『ウィッチャー』のゲラルト、AIになる。「生きたNPC」づくりを目指す、ロシアのAI研究所による「コミュ強」ウィッチャー
ロシアのAI研究所Mind Simulation Labは、『ウィッチャー』シリーズの主人公ゲラルトを人工知能化したことを発表した。彼らはYou Tubeチャンネルに3分ほどの動画を投稿し、仮想空間に作られた酒場でゲラルトと会話をする風景を公開している。
AIゲラルトは無機質な声で話すため、やや機械的な印象は拭えない。会話は互いに「Hi」と挨拶を交わすことから始まり、「コルヴォ・ビアンコ(『ウィッチャー3』DLCに登場するブドウ園。ゲラルトも所有可能)についてどう思う?」という質問にAIゲラルトが「老後はあそこで過ごしたい。コルヴォ・ビアンコで友人と会うのが好きだ」と返す。さらに、強敵モンスターであるアルグールに関する依頼を請けたことを話すと、AIゲラルトはウィッチャーの先輩として、その対処法や弱点、棲息地などを教えてくれる。
また、AIゲラルトは、こちらからの質問に対して返答をするだけではなく、文脈に沿った質問も投げかけてくる。動画では「ノヴィグラドについて教えて」という問いかけに、AIゲラルトがロケーションや都市の特徴を答えた後に「お前はノヴィグラドのどこが好きだ?」と質問を返す様子が映されている。AIゲラルトはコミュニケーション能力が高く、こちらの返答によってどんどん会話を広げてくれる。「(ノヴィグラドで好きな場所は)ダンディリオンが経営するキャバレーだよ」と答えるとAIゲラルトは「あそこはいいキャバレーだ。ゾルタン(ゲラルトの知人。『ウィッチャー3』ではノヴィグラドで出会う)のことは知っているか?彼はどうしている?」と返し、さらに会話はゾルタンが売っているカードについての話題に移っていく。最後にこちらがイェネファー(ゲラルトと恋仲の魔法使い)について尋ねると「彼女は元気にやっている」とAIゲラルトが返答し、会話は終了する。言葉によるコミュニケーションのほかにも、会話の合間にAIゲラルトがジョッキをあおるなど細かい演出も。合成音声特有の違和感こそあるものの、実際にゲラルトと会話をしているように感じられるのではないだろうか。
Mind Simulation Labは、ビデオゲームのNPCにバーチャル人格を搭載させるためのAGI(汎用人工知能)研究を進めている。AIゲラルトは、同研究所の「CyberMind」エンジンの活用例として披露されたものだ。最初の活用例としてAIゲラルトを制作した経緯について、「私たちはビデオゲームを愛しており、その中でも特にCD PROJEKT REDのゲームの大ファンです。ゲームもストーリーも素晴らしいものですが、私たちはそこにいるNPCたちとコミュニケーションを取る手段を持ち合わせていません。私たちは酒場で客と会話をしたり、たとえばレジス(『ウィッチャー』シリーズに登場するNPC)と長い討論をしたりしてみたいのです。大好きなキャラクターとコミュニケーションを取り、彼らと友人になり、なにか面白いことを学びたい」と公式サイトで明かしている。NPCを人工知能化することで、ゲームの世界をより生き生きとしたものにすることを目指しているようだ。AIゲラルトの話題の広げ方の上手さも、この理念から作り上げられたものと見られる。
大抵のゲームのNPCは、クエストの進行状況に応じたセリフ以外を話すことはできない。「彼らNPCともっとコミュニケーションが取りたい」というMind Simulation Labの情熱が形になり、常識からの脱却を試みた結果、生み出されたのがAIゲラルトだ。Mind Simulation Labは「オープンワールドゲームのNPCそれぞれに人工知能を搭載すれば、彼らはプレイヤーが追いかける物語の導線の一部として機能するだけではなく、ゲームの世界に実際に生きている存在となる。それによりプレイヤーはNPCと長期的な関係を構築、あるいは破壊することも可能になる」と語る。
たとえば『ウィッチャー3』のNPCが全員人工知能になったとすると、突然NPCからグウェントの対戦を吹っかけられたり、決闘を申し込まれたりと少し煩わしい部分もありそうだ。一方で開発者すら予期していなかったようなドラマが起こる可能性もあるし、前述の煩わしさも「ある意味でリアル」といえばそのとおり。そのリアルさをゲームにまで求めるかどうかは好みが分かれそうな部分だが、人工知能NPCが大きな可能性を秘めていることは間違いない。人工知能を搭載したNPCが本物の人間のように振る舞い、個人としての意思を持つ未来も、そう遠くないのかもしれない。