『System Shock 3』開発チームが事実上の解体状態に。開発順調宣言から一転、ゲームエンジン変更などに苦しむ

シリーズ最新作『System Shock 3』の開発チームが事実上の解体状態にあるようだ。人気を博した初代のDNAを引き継いで開発されていた最新作の制作は、現在危機的状況にあるのだという。

シリーズ最新作『System Shock 3』の開発チームが事実上の解体状態にあるようだ。Video Game Chronicleなどが報じている。人気を博した初代のDNAを引き継いで開発されていた最新作の制作は、現在危機的状況にあるのだという。

初代『System Shock』は、Looking Glass Studioにより開発された一人称視点のサイバーパンクRPGだ。プレイヤーはコールドスリープから目覚めたハッカーとなり、AIであるSHODANが乗っ取った宇宙ステーションにて死闘を繰り広げる。同作に関わったスタッフが『BioShock』シリーズを立ち上げるなど、のちの作品に多大な影響を与えた人気作だ。

2015年に正式発表された『System Shock 3』は、権利元であるNightdive Studiosの公認を得ており、OtherSide Entertainmentのもと、アメリカ・テキサスのオースティンにて開発されていた。同スタジオは、オリジナル版の開発元であるLooking Glass Technologies(2000年に閉鎖)の代表Paul Neurath氏が設立したスタジオ。初代『System Shock』のプロデューサーであるWarren Spector氏をクリエイティブディレクターとして登用し、初代『System Shock』のクリエイティブディレクター、アートディレクターなどを相談役として起用している。GDC 2019のUnityのキーノートでは、美麗なグラフィックを見せつけるティザートレイラーを公開。開発は順調であるとコメントされていた。しかしながら、その開発の背景にはどうやら根深い問題があったようだ。

 

スタッフたちの離脱

その最たる例がスタッフの離脱だ。ティザー映像が公開された3か月後となる2019年5月頃、シニアゲームデザイナーJimmy Sedota氏がスタジオを離れたとの報告がRPGcodexに寄せられる。また一向に続報が出てこないことにRPGcodexなどフォーラムに集うファンたちは苛立ちを募り始めていた。同年10月には、スタッフ6名がスタジオを離れたと、開発陣のLinkedInプロフィールをチェックしていたファンが指摘。11月には開発のリーダー格であるとされていたリードプログラマーMark Allender氏とシニアプロデューサーVicki Resendez氏が離脱。12月に入ってからもリードアーティストやシニアグラフィックプログラマー、そしてシニアソフトウェア・エンジニアがOtherSide Entertainmentを離れたと報告され、開発体制にいよいよ暗雲が立ち込めていた。

そんな中、OtherSide Entertainmentにかつて務めていたというKin Corn Karn氏が、RPGcodexの当該スレッドにて内情を報告。オースティンのスタジオは閉鎖状態にあると告げ、ボストンのスタジオはプロジェクトに関わっておらず、ゲームの開発は疑わしい状態にあるとコメント。コミュニティーマネージャーであるSam Luangkhot氏もまた、12月にスタジオを離れたと発表。公式フォーラムにてオースティンにてレイオフがあったことは事実であると認めている。最新デモでは開発において著しい前進があったにもかかわらず、このような状態になってしまったと残念がっている。2020年1月に入り、UIデザイナーのプロフィールも更新され、離脱報告が続く。現在、OtherSide Entertainmenのオースティンスタジオに在籍するスタッフはほとんどいなくなってしまったようだ。

 

パブリッシャー探し

『System Shock 3』は期待を集めたプロジェクトであるが、長きに渡りトラブルに苦しめられていた。パブリッシャーのトラブルが発端ともいえるかもしれない。というのも、『OVERKILL’s The Walking Dead』の不振やVR事業の失敗により財政問題に直面したStarbreezeグループは、2019年2月に、OtherSide Entertainmentに権利を売却していた。スタジオは開発の半ばに新たなパブリッシャーを探すこととなった。Spector氏は2019年夏、「たくさんのパブリッシャーが興味を持っている」とコメントを出していたが、前出のコミュニティーマネージャーのLuangkhot氏によるDiscordコミュニティでの定期的な近状報告では、2019年10月になってもなおパブリッシャー探しが続いていると伝えられていた。ただ、Spector氏によるとスタジオの経営状態は、しばらくは自分たちだけで資金繰りできる程度には安定しており、必要に迫られればセルフパブリッシングも可能とコメント。また開発状況としては、2019年2月時点で半分完成しているとも語っていた。

そんなSpector氏の発言とは裏腹に、資金面での苦戦が伝えられていた。原因のひとつとして推測されているのが『Underworld Ascendant』の不振である。『Ultima Underworld』シリーズの精神的続編として開発された同作は、OtherSide Entertainmentボストンスタジオが開発を担当。Spector氏も開発に参加しKickstarterのクラウドファンディングキャンペーンでは約93万ドルを集めるなど、前評判は高かったものの、リリースされた際には『Ultima Underworld』シリーズのエッセンスの少なさや不具合の多さから、批判的なレビューが多く寄せられていた。インタビューなどでSpector氏は、ボストンスタジオとオースティンスタジオは別物だと説明していたが、スタジオとしての実力が疑問視されるきっかけとなってしまった。

また前出の元スタッフとされるKin Corn Karn氏は、2020年1月末にはプロジェクトの失敗について振り返っている。ゲームエンジンをUE4からUnityに変えたことや、デザイン担当の人員不足、デザインに関して効果的なリーダーシップが発揮されたのが遅すぎたこと。マイルストーン設定の視野が狭く考慮不足に陥っており、デモのために力を注いだ仕事の多くが最終的に破棄されることになったこと。また『Underworld Ascendant』の惨事、Starbreezeの経営不振などを、開発難航の理由としてあげている。

『Underworld Ascendant』

一方でプロジェクトのすべてが悪かったわけではないとコメントしており、たとえばゲームエンジンの乗り換え自体は苦戦したが、Unityのスタッフは非常に親切にサポートしてくれたといい、そのおかげでデモは素晴らしいものに仕上がったとコメント。ゲームシステムのいくつかは非常に革新的で、汗水垂らした努力の結晶であったと評価している。ゲームのコア部分は素晴らしかったが、コンテンツのほとんどは制作されておらず、ゲームは半分もできていないとも言及。Starbreezeが経営不振に陥らなければ、新しくも革新的なゲームプレイを届けることができていただろうと悔しさをにじませる。一方でゲームができていたとしても、人気シリーズの『System Shock』の続編としては失望されるであろう、小規模なゲームになっていただろうと語った。氏は現在の状況はわからないとしながらも、今プロジェクトに携わっているスタッフはいないだろうと推測した。LinkedInを見たところ、OtherSide Entertainmentのオースティンに現在も務めていると確認できたのは、Spector氏を含め3名である。

 

リメイクと同じ轍を踏む続編

『System Shock』シリーズといえば、リメイク版についても制作が難航していると伝えられたことが記憶に新しい。シリーズIPを保有するNightdive Studiosは、初代『System Shock』をリメイクすべく、2016年にKickstarterキャンペーンを実施。初期目標金額を大きく上回る約135万ドル(約1億4400万円)を集めることに成功し、さらに公式サイト経由でも多くの資金を集めていた。多額の資金を得たことにより、まったく新しい作品であると感じられる仕上がりにすべくゲームエンジンをUnityからUnreal Engine 4に変更し、開発が進められていた。しかしながら、よりリッチにするために路線を変えたことにより、ゲームはコアコンセプトから離れ始め、自分たちの進むべき道を見失う。最終的に2018年2月には開発の一時的な中断を発表していた(関連記事)。

リメイク版『System Shock』のスクリーンショット

『System Shock』リメイクの開発中断に際してOtherSide Entertainmentは、続編についてはリメイク版の開発中断の影響はまったくなく、開発は順調に進んでいると報告していた。しかしながら皮肉にも、ゲームエンジンの変更やパブリッシャー不在(リメイク版もパブリッシャー探しに難航)という似た理由で、続編もまた開発に行き詰まることとなる。リメイク版はUnityからUE4。続編はUE4からUnityに変更。両開発スタジオ共にゲームエンジンそのものについては称賛しつつも、開発途中にゲームエンジンを変更したことによって、制作が難航しているようだ。なおリメイク版については、再び開発が本格化され、制作順調であると伝えられている。Kickstarterでは毎月アップデートが報告されている。発売予定時期は2020年Q1である。

※2020年1月に公開された、開発スタッフらによるリメイク版のゲームプレイ動画

Kin Corn Karn氏は『System Shock 3』の今後について、悲観的な見解を見せつつ、Warren Spector氏など核のスタッフは残しつつ、ほかのスタジオに開発元を変更するのではないかと予想している。しかし今回の報道が周知されれば、“引き取り手”はより少なくなるかもしれない。長い時を経て蘇ろうとするリメイク版『System Shock』。長い時を経ての続編となる『System Shock 3』。開発に苦しむ両『System Shock』新作は、日の目を見ることができるのだろうか。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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