中国で異例の大ヒットを記録した『旅かえる』は、Unity Adsと共に広告+課金の最適化を果たした。その成功の経緯と収益構造に迫る(前編)

インディーからAAA級まで幅広いタイトルで採用されているゲームエンジンUnity。本稿ではUnityがサポートしているモバイルゲームのマネタイゼーション分野に焦点を当て、Unity AdsやUnity Analyticsの有益性、そしてUnity Adsのマネタイズサポートにより収益最大化を図った『旅かえる』が取り入れた工夫を紹介する。

PCからモバイルまで幅広いプラットフォームに対応し、インディーからAAA級タイトルまで開発規模を問わず採用されているゲームエンジンUnity。今では世界のモバイルゲームの約半数がUnityを活用しており、LinkedInの調べによると米国で成長している雇用需要ランキングの7位にUnity開発者が食い込んでいるという。日本国内でも2017年にはUnity Proユーザーが1.5倍に増え、確実に浸透してきていることが分かる。

Unite Tokyo 2018 基調講演より

そんなUnityの基本理念は、「開発の民主化」「難しいことに挑戦」「成功を支援する」の3つ。彼らの役割はゲームエンジンの開発にとどまらない。より簡単に、より多くのクリエイターに力を与えるべくUnityはどのような機能・サービスを提供しているのか。5月7日から5月9日にかけて開催されたUnite Tokyo 2018では、数々の講演・展示を通じてUnityの魅力が発信されていた。

本稿では、Unityがサポートしているモバイルゲームのマネタイゼーション分野に焦点を当て、拡充を続けるUnityのサポート体制、そしてUnity Adsを活用することで収益最大化を図った大ヒット作『旅かえる』のノウハウを、前編の講演取材・後編の個別取材に分けて紹介する。

プレイ体験を邪魔しない広告サービス

モバイルゲームのマネタイゼーション分野では、Unity Technologiesが展開する動画リワード広告サービスUnity Adsが成長を続けている。弊誌でも「プレイ体験を促進させる」広告サービスとして紹介したことのあるUnity Ads(関連記事)。今では世界中の10億人以上のプレイヤーに、月間250億件以上の広告リクエストを届けているという。

サービスの仕組みとしては、開発者がゲーム内で広告表示箇所を指定し、プレイヤーの任意選択により動画広告を視聴してもらう。するとプレイヤーはゲーム内アイテムや通貨といった報酬を手にする。プレイ体験を阻害することなく収益化に繋げられる上に、プレイを継続してもらうためのインセンティブとしても機能する。広告出稿者としても、動画広告を見てゲームの概要を理解し、本当に興味を持ったプレイヤーにインストールしてもらえるという利点がある。このようにUnity Adsは、プレイヤー・広告出稿者・広告表示者の三者にメリットを提供している。

しかもUnity AdsはSDK不要で簡単に実装できるため、リリース前でもリリース後でも容易に組み込むことが可能だ。例えば、2017年に配信され中国で異例の大ヒットを記録した『旅かえる』の開発チームはたったの4人。ゲームそのものの開発以外に割けるリソースが限られている中、最小限の負担でUnity Adsを導入し、広告収益の拡大に繋げることができた。

Unite Tokyo 2018の講演「旅かえる – 中国でのヒットとともに何が起きていたのか&課金・広告共存の収益化」(講演資料)では、『旅かえる』を開発した株式会社ヒットポイントのプロジェクトマネージャー高崎豊氏と、Unity Technologies JapanのUnity Adsディレクター金田一確氏が登壇。『旅かえる』の中国での成功とともに起きていたこと、後から考えると事前にやっておけばよかったこと。さらにはユーザーフレンドリーに振り切った作品でありながら、世界観を壊さない課金・広告共存型の収益モデルを成立させた工夫などが紹介された。

中国で一大ブームを巻き起こした『旅かえる』とは

『旅かえる』

株式会社ヒットポイント(2007年創立)はスマートフォン向けのゲームアプリ開発・運営会社。2014年にリリースした『ねこあつめ』は3年間で2000万ダウンロードを達成したヒット作となり、ニンテンドー3DS版の発売、グッズ販売、実写映画化など活躍の場を徐々に広げていった。

そんな『ねこあつめ』の開発チームが手がけた最新作が、2017年11月に国内Android版が配信された『旅かえる』である。日本全国を旅してまわるのが大好きなかえるにお弁当やお守りを持たせて旅に送り出し、かえるが持ち帰ってくる記念写真やお土産を眺めて楽しむ。かえるはプレイヤーの意志とは関係なく旅立ち、場合によっては数日間帰ってこないこともある。プレイヤーが関与できるのは、数時間置きに生えてくるクローバー(無償ゲーム内通貨)の収穫や、次の旅路に備えるためのアイテム購入といった限られた範囲のみ。隙間時間を使ってゆったりと楽しむ放置系のゲームアプリだ。

中国では2017年12月にiOS版が配信されており、中国語に対応していないにも関わらず、5か月間で累計3800万ダウンロードを達成している。そのうち約80%は中国からのダウンロードであり、次に多いのは台湾の10.5%(日本は3.4%)。Unity Ads導入タイトルという観点から見ると、『旅かえる』は世界中のヒット作品をおさえ、Unity Adsによるゲーム別月間収益額世界1位を記録したこともある。圧倒的なダウンロード数と、中国の広告単価の高さ(eCPM4000円弱)が後押ししたものだ。


『旅かえる』がヒットした理由を特定することは難しい。同作を開発したヒットポイント自身も、明確な答えは出せていないという。ただUnity Adsディレクターの金田一氏は『旅かえる』『どうぶつタワーバトル』『TIME LOCKER』といったUnity Ads導入事例から、「ありそうでなかった」「楽しめるプレイヤー層の広さ」というふたつの共通要素を抽出している。思えば、『旅かえる』のような放置系ゲームは当時の中国では「ありそうでなかった」部類に入っていた。また普段ゲームをプレイしない中国の若い女性の間で人気を集めていたことから「楽しめるプレイヤー層の広さ」という要素も当てはまる。カジュアルゲーマー・女性プレイヤー・海外プレイヤーと、複数のプレイヤー層にオーバーラップする形で浸透していったのだ。

再現性のあるヒット理由が無いとはいえ、参考にし得る情報はある。Unite Tokyo 2018の講演では、「1.旅かえるで起きていたこと」「2.口コミの力」「3.ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと」の3つに項目を分けて情報がシェアされた。

「1.旅かえるで起きていたこと」

ヒットポイントにとって『旅かえる』は初のヒット作ではない。先述したように『ねこあつめ』にて2000万ダウンロードを達成したことがある。ただし、成功に至るまでの過程は大きく異なる。『ねこあつめ』は英訳対応が済んでから北米ダウンロードが伸びたりと、ある程度準備ができた上でプレイヤー人口を増やしていった。一方、『旅かえる』は配信から2か月経たないころから1日380万ダウンロードを記録するほどの急激なプレイヤー数の増加を経験している。十分な準備ができていないまま、グローバルなヒット作の仲間入りを果たしたのだ。講演で触れられたのは、こうした予期せぬヒットに伴い発生した問題である。

まず、プレイヤーからの問い合わせやメディアからの取材申し込みといった電話・メール対応に追われることになった。電話が鳴り止まず、メールサーバは問い合わせの殺到により半日でパンク。なかなかコンタクトを取れずしびれを切らした中国記者がヒットポイント社に直撃訪問することも。それら諸々の対応をわずか4人の開発チーム内でこなしていたことから、業務がまわらなくなったという。

実務以外でも海賊版の横行、偽アプリの氾濫、勝手なコラボやグッズ販売といった問題が発生した。中国のAndroid市場はiOS市場よりも大きいものの、参入するには中国パブリッシャーを介して政府の許可を得る必要があるためハードルが高い。『旅かえる』もAndroid向けには中国展開しておらず、それでもなんとかプレイしたいという需要が生まれたことから海賊版が出回るようになった。

中国でのヒットに伴い多くの問題が発生したが、開発チームは4人しかいない。そこでユーザー、権利、収益に関わる問題の順に優先度を決めて、各種問題の鎮火を進めていったという。こうした一連の流れを経験したヒットポイントは、中国展開の前にやっておくべきこととして、まずアプリ名だけでもローカライズすることを推奨している。中国では『旅かえる』ではなく「旅行青蛙」という愛称で親しまれるようになったことから、その愛称を使った偽アプリの方にユーザーが集まってしまったとのこと。アプリ名をローカライズして中国語のまま検索できるようにしておけば、偽アプリではなく本物アプリにたどり着きやすくなる。

そのほか中国でのパブリッシャー探しや商標登録・著作権登録を済ませておければ、なお好ましい。特に権利や収益に関わる問題については、ひとつひとつ訴訟を起こしていくのはなかなか難しく、中国パブリッシャーに委ねることができれば心強い。『旅かえる』の場合はこれら諸々の対応を事後的に進めることになった。広告収益の最大化にリソースを割きづらい中、リリース後でも簡単に実装できるUnity Adsは大きな助けとなっただろう。

「2.口コミの力」

ヒットポイントは小規模デベロッパーであり、大々的にプロモーションを打っていくことが難しい。そのため、SNSを通じた口コミの力をフルに生かせるようなゲーム作りが心掛けられていた。そもそも『旅かえる』は待機時間が極端に長いことや、海外向けにローカライズされていないことなど、ゲームとしてかなり人を選ぶ作りになっている。だが本作のような見守るだけで良い緩さ、悟りを開いたようなゲームデザインは当時の中国では珍しかったこともあり、「仏系ゲーム」として若い女性から人気を集めるようになった。

中国は日本よりもSNSによるコミュニケーションの力が強く、うまく拡散モードに入ると一気に広がっていく。そうした発信と交流を促すため、『旅かえる』ではふたつの工夫がなされている。ひとつ目は、画像を投稿できるようにすること。他のユーザーと被りにくい画像を用意することで発信欲を刺激するのだ。ふたつ目は、わざと分かりづらい要素を残しておくこと。本作のかえるは旅先の写真やお土産を渡してくれるだけで、どこに行って何をしたのか、言葉では説明してくれない。かえるの動向をユーザー間で推測し合うといった交流のきっかけを与えている。話題にしやすくする工夫とも言える。

写真やお土産から、かえるがどこを旅してきたのか推測する

「3.ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと」

以上は『旅かえる』という個別事例をもとにした参考情報である。続く「3.ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと」では、Unityに蓄積されたノウハウから、ヒットを最大限に生かすため、次回作のヒット確率を高めるために取るべき行動がシェアされた。

・最初から海外を視野に入れる

まずユーザーの自然流入を増やすため、最初から海外を視野に入れてゲームを開発することが推奨されている。Unity Adsの広告収益額上位に位置するタイトルには、海外収益が高いものが多い(2016年下半期には、収益額トップ20のうち半分が海外収益20%超え)。間口が広ければ、それだけヒットする確率も上がる。とはいえ最初からゲーム全てをローカライズするのは難しい。最初のうちはゲーム内の言語説明を減らしたり、アプリタイトル・ストア説明文だけでも複数言語に対応させたり、できる範囲から始めておいて、好感触の国を絞り込めたら本格的なローカライズを始めるという手順が紹介されている。

台湾は日本との文化的な近さもあり成功率が高い。中国は当たったときの収益額が大きい

・Voodooから学ぶ継続率向上策

ゲームパブリッシャーのVoodooは世界中から有望なタイトルを発掘し、圧倒的な広告出稿でランキング上位を維持している。特に注目に値するのが、彼らの継続率向上ノウハウである。まずはゲームのルール説明を極力簡易に、ゲームプレイそのものも可能な限り簡素化することで、新しいゲームを始めるハードルを最小化している。難易度調整やステージ分けにより1プレイ3分におさまるようにして、隙間時間でも起動してもらえる、習慣化しやすい作りにするというのがVoodoo流のやり方である。ゲームそのものの面白さを凝縮させるという考えは、カジュアルゲームに限らず参考にできるものだろう。

またキャラクタースキンの収集や、ミッションのクリアといったゲームそのものの面白さ以外の継続理由を設けることで、プレイヤー自身の成長がなだらかになったときに繫ぎ止めることができる。1起動あたりの平均プレイ回数・時間が終わる手前でリワード広告を表示することで「もう1プレイだけ」のサイクルを伸ばすことも、有効な施策とされている。

・Unity Analyticsの活用

Unityの分析ツールであるUnity Analyticsを使えば、改善アクションを取るべき数字・計測指標をコーディング不要で手軽に分析・設定できる。カジュアルゲームの目安としては、1日継続率40%、7日継続率20%、30日継続率10%という数字がUnityの考える最低ラインとして提示されており、Unity Analyticsを用いることで、それらと因果関係・相関関係のありそうな指標に絞って現状把握と分析を進めることができる(参考:Unity Documentation)。

・広告と課金を共存させる(『旅かえる』の場合)

『旅かえる』の収益モデルは課金と広告収入の二本立て。課金は直接お金を払うハードルの高さや、お金を使えるユーザが有利になってしまうという難点がある。広告は広告で、ゲームの世界観が崩れてしまう恐れがある。ところが『旅かえる』では、それらを押し付けがましくない、ユーザーフレンドリーな形で共存させている。

特に広告に関しては、ゲーム内の郵便ポストに入っているチラシをタップすると表示される仕組みになっている。ゲームの内容とうまく切り離されており、かつユーザーの任意で受け取れるチラシという形式を取ることで、プレイ体験を損なうことなく実装できている。広告が表示されても不自然ではないチラシという仕組みを挟むことで、広告の存在を受け入れてもらいやすくするのだ。

Unity Ads導入後にはユーザーあたりの広告収益も20%〜30%増加。ユーザー数と客単価の両方を伸ばすことで収益増に繋げていった

・広告と課金を共存させる(『FASTLANE』の場合)

Supercellの子会社Space Ape Gamesが開発した縦スクロールシューター『FASTLANE』は、2017年5月のリリース後、10か月で累計1600万ダウンロードを記録。課金と広告による月間収益は約2億6000万円(うち広告収益は約1億5000万円)で、ほぼUnity Adsの動画リワード広告のみで250万視聴/日を達成している。

『FASTLANE』もまた、ユーザーに嫌われない広告実装を目指した事例のひとつである。最初からゲームプレイループの中に広告収益モデルを組み込み、その上でプレイ体験を損なわず、ユーザー/広告主の双方に価値を創造できるような仕様が模索された。最も効果的な実装方法を求め、広告表示頻度、ユーザーあたりの広告表示回数の制限、広告設置箇所など項目毎に細かくテストを重ねていった。

試行錯誤から学んだこととして、1プレイの前ではなく後で実装する方が広告のアプリをダウンロードしてもらいやすいとの発見があったという。また広告視聴の報酬内容は通常プレイで得られる報酬と、アプリ内課金で得られる報酬の中間に位置する程度の効果があり、かつそれらの効果の差が大きいと感じてもらえることが重要となる。

ゲームそのものの面白さに時間を割けるようサポート

ゲーム開発における最重要項目は、あくまでもゲームそのものの面白さを際立てること。その最重要項目に最大限の時間を割けるよう、周辺部分をサポートしていくのがUnityの役割である。Unity Analyticsによりノンコーディングでのユーザー分析を可能にし、Unity AdsによりSDK実装の負担をかけることなく収益最適化に貢献する。「世界で数字を取れる、世界で活躍する、世界で愛されるゲームを作っているデベロッパーが身近にいるというのが当たり前の環境を支援していきたい」。それが金田一氏の語る、Unity Technologies Japanとしての想いだ。

そして「世界で愛されるゲームを作っているデベロッパー」として活躍するヒットポイントの高崎氏は、ゲームを遊ぶのはあくまでもユーザーであり、設定したターゲットをしっかり意識することが大切であると最後に強調した。ヒットはユーザーが生むもの。いかにゲームがユーザー自身のデータであると思ってもらえるか。そこを意識しつつ、コミュニティに無駄に干渉することなく、仲間内に自然と広がっていけるよう工夫を凝らすのだ。

デベロッパーの成功支援に徹したUnityと、ユーザーを楽しませるエンターテイナーに徹したヒットポイント。この両社の力により、『旅かえる』という異例のヒット作は、自らの成功を最大限に生かすことができた。後編の個別取材では、成功のキーマンとなった担当者二人に話を伺う。

Ryuki Ishii
Ryuki Ishii

元・日本版AUTOMATON編集者、英語版AUTOMATON(AUTOMATON WEST)責任者(~2023年5月まで)

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