多角経営化するモノビットの目指す先。モノビット・モリカトロンホールディングス桑野範久氏【GTMFインタビュー】

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」展示者もしくはMeet-Ups登壇者を対象にインタビューする本企画。モノビット・モリカトロンホールディングスの桑野範久氏に多岐にわたる展開や事業の理念などを伺った。

ゲーム開発ツール&ミドルウェアの祭典「GTMF(Game Tools & Middleware Forum)」展示者もしくはMeet-Ups登壇者を対象にインタビューする本企画。

モノビットは、代表取締役である本城嘉太郎氏が、オンラインゲームを作る夢のために設立された会社だ。現在ではモノビット・モリカトロンホールディングスの1社として、多数のスマートフォン向けタイトル開発や3DS版『ドラゴンクエストXI』ではグラフィック制作の一部を担当して、ゲームの開発に協力している。グループ会社には、『リボルバーズエイト』や「バーチャルキャスト」にも採用されているモノビットエンジン。日本初のゲーム専用AIの会社を謳う「モリカトロン」、そして「アボカド」があり、モリカトロンはゲームQA(ゲームデバッグ)分野に進出していたり、モノビットは受託開発以外に2017年にVRコンテンツをリリースたりなど、多彩な展開をしている。今回「GTMF 2019」大阪会場では、そんなモノビット・モリカトロンホールディングスの桑野範久氏に多岐にわたる展開や事業の理念などを伺った。

―――自己紹介をお願いします。

桑野範久氏(以下、桑野氏):
モノビット・モリカトロンホールディングスでセールス&マーケティングマネージャーをしている桑野 範久と申します。最初は2005年にゲーム業界―――大手デバッグ会社に営業として入りまして、新規営業とローカライズなど開発以外の周辺のサービス立ち上げなどをやっていました。その後モバイル&ゲームスタジオ(現ゲームスタジオ)というゲーム開発会社に入りました。そして約2年半後に、大手ソフトウェアテスト会社へ入社しました。

この会社は、当時選択肢のあまりなかったデバッグ業界で、新しいやり方を提案しているような会社で、これを広めたいなと思ったのです。そこで3年間ほど、営業としてサービスの拡大に取り組んでいました。その後HTC NIPPONを経て、去年の6月からモリカトロンへ入りまして、ホールディングスに移籍し、グループ全体を見ています。ゲーム業界に入って14年、ずっと営業やマーケティング、ビジネスマッチングをやったり、そういったことをゆるくやってきました。

モリカトロンはゲーム専門のAIの会社なのですが、ゲームQA(デバッグ)事業をすることになり、私は、デバッグ人材の採用や営業などの立ち上げをやりながら、グループのモノビットエンジンのお手伝いしている最中です。私の仕事としては、モリカトロンのデバッグが一番メインで、展示会の時はモノビットエンジンのお手伝いをしたりしています。

―――今ホールディングスには会社が4つありますが、それぞれをざっくり説明していただけますか。

桑野氏:
母体のモノビットはゲームの受託開発をしている会社です。代表の本城 嘉太郎が元々トーセでオンラインゲームの開発を手掛けてきたプログラマということもあり、ネットワークに強い会社でして、モバイルゲームの開発から今はスマホとかVR、今の主力はスマホアプリの運営や開発をやっています。

その中でミドルウェアを事業化することになり、分社化して出来たのがモノビットエンジンです。ミドルウェアはいろんな会社さんと組んでやっているのですが、通信エンジン専門の会社として、より自由に動けるように分社化しています。

モノビットで受託開発として受けた案件で、モノビットエンジンを使う場合もあります。元々モノビットエンジン自体は4~5年前からあるのですが、3~4年ほど前に、元々某大手パブリッシャーの子会社にいた、クラウドゲームやオンラインゲームの権威的な中嶋さんがCTOとして入ってリニューアルしたのが今のモノビットエンジンです。基本のサービスであるモノビットレボリューションサーバー(MRS)に加えて、Unity上に簡単に実装できる専用の通信ミドルウェア「Monobit Unity Networking 2.0」とVRコンテンツ用のボイスチャット「VR VoiceChat ver.2.」、Monobit Unity Networkingのクラウドサービスである「モノビットエンジンクラウド」を展開しています。

「アボカド」は高知県でゲーム人材を雇用して、ゲーム開発やVR開発、イラストやデザインの制作をしている会社です。高知県以外にも宮崎県日南市や山口県などにも拠点があり、さまざまな事情で首都圏から地方へUターンすることになった経験者と地元の人が一緒にゲームを作るという、そういうちょっとゆるめのことをやっています。

モリカトロンは、2年前に設立されたゲームAI専門の会社です。1998年に発売された『アストロノーカ』や『がんばれ森川くん2号』を手掛けた森川幸人が、当時はまだAIと呼ばれていなかったAIの技術を、昨今のAIブームの中でもう一度研究開発していくために設立されました。森川の他に成沢がいて、そこに経営を見られる役員として本城が入り、モノビットとは別の企業として出来た会社です。昨年末にホールディングスになりグループ会社となりました。最初、モリカトロンはゲームAIの受託開発をしていたのですが、もっと汎用的に業界の人たちに使ってもらえる分野でAIを活用してもらうべく、ゲームQA(ゲームデバッグ)でのAI活用を目指しています。

―――ゲームやAIの研究には企業体力が必要ですよね。研究しているだけじゃなくて、受託もしながら研究を進めているというイメージでしょうか。

桑野氏:
そうですね。受託をしつつ研究もやろうと思っていたのですが、受託にリソースを取られてしまうと研究が進まない。それだけだと厳しいので、ゲームQA(ゲームデバッグ)部門を立ち上げて、収益を稼ぎ回していくというサイクルを取り入れています。私が入社前に本城から相談を受けたのですが、大手のデバッグ会社が既にある中で、今からデバッグ会社を立ち上げますと言ってもなかなか厳しい。当初は提携してやるとか、他のリソースを使うとか―――そんな話もありましたが、今はゲームQA(ゲームデバッグ)を本気でやっています。

昨年6月に入社して、年末ぐらいまでに人を採用したりして、セキュリティがしっかりした専用ルームも完成して、今年に入ってから案件が稼働し始めました。それまではモノビットの内部案件とかをやっていたのですが、3本ぐらい大きな案件が決まりまして、それを稼働させています。ただ、一気に拡大してしまうと他の会社様と変わらなくなってしまうので、今はサービス品質の安定を重視しています。

AI開発の方も受託の比率を薄めて、共同研究やラボ型開発が増えてきています。「ラボ契約」といって、納品ではなく人材やスキルを提供する契約スタイルでやっています。お客様のチームの一員となってやることで、研究成果やノウハウも、お客様の知見として溜まっていくという仕組みです。

―――出向でしょうか。

桑野氏:
出向ではないです。部門は外だけれど、一緒にやっていきましょうという形です。権利も相手の会社さまにもいきますし、発表も協力先の会社もできる。人材やスキルを提供することで、お金を頂きつつも一緒に研究していくスタイルでやっています。

―――ビジネスの中に研究を盛り込んでいるんですね。研究のための研究ではなく。

桑野氏:
AIの研究開発は、仮説をたてて、チャレンジしたけれど上手くいかないと言う
ようなケースもあるので、お客様にもリスクをとっていただかないといけない部分もあります。完全に出来ます・出来ませんとはいかない部分もあるので、経済的な余力があり、自社でAIを研究したいけれど、リソースがないような会社様と一緒にやっていますね。

―――ビジネスとしても興味深いお話ですね。

桑野氏:
AIに関していうと、スクウェア・エニックスの三宅陽一郎さんが業界を盛り上げるようなことをされていますよね。ゲーム分野でAIの研究をしている人口自体が少ないので、協力していくためのコミュニティが出来まして、勉強会とかも一緒にやっています。ゲームQAとかデバッグとかであればどこの会社さんでも使えるので、そういったところからやっていければいいよね、と。

―――改めてモノビットについて伺わせてください。モノビットさんの商品は、モノビットエンジンがメインなのでしょうか。

桑野氏:
受託開発がメインです。受託した開発案件の中でモノビットエンジンを使用する場合もあります。

―――現在力を入れているのはモリカトロンになるんでしょうか。

桑野氏:
グループ全体としてはモリカトロンのゲームQA(ゲームデバッグ)に力を入れつつ、AIの研究を進め、モノビットではVRの受託事業をやっていたり、VRプラットフォームの開発やVTuberスタジオというものを作ったりしています。

―――手広くトレンドに手を伸ばされている印象ですが、なぜトレンドに敏感なんでしょうか。

桑野氏:
本城が元々トーセという会社でプログラマをやっていたこともあり、オンライン上で楽しむ―――ネットワーク上でなにかを仕掛けていこう!という文脈があるんです。元々オンラインゲームがありましたけど、「VRChat」や「バーチャルキャスト」では、ゲームをやらない人でも、VRの空間に入って実況したりコミュニケーションを取っているじゃないですか。オンラインゲームの中にチャットをつけるんじゃなくて、コミュニティがあるところにゲームをつけても成り立つのではないかと。

結局「ネットワークで繋いで何をやるか」というのが基本にあるんです。モノビットエンジンもマルチプレイのスマホアプリに実装した例もあれば、バーチャルキャストみたいにネットワークを裏で支えますというのもあります。元々モノビットエンジンは各コンテンツにカスタマイズして実装するサービスだったのですが、Unityにも対応して簡単な実装を可能にした「Monobit Unity Networking 2.0」が最近まで、最新の商品でした。

今は、クラウドに対応した「Monobit Engine Cloud」がリリースされたので、ネットワークエンジニアでなく、サーバー知識がないクライアントエンジニアのような方でも、マルチプレイを実装したいなとなれば、簡単に実装できるように、どんどん敷居を下げています。ネットワークの知識を持ったエンジニアじゃないとオンラインゲームが作れなかったのが、エンジンクラウドを使えば、作れるようになってきているので、それをもっと加速させるという流れの中でやっています。

―――いろいろなことをやっているけれど、ひとつひとつが代表の本城さまの壮大な計画の一部なんですね。

桑野氏:
元々計画があったのか、つながったのかはわからないんですけどね(笑)。私が勝手にそう解釈している部分もあります。

―――軸があるのは重要ですね。

桑野氏:
BtoBの分野でもマルチエンジンの活用が増えると思っています。元々VRもやっていたし、ネットワークもやっていたということで、今回モノビットエンジンをクラウドにし、Hololensにも対応したのはMicrosoft Azureの存在が大きいです。VRを使ってソリューションを作ろうと考える方々が、ネットワークサービスをゼロから考える時に、モノビットエンジンを使ってくれれば簡単に出来ますよと提案していきたいです。

同じ文脈で、どんどん敷居を下げていくという話では、インディーへの支援もやっています。
インディーゲームは大手様ほどお金をかけられない環境で開発されているので、デバッグとかも自分たちでやったりしています。そこで、BiSummitに作品を出展している人達に対して、無償でデバッグをやりますよと連絡し、ロゴと実績、長期的なリターンを見返りに、実際にデバッグを無償で請け負いました。

それと、モノビットエンジンでは、インディーへの支援を前からやっています。モノビットエンジンを使うには年間300万円ぐらいかかるのですが、インディー開発の方には高額です。なので、個別に相談を受けた場合に、格安もしくは無料でモノビットエンジンを提供するインディー支援プログラムというのを作っています。

ただ、このやり方だけだと情報が行き渡らないし、本当に縁があった人だけに限られてしまうので、モノビットエンジンクラウドができました。ゲーム開発の敷居を下げることで、良い作品が生まれてくるのではないかと思い、こうしたインディーへの支援もしています。

―――さまざまな野心的な試み、応援しております。ありがとうございました。

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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