ストリートファイターシリーズの異端児にして、良作実写格ゲー『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』
2D対戦格闘ゲームの始祖的存在として、現在でも絶大な支持を得ている『ストリートファイターII』。そこから始まったシリーズの歴史は長く、『ストリートファイターZERO』シリーズや『ストリートファイターEX』シリーズといったタイトルが制作され、シーンを熱くしてきた。そして現時点での最新作である『ストリートファイターIV(ウルトラストリートファイターⅣ)』は、対戦格闘ゲームの最高峰の1つであり、世界中で大会が開かれるなど、いま最も熱いタイトルだ。
しかし、長い歴史を持つシリーズには、必ずと言っていいほど「異端」と呼ばれる作品が1つは存在する。『ストリートファイター』シリーズも例外ではない。それが、今回紹介する『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』だ。プラットフォームはセガサターンとPlayStation。1995年の作品だ。本作がなぜ異端と呼ばれるのか。その理由はやはり、グラフィックが実写取り込みであることに尽きる。本作は、ハリウッドで制作された映画「ストリートファイター」の設定に準拠したもの。ジャン=クロード・ヴァン・ダムが主人公のガイルを演じていた映画と言えば、ピンと来る人がいるかもしれない。まあ、映画的な評価は賛否両論だったため、良い印象を持っている人は少ないと思うが。
なおアーケードでは、本作と同じく、ハリウッド映画版「ストリートファイター」をベースとした実写格ゲー『ストリートファイター ザ・ムービー』も存在する。『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』と酷似しているが、移植作品ではなく、別物らしい。なお、この2タイトルの関係性には、筆者を含め、当時のゲーマーたちは非常に困惑した。
第4回 ストリートファイター リアルバトル オン フィルム
キャラクターは、映画版のキャストをそのまま使用。ゆえに本作は、ヴァンダムをはじめとする俳優陣を、自分自身の手で操作できる数少ないシネマゲームとしての側面も持っているというわけだ。また、当時のストリートファイターシリーズにしては珍しく、意外にしっかりとしたストーリーモードを備えており、映画の雰囲気を再現しようという心意気も多少ながら見受けられる。時代が時代なら、美麗なムービーでストーリーが表現されるのだろうが、そこはまだまだスペックが十分ではなかったセガサターンとPlayStation。テキストとスチール画像を配した、よくある感じのアドベンチャーゲームといったところだ。選択肢なども一応存在するが、あまりストーリーの広がりには繋がっていない。
格ゲーとしての出来はどうだろう。「Underground Gamer」では実写対戦格闘ゲームを何本か紹介してきたが、そのどれもがゲーム性の貧弱さに苦言を呈するしかなかった。しかし本作は違う。格ゲーとして良く出来ているのだ。動きはスムーズだし、ストIIXをベースにしているため、スーパーコンボも存在する。さらに、必殺技がパワーアップする、その名の通りの技「パワーアップ必殺技」を用いた攻防がなかなか熱い。波動拳やソニックブーム2つ同時に出したりするその絵面は、ZEROシリーズのオリコンを連想させるか、はたまたストIIレインボーを連想させるか……。
また、豪鬼を含め、IIXに登場しているキャラクターはほぼ登場している。そこに加え、オリジナルキャラクターのキャプテン・サワダが見逃せない。彼こそ、現在でもカルト的な人気をもつ、格ゲー界きっての珍キャラなのだ。特に、「ハラキリ!」と叫んで、自分の腹を切り、攻撃したり、飛び道具を跳ね返したりする技が最高。格ゲーが乱立していた90年代でも、ここまでインパクトのあるキャラクターは珍しい。それくらいキャプテン・サワダのキャラクターの個性は見逃せないものがあるわけだ。まあ、文章では伝わりつらい部分もあるので、興味を持った人はGoogleで検索するなどして、その魅力の一端をぜひ確認してほしい。
時代が時代とはいえ、ストリートファイターシリーズを実写格闘ゲームにしてしまおうと企画した当時のスタッフを賞賛したい。実写格ゲーは、総じて完成度が低いという認識があるし、実際そうなのだが、本作はそんな認識に一石を投じた功績あるタイトルと言ってもいいだろう。実際、実写格ゲーをほとんどプレイしていなかった友人が『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』だけは、楽しそうにプレイしていた。
惜しくもというか当然というか、本作は他ハードには移植されていない。権利の関係もあるだろうし、そもそも復刻してほしいという需要自体が少ないのかもしれない。ゆえに本作を遊ぶためには、セガサターンかPlayStation、互換マシンとしてPlayStation 2(PS3でも可。ただし一部のソフトは互換性が保証されていないらしいので、要確認)を用意する必要がある。ソフト自体は中古市場で見かけるし、おそらく1000円以内で購入できるので、入手へのハードルはさほど高くないだろう。
格闘ゲーム全盛期の90年代に、何かの間違いか、あるいは必然かで登場した変わり種『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』。駄作ではないと断言できるが、かといって、現在の格ゲーに慣れ親しんだ若年層におすすめできるかいうとそうでもない。本作はむしろ、ストリートファイターシリーズが持つ長い歴史の中に存在した、決して無視することのできない足あとの一つと認識するべきだ。貴重な歴史的資料として、そしてハリウッド映画版「ストリートファイター」から生まれたシネマゲーとして、映画とゲームの関係、そして時代的背景を考慮すると、また違った視点で本作を捉えることができるだろう。
Underground Gamer
vol.1: Z級実写格闘ゲーム 『KASUMI NINJA』の実態に迫る
vol.2: 残虐対戦格闘ゲーム『プライマルレイジ』 怪獣姿の神々が血みどろの死闘を繰り広げる
vol.3: 脳裏に焼き付いて離れない……。 何もかもが濃すぎる内容の実写対戦格闘ゲーム 『ウェイ・オブ・ザ・ウォリアー』
vol.4: ストリートファイターシリーズの異端児にして、良作実写格ゲー『ストリートファイター リアルバトル オン フィルム』