なぜ若くして業界トップ大手ゲーム会社をやめたのか?独立し「ひとり」でゲーム開発に挑んだ中国女性の哲学。『WILL』開発者インタビュー(後編)

『WILL:素晴らしき世界』を手がけたクリエイター王妙一氏の素顔に迫るインタビュー後編。世界のゲーム業界における「女性とゲーム開発」という話題に触れ、最後に王氏の考える中国のゲーム業界の現状をお伝えする。

『WILL:素晴らしき世界』を手がけた中国人クリエイター王妙一氏の経歴および哲学に迫るインタビュー後編。前編では、NetEase時代の体験やひとりでゲームを作るということについて、語っていただいた。後編では、世界のゲーム業界における「女性とゲーム開発」という話題に触れ、最後に王氏の考える中国のゲーム業界の現状をお伝えする。

――Unityの公演で登壇されたようですね。Unityの講演ではどんな話をしましたか。

女性開発者の話です。Unityは中国の女性開発者のグループの設置を希望しています。私は中国の女性開発者としてもっと女性がゲーム業界で働くことを奨励したいんです。

一般的な外国人からみると中国は男尊女卑社会であり、女性を軽んじると思われています。現在の中国では、多くの女性は家庭が中心にあり、職場ではあまり向上心がないです。しかし今は女性の社会進出が普遍化してきたので慣習に苦しむことが少なくなりました。成功している女性がいれば、特に高く評価されます。しかし、中国の数千年にわたる伝統的な考え方は根深く、女性の考え方はすぐには変わりません。出産時の女性は長い休暇があるので、中国のビジネスマンは、人件費の損失を避けるために、男性従業員を雇用する傾向があります。これが職場で女性が弱い立場にある理由の一つです。職場に女性がいることには、長所と短所の両方があります。たとえば、女性は男性よりも高いストレス(残業)に耐えることはできませんが、一般的には注意深く繊細なことに関しては男性よりも優れています。

ですので、Unityの講演では女性は業界で開発すれば色々利点があることを説明しました。たとえば、女性が制作したものは特にユニークな気質があります。現在の中国の女性消費者の割合は、男性の消費者と同等に増加していますが、女性が増えても、女性向けのゲーム製品は希少です。インディーゲームを作ることで、女性は独自の創造力とデザイン力を生み出し、職場における不平等な競争を避けることができます。このようなことが挙げられますね。

――女性が制作した、王さんが「ユニーク」と思うゲームやコンテンツは具体的になにかありますか。

そのようなゲーム作品を見ることを楽しみにしていますが、中国では現在のところそのようなゲームはありません。女性の開発者が作るべきゲームは、乙女ゲーやBLのゲームのような対女性のゲームではなく、感情表現がより繊細な作品だと思います。今後、そのようなゲーム作品が見られることを願っています。

――ゲーム業界に女性が増えると、どんなゲームが増えると思いますか。

まず、女性向けゲームはどんどん増えるでしょう(笑)。ですが、より重要だと思うのは、ゲームが多様化するということです。たとえば、敵との戦いと勝利を目的としないゲームなど。『WILL』も女性向けゲームではなく、一般向けゲームです。

――『WILL』には、「いわゆる女性的でない」暴力的な描写や、「いわゆる女性的な」BLなどの展開があると思います(実際にこういうツイートもありました)。このような、「女性に関連する」評価を受けることについては、どう思いますか。

オリジナルのアイデアは女性向けのゲームではなく一般的なゲームを作ることだったため、ゲーム中の「男性」または「女性」のコンテンツを意図的にデザインすることはできませんでした。同時に、インディーゲームなので、プレイヤーが「受け入れることはできない」という反応があることはあまり考えていませんでしたので、私が個人的に好きなものをゲームにたくさんいれました。中国では、ゲームプレイヤーの大半が男性であり、女性プレイヤーの割合は30%未満ですが、『WILL』プレイヤーグループは男性と女性で約半々です。ゲームがもともと「一般向け」に設計されていても、最終的にはプロデューサーが女性であるため、女性プレイヤーは自然と増えます。だから私は、開発者のジェンダーは本当に仕事に大きな影響を与えると思います。

――中国では「ゲーム業界」は自然にインターネット業界と分かれているとおっしゃっていましたが、もう少し詳しく教えていただけますか。

これは伝統的な中国の概念と、中国におけるゲーム産業の一般的な誤解に関連しています。中国では、私が「ゲームを作っている」と言えば、私が「制作者」ではなく「インターネット産業」の人だと思うでしょう。中国のゲーム業界は、政策の立ち上がりと下降を経験し、インターネット企業がゲームを使ってお金を稼ぐことができるようになることがわかり始めたため、2010年に突然人々の注目を浴びました。中国のインターネット製品の基本はトラフィックビジネスです。このような形になります。

トラフィック(PV数)(A)×個人ユーザーの支払い(B)=総収入(C)

中国には、設計から開発、運用まで、インターネット製品のあらゆる面を最大限に活用する方法がたくさんあります。しかし、お金を稼ぐことは、この製品が高品質であることを意味するものではありません。トラフィックを増やす方法はたくさんあり、市場全体の悪化につながる可能性もあります。たとえば、1人のユーザーを追加するために平均D人のユーザーに費用がかかる「広告」があり、広告(D) <個人ユーザーの支払い(B)額のほうが大きい場合、製品の品質を向上させて収益を増やす代わりに、この「広告」を通じて製品の収益を増やすことができます。

この広告はテレビや地下鉄の広告に限定されていません。ランキングにお金を払ってリストの一番上に製品を置くことで、より多くの人々がリストを見ることができます。このような方法で製品の収益を増やすことは、これもまた「広告」ですが、公正競争ルール違反です。本質的には、中国のすべてのインターネット製品がこのルール違反を行います。広告(D)を使って個人ユーザーの支払い(B)を得る方法がある限り、製品の品質を向上させなくても、お金を使ってより多くのお金を稼ぐことができます。そうするコストは製品の品質を上げるコストよりもはるかに低いからです。

中国には14億人の人がいて、不正ランキングによる宣伝効果で注目度がトップになって中国全体で注目されます。14億人全員がこれを見ておもしろがり0.1元を支払うと、1億4000万元(約22億)の収入になります。これは収入を得るためのインターネット製品の本質的な論理です。私は、そのような「インターネット製品」を作るのではなく、「ゲーム」を作りたかったのです。

――王さんのものづくりへのこだわりが伝わってきました。ありがとうございました。

中国の大企業からインディーゲーム開発の世界へ飛び込んだ女性。ゲーム開発を取り巻くお金の問題、ジェンダーの問題、国の問題はありつつも、結局は、国や性別を問わず、その作品にかける想いが伝わるインタビューとなった。そんな王氏が手掛けた『WILL』を是非一度チェックしてみてほしい。

 

[執筆 : Sayuri Murabayashi(PLAYISM)]
[翻訳: Tszling Wong(PLAYISM)]

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