ゲーム開発を支えるアセットを売るメリットや苦労とは?「UE4マーケットプレイスに神社アセットを出品して分かったこと」レポート

Unreal Engine 4マーケットプレイスに、「Shinto Shrine」と呼ばれる作品がある。日本の神社をモチーフにした同アセットは、国内外で高い評価を獲得している。そんな神社アセットの制作者である中村基典氏がアセットを売るというメリットや苦労などを語った。

ゲームエンジンの登場によって、ゲーム開発のシーンは大きく変化した。インディーから国内外の大手開発会社が手がける大作まで、自社開発の独自のゲームエンジンではなく、既製のゲームエンジンを採用することで開発が効率化されている。特に小規模な開発チームでは、既製のゲームエンジンの強力な機能群による恩恵は大きく、高品質なグラフィックの実現においては、アセットストアで販売されているアセットも貢献している。

そんなアセットの一つに「神社アセット」と呼ばれる、フォトグラメトリーな背景アセットがある。「Shinto Shrine」として、Unreal Engine 4(以下、UE4)マーケットプレイスに出品されている作品だ。リリース後はそのクオリティから海外の有名雑誌3D Artistや、国内のCG・映像雑誌CG Worldに掲載されるなど、国内外で高い評価を獲得している。そんな神社アセットの制作者である中村基典氏が、4月20日に京都コンピューター学院で開催された「UNREAL FEST WEST 2019」で、「UE4マーケットプレイスに神社アセットを出品して分かったこと」というセッションを行った。

 

元は習作として

中村氏は、現在都内のゲーム開発会社に所属している3D背景アーティスト。約16年間、主にモバイル向けタイトルやコンシューマーゲームの3D背景を制作してきた人物だ。神社アセットの制作が行われたのは2年前。制作期間は約1か月、フォトグラメトリーの習作として作成されていた。収録されているのは鳥居から拝殿まで、神社の一部なものの、小規模ながら特有の荘厳な雰囲気が画像からも伝わってかのような出来栄えで、岩や木彫りの建築彫刻など細部まで作り込まれている。元々販売する予定はなかったそうなのだが、好評だったことから出品を決意。既成品を使用していたフォントの手直しや申請の手続きを経た後、2017年5月にUE4マーケットプレイスでの販売がスタートした。

ストアでの販売価格は記事執筆時点で5931円。ここから12%の手数料を引いた分が、中村氏の取り分となっている。具体的な数字についてはセッションの受講者にのみ公開されており、本稿において明かせないが、リリースから2年経過した現在でも継続的に購入されており、雑誌・ランチャートップなどに掲載された月は売上が増加。中村氏は、「数倍の売上があったとしたらマーケットプレイスだけで生活ができる」「フリーランスの単価より高い売上があったらいいな」と漏らしており、「現在の売上では心もとない部分がある」そうなのだが、「一か月で作った割にはそこそこの利益」となっているのだとか。なお、UEマーケットプレイスに神社アセットが出品された2017年5月には、手数料はまだ30%だったが、後に12%へと変更された際、それまでの差額が全額振り込まれたという。中村氏は12%に下がっただけでも喜んでいたそうなのだが、これには驚き「さすがエピックだな」と感銘を受けたそうだ。

 

思ったよりも楽

続いて、UE4マーケットプレイスへの出品を検討している方向けに、出品する際に注意したことが語られた。中村氏は、UE4マーケットプレイスへ出品するにあたって紹介動画を作成。シーケンサーを使って撮影し、URLを説明文に記載して、購入検討者が紹介動画を見られるようにしたという。現在のUE4マーケットプレイスには画像しか置けないため、この方法は効果的なのだとか。また、アセットを申請する際は、メールを使って英語でやり取りする必要があるが、英語が苦手だという中村氏でもグーグル翻訳を利用するなどで、思ったより苦労はしなかったそうだ。UE4マーケットプレイスのストアには説明文があり同じく英語が必要だが、こちらはアメリカ人の友人に頼むことで解決した。

販売を行うにあたって避けられない問い合わせについても語られた。送られてきた内容は、商用利用の可不可、セールについて、新しいバージョンへの対応など。問い合わせについても10件ぐらいで、想定していたより少なく、苦情も全く無かったため、今の所そこまで大変な質問はきていないのだとか。銀行口座については、新生銀行を利用。外貨預金口座を使用し、UE4マーケットプレイスの手数料12%を引いた分がドルでそのまま振り込まれており、任意のタイミングで円へ換金。この方法だと全てWebで完結しているため、便利に感じているのだとか。また、税金については、「収入として日本円で申請するだけ」で良いそうだ。

「当たり前のこと」と前置きした後、どんなアセットを販売するのが良いのかについても語られた。中村氏は、今までにないジャンルなど層の薄いジャンルのアセット。幅広いバリエーションが必要で、岩など幅広いゲームに使えそうなアセット。とにかくクオリティが高いアセットなどが、良いと述べていた。

 

マーケットプレイスだけで生活できる可能性がある

マーケットプレイスのススメとして、UE4マーケットプレイスで販売するメリットが挙げられた。まず語られたのは「クライアントがいない」ことだ。クリエイターは大抵の場合会社に所属しているか、フリーランスであってもクライアントの居る仕事が9割で、依頼に従って働いている。明確なクライアントがいない、マーケットプレイス向けに作ることで、自由な時間を使って自分が作りたいものを作れるため、納期もなく精神的にもよい。世界中に向かって直接販売できるため、中村氏はマーケットプレイスだけで生活できる可能性あると考えており、技術を持っている人にとって良い場所だと感じているそうだ。また、自主制作であるため、ポートフォリオになる点も語られた。

仕事で作成したアセットは、著作権や版権などが絡み、自由に使うことはできないが、自分で作ったものなら勿論自由だ。中村氏は、神社アセットを作ったことをきっかけにCG Worldの取材を受け、記事を執筆している。その際神社アセットを自由に使えることのメリットを感じ、有利だと思ったそうだ。次に挙げられたのは、デジタルデータなので管理が楽なこと。フィギアなどの場合だと型を作ってコピーすることになるが、デジタルデータなら手がかからず、放置しているだけで勝手に収入が入ってくる。縛りもなく自由に自分のペースで作れて、需要があれば継続的な収入になる。マーケットプレイスはそれらが強みとなるだろう。

 

大手には値段を3倍に

続いて、UE4マーケットプレイスへの要望が語られた。最初に挙げられたのは、全体的に値段が低いこと。自由に値段がつけられるため、高くつければ良いのだが、UE4マーケットプレイスは全体的に値段が安く設定されている。そのため、中村氏は価格を高くつけづらく感じているそうだ。氏は、UE4マーケットプレイスに出品されているアセットは商用利用できるため、もっと高い値段を付けてよいと思っており、次回出品する際には、もう少し高い価格をつけようと考えているのだとか。値段に関連する話で、価格をインディーとそれ以外で分けたいと考えているとも述べた。大手の会社もマーケットプレイスを利用しているが、彼らにとって数千円や数万円はタダ同然。なので、例えば売上が1000万円以上の会社に対しては、 3倍ぐらいの値段を設定できるようになればいいと語られている。

セッション名どおり、マーケットプレイスでの出品にまつわることが語られたが、記憶に残ったのはマーケットプレイスだけで生活できる可能性についてだ。中村氏によれば、コンスタントにアセットをリリースし続けることで、十分マーケットプレイスで生活できる可能性があるといい、技術のあるクリエイターにとっては、大きな意味を持っているのではないだろうか。なお、中村氏が作成した神社アセットは現在でもUE4マーケットプレイスで販売中。「フォトグラメトリーを活用したフォトリアルな神社アセット制作」という講座動画もCG Worldで販売中となっている。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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