには時間を要さなかったが、疑念が広まるのも早かった。まず放送概要が怪しい。前述の文面における「予告」は、もとの文面では“sneak peaks”と記されていた。これは本来“sneak peeks”と綴るべきところを誤ったものと思われる。文面がおぼつかければ、アカウント自体もうさんくさい。もしRockstarの正式なチャンネルならあってしかるべき紫のアイコン、「公式バッジ」がついていないからだ。そして最大級に馬鹿げていたのがカウントダウンだった。その終了時刻が指すのはおよそ3日後。4月1日、すなわちエイプリルフールである。あっという間に広まった「GTAVI」開設のニュースは早くも「信ずるに足らず」の判を押され鎮火していった。6年という歳月は飢えたファンをよく訓練してもいたのである。これまで過ぎ去った多くの噂やリークと同様、今回の件もまもなく忘れ去られるはずだった。

ところが界隈はふたたび心をかき乱されることになる。3月29日、「GTAVI」が“トレイラー”を公開したのである。映像はきらびやかなネオンサインに彩られ、『Grand Theft Auto VI』のロゴを描き出す。「アナウンスまであと2日」の文言が観る者の期待を否応なく高まらせた。このムービーは端から「GTAVI」を気にかけていた者の目に入っただけでなく、YouTuberのTroydan氏によるツイートでも広く拡散された。同氏が『GTA6』のお披露目を歓喜するつぶやきは1万3000ものいいねを獲得している。

https://twitter.com/Troydan/status/1244382507874779136

いちど『GTA』プレイヤーから袖にされた「GTAVI」チャンネルの投稿が、なぜここまで熱狂を取り戻したのか。ひとつには、トレイラーに用いられた選曲の妙があっただろう。映像で流れる楽曲はカナダのR&Bシンガー、ザ・ウィークエンドのヒット曲“Blinding Lights”。2019年にリリースされたこの楽曲は80年代テイストの軽快なサウンドで、しばしば『GTA』関連のファンムービーでも用いられてきた。そのザ・ウィークエンドが『GTA』次回作のテーマ曲に……ありうるんじゃないか。ちらとでも考えてしまったファンは少なくなかったのだろう。

今回の騒動は、トレイラーの出来の良さが火の手を広めてしまった感が拭えない。先に映像だけ知ってぬか喜びし、後からTwitchチャンネルを見て落胆したという視聴者もいたようだ。Twitterには「もう誰も、何も信じられない、4月1日には」「嘘。それは不幸にも現実ではないことである」といった悲痛な声がほとばしっている。そして今、当の「GTAVI」チャンネルにカウントダウンの配信は流されていない。唯一掲げられているのは、いささか長い文章の画面だ。そこに記されているのは「GTAVI」プロジェクトが『Grand Theft Auto』シリーズを愛する複数の人々によって作り出されたものであるという事実。そして「事態がここまで大きくなるとは思っていませんでした。シリーズへの愛を同じくする熱心なファンたちを誤らせてしまったことを、まずRockstarに対し謝罪します」とのメッセージが書かれている。

たかが6年、されど6年。かくも長い年月はファンの耳をそば立て、鼻を研ぎ澄ませ、心を強くしてきたが、その眼はめっきり曇らされてしまった。何度目かの春が訪れ、今やプレイステーション 5が世に生まれんとしている時世だ。はたして『GTA6』はいつ発表されるのか。胸焦がすアウトローたちが安息を得られる日は来るのか。すべての答えはRockstarだけが知っている。『Grand Theft Auto V』は、2013年より好評発売中である。

【UPDATE 2020/03/31 10:13】
タイトルの「1日二度」を「短期間に二度」に変更し、あわせて本文を訂正。

Yuki Kurosawa
Yuki Kurosawa

生存力の低いのらくら雰囲気系ゲーマーです。熾烈なスコアアタックや撃ち合いを競う作品でも、そのキャラが今朝なに食ってきたかが気になります。

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