疑問点をそのままにせず、深掘りして業務にいかす CEDEC+KYUSHU2016

CEDEC+KYUSHU2016の基調講演「GTA ドラクエ Destinyから教わったこと」で、興味深い知見が共有された。講師はスクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXV』ディレクターをつとめる田畑端氏。

プログラマーはプログラム言語や新技術を学び、アーティストは絵の練習を繰り返す。ではゲームデザイナーは何をどのように学べば良いのか……。多くの教育機関、そしてゲーム会社においても、答えに詰まる問いかけだ。こうした中、CEDEC+KYUSHU2016の基調講演「GTA ドラクエ Destinyから教わったこと」で、興味深い知見が共有された。

講師はスクウェア・エニックスで『ファイナルファンタジーXV』ディレクターをつとめる田畑端氏。田畑氏はゲームを遊びながら浮かんだ疑問を自分なりに掘り下げ、業務に活かすやり方を紹介しつつ、ゲームデザイナーとして学び続ける姿勢を示した。

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冒頭「限られた人生でより多くの知見を得るには他人の仕事をしっかり理解して学ぶことが大切」と切り出した田畑氏。なんとなく作られているように思われがちなことも、しっかりとした根拠をもって作られていることが多いという。実際に『FF』シリーズのバトルシステムも「なんとなくおもしろそう」なアイディアを持ち寄り、ボトムアップでデザインされるのではい。適切な総プレイ時間とバトル回数から一回の戦闘に要する時間を算出し、その上でデザインするという、トップダウンの考え方で作られているという。

これは他のゲームでも同じだが、なかなか背後に秘められたノウハウに気づかないことが多い。そこでまずはゲームを遊んで浮かんだ素朴な疑問をそのままにせず、しつこく掘り下げて考えていく姿勢が重要だと指摘した。

 

GTAから学んだこと

はじめに田畑氏が引用したのが『グランド・セフト・オート(GTA)V』だ。「初日に8億ドル以上の売上」「7つのギネス記録を達成」など、華々しい売上を誇る本作。ここで田畑氏は誰もが感じる「なぜ、そんなに売れるのか」という疑問を掘り下げてみたと語った。スクエニ海外支社を通してユーザー層を調査したところ、購入に際して「リアル」「フリーダム」「バイオレンス」という3つのキーワードが浮かんできた。

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ここで田畑氏は、「リアルとは100%の人が想像できる世界、フリーダムとは100%の人に伝わるコンセプト、バイオレンスとは100%の人に内在する本能で、本作が極めて間口が広い作られ方をしていることがわかった」と述べた。ゲーム内容のクオリティの高さもさることながら、『GTA V』のポイントは「世界屈指の間口の広さ」で、ここが過去の『FF』シリーズに欠けていた点ではないかともいう。

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これらの要素を活かして、田畑氏は『FFXV』では「なるべくシンプルな画面デザイン」「スティックを倒してボタンを押すだけで遊べるゲームデザイン」「最初は現実に即した、見たことのある世界観からスタートし、次第にFFらしい世界観に変化していく」作り方を心がけたという。主人公の4人組が自動車を運転しながら、ロードムービー的な移動を繰り広げるグラフィックが押し出されているのも、こうした理由からだったのだ。

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ドラクエから学んだこと

続いてトピックは国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズから学んだことに移った。プライベートでもドラクエを遊び込んでいるという田畑氏。その中でも今回引用されたのはニンテンドーDSで発売され、415万本を記録した『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』だ。二世代ファンも多く、親子でプレイされている本シリーズにおいても、内容以外に「幅広く受け入れられている要因」があるはずだという。

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ここで田畑氏が注目したのが、「DS向けに先行して発売されていたリメイク群」「同じくDS向けに発売された派生タイトルの『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズ」「『ドラゴンクエスト モンスターバトルスキャナー』に代表されるアーケードゲームや、キャラクターグッズ」の存在だ。これらのタイトルを『IX』に先駆けて戦略的に発売していくことで、旧作ファンを呼び戻し、新規ユーザーを獲得、さらには親子で遊べる国民的ゲームとしての機運を盛り上げていったのではないか、というわけだ。

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一作ごとに世界観が大きく変化する『FF』シリーズ。それだけに、その時点で最先端のゲーム作りに打ち込めるが、善し悪しもあるという。ナンバリングタイトルの発売前に宣伝を集中し、ブロックバスター的に短期間で売り上げる「点」の戦略を続けてきた結果、市場やファンが分断されがちだからだ。もっとも「線」の戦略に繋げることは、一作のみの発売では難しい。それでも最大限できることを考えて、実施してきたという。

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「前もってキャラクターたちに感情移入してもらえるような施策の実施」「フルCG映画『KINGSGLAVE FINAL FANTASY XV』など、手軽に見られる映像作品の提供」「海外イベントへの出展など、世界同時発売を最大化させるための宣伝活動」などだ。今作で単体キャラクターではなく、4名を並列に押し出しているのも、チームを一人のキャラクターのように扱い、より親しみを感じてもらうための施策だという。

「東京ゲームショウ2016でキャラクターのおめんを配布したのも、被って楽しんでもらうことで、発売前にキャラクターに親しみを感じていただく効果をねらったものです。幸いにも好評だったようで、SNSに多くの写真をアップしていただけました」(田畑氏)。

 

番外編 田畑氏が求める新人プランナー(ゲームデザイナー)像

講演では番外編として、2013年の新卒向け会社説明会で田畑氏が講演した「プランナー編」の内容も公開された。田畑氏は「若手ゲームデザイナーが社内でよく直面する問題と、求められる振る舞い」をクイズ形式で出題。後半では実際の人物像を紹介しつつ、同社が求めるゲームデザイナー像をあきらかにしていった。

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新規企画をプレゼンしても、上司や経営陣から色よい返事がもらえなかった場合。綿密な開発計画や収支計画を沿えて再プレゼンすることも考えがちだが、おおもとの企画で「おもしろそう」だと感じてもらえない以上、かりに他の説得材料で突破したところで、ゲームデザイナーとしての信頼は得られないという。機会ある限り、何度でも新企画を考えて提案する方が良いとされた。

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次に上司や先輩から自分がよく知らない作品や事例をもとにアイディアを説明された場合。一般的には知らないことはすぐに質問する、検索するといった行為が求められるが、これは相手の意図を理解するための手段にすぎない。ゲームデザイナーにとって重要なスキルの一つに、プログラマーやアーティストという異なる価値観の持ち主の要望や考えを素早く察知して正確に理解し、他人に伝達する能力がある。若手ゲームデザイナーはこのスキルを磨くべきで、作品情報は二の次にすぎないというわけだ。

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最後に紹介されたのが、学生時代の同期より年収が少ないことがわかった時。これはあくまで一例に過ぎず、自己解決できない問題をどのように取り扱うかということだ。正解は「解決できる人を頼る」ことで、問題は常に最速で解決することが重要だという。ゲーム開発では常に未知の問題が発生し、多くの場合ゲームデザイナーがその解決策の道筋をつけることになる。問題解決能力の乏しいゲームデザイナーが活躍するのは難しいとした。

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その後、スクエニのゲームデザイナーのプロフィールや仕事ぶりが紹介された。田畑氏は「社内で活躍している人は自分の長所を見つけて、それを積極的にのばしてきた人が多く、結果的に個性が強い人が多い」という。そのうえで「自分が応募してほしい」と思う人物像を紹介。「心身ともにタフな人」「自分の理想像に近づきたい人」「スクエニが好き、または嫌いな人」「女性(当時、女性ゲームデザイナーが少数だったため)」をあげ、これは現在でも多くの会社で共通する項目ではないかとまとめた。

 

Destinyから学んだこと

最後にトピックは『Destinyから学んだこと』に移った。『Halo』シリーズを手がけたバンジーが開発を行い、2014年にPS4・PS3・Xbox One・Xbox 360で発売されたタイトルだ。内容もさることながら、「業界全体を巻き込んだ事前の盛り上げムードが半端ではなかった」とふりかえる田畑氏。E3公開のトレーラー再生数が937万回で、『FFXV』の発売日発表時のトレーラー再生数が約700万回だったことからも、その一端がうかがえる。

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田畑氏はこの状況を「バンジーの新作という期待感」「新世代機のローンチに続くタイミングで、このゲームが売れてもらわないと業界的にも困るという思い」「アクション・RPG・シューターと盛りだくさんの内容で、全体像が掴みにくかった点が、期待感の継続につながった」からだと分析。開発と並行して、こうした状況を創り上げていった点が大ヒットに繋がったとした。

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それでは、このエッセンスを『FFXV』でどのように応用すれば良いのか。他のタイトルと同じく『Destiny』と『FFXV』も内容やゲームを取り巻く状況が違いすぎて、そのままでは応用できない。そこで田畑氏は「メディアやユーザーにネットが荒れても真実を伝え続けた」「発売日発表タイミングで注目してもらえる材料を作った」「開発中のゲームを逐次公開して、ゲーム内容に対する興味に答え続けた」という3点をあげた。

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実際『FFXV』はストリーミング動画チャネルでの開発者トークや、発売前からCEDECなどで技術講演を続けるなど、これまでのパッケージゲームの常識を覆す事前プロモーションが行われている。『ファイナルファンタジー ヴェルサス XIII』の後継プロジェクトということもあり、トークではデリケートな問題に触れることもあったが、できるだけ真摯に対応することを心がけてきたという。

「責任者が誰で、ユーザーからみて文句を言う相手が誰か明確になった方が良いと思い、自分から情報発信することに決めた。自分としても、やらなくてすむなら、やりたくないのも事実」とあかす田畑氏。実際、当初は発言をいぶかしむユーザーも多かったという。しかし情報発信を続けるごとに、次第にユーザーコミュニティとの信頼関係が構築されていくなど、状況が変化してきた。

開発バージョンの公開についても、そのクオリティに対して、当初ネガティブな報道も見られた。しかしバージョンが上がるごとに好意的な記事が増えていき、最近では非常に良い状況になっているという。

 

大ヒットタイトルから学んだ内容は正しかったか

最後に田畑氏は発売日が9月30日から11月29日に延期されたことに触れ、「スクエニとしてもオープンワールドのゲーム開発は初めてで、完成直後になってさまざまな不具合や問題点が発覚した。実際、ちょっとしたミスが大きな遅延につながることを経験した。当初は9月30日に発売できると確信していたが、誤った見通しだった」と経緯を述べた。

そして本来、この講演では発売後の結果を見て、自分が学んで実施したことの答え合わせをするつもりでいたと補足。日本もさることながら、海外市場での結果についても注目してほしいとまとめた。

このように本講演は、他社タイトルを分析し、その内容を自社の施策に応用した内容を公開するという、非常にユニークなものだった。実際、大手企業である程度の地位にいる人物が、これほどフランクに他社のタイトルを引用し、(社内勉強会などではなく)公開の場で共有した事例は、日本では(おそらく)過去に例がない。その意味でもゲーム開発者コミュニティの成熟ぶりを示したモノになったと言える。

その上でポイントは、田畑氏が上げた分析が正確か否かは、直接的な問題ではないということだ。それよりも重要なのは、自分が感じた疑問を自分なりの視点で考察し、言語化して、自身の取り組みに応用すること。そして、その内容が正しかったか否か、独自の指標で(今回の場合は売上本数)検証することだ。いわゆるPDCAサイクルの活用であり、優れたゲームデザイナーは常にこのことを意識している。

考え続けること。それを検証すること。そして思考の精度を上げていくこと。これがゲームデザイナーの成長に重要である。その実例が共有されたことが、本講演の最大の意義だったといえるだろう。

Kenji Ono
Kenji Ono

1971年生まれ。関西大学社会学部卒。「ゲーム批評」(マイクロマガジン社刊)編集長などを経てフリーランスのゲームジャーナリスト。GDC、E3をはじめ、国内外のゲームイベントへの取材・レビュー・インタビュー記事、書籍執筆、講演など、幅広く活動している。NPO法人IGDA日本名誉理事・事務スタッフ。主な書籍に「ゲーム開発者が知るべき97のこと②」(編著)がある。

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