『鳴潮』Ver3.2前半ストーリー感想。挫折を乗り越えた少女シグリカが天才から英雄になる“成長譚”。新旧キャラ同士の関わりが生む新たな人間讃歌
本稿では、2026年2月5日に配信された新ストーリーの第三章第四幕「影に染まることのない黄金」の感想を語りたい。

KURO GAMESの手がける『鳴潮』には、才能に恵まれたさまざまな個性的なキャラクターが登場する。しかし、才能に恵まれたからといってそれを誰もが活かすことができるとは限らないだろう。「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」ということわざがあるように、たとえ優れた資質をもっていたとしても、すべての才能が開花するわけではない。人は理想と現実で葛藤する。たとえそうだとしても、それを乗り越えていくキャラクターの生き様を見せてくれるのが『鳴潮』だ。そして、その『鳴潮』の魅力はVer3.2のストーリーでも遺憾無く発揮されている。
本稿では、2026年2月5日に配信された新ストーリーの第三章第四幕「影に染まることのない黄金」の感想を語りたい。約4時間のプレイ時間ではVer3.2で登場したシグリカが味わう挫折をもとに、その苦境から立ち上がることで人間の強さを証明してみせた。まさに、ひとりの少女が英雄になる瞬間を目撃したかのように高揚感のあるストーリーとなっている。なお、本稿は『鳴潮』Ver3.2前半のネタバレを含んでいるため、クリアしたあとに振り返るように読んでいただけると幸いだ。
英雄になる覚悟が済んでいたエイメスとは対照的なシグリカ
『鳴潮』は、これまでも英雄的な行動を起こすキャラクターたちを描いてきた。直近の例としては、Ver3.1で登場したエイメスが挙げられるだろう(記事リンク)。エイメスの場合は、自らを犠牲にしても主人公たちを救う覚悟が済んでいた。そうした決意のできるエイメスは英雄になる資格があるといえるし、彼女なりに主人公たちへの想い入れが強かったことはストーリーをプレイして伝わってきた。エイメスは英雄としての矜持を貫き、主人公たちを救う選択を躊躇なく行ったのだ。その決断は悲しくも、尊くて美しい。
その一方で、シグリカが恵まれた才能を発揮しようとする理由はエイメスとは異なる。シグリカは本来は素朴な性格で、母親や友だちの期待に応えることで喜ばせたいと思っていたタイプだった。期待に応えていくシグリカだったが、それは才能だけでなく相応の努力を必要とする。与えられた才能はいつの日か枷となり、シグリカのやりたいことを制限する枷のようなものへとなってしまった。シグリカがぽつりと呟いた「わたしは……もっと努力しなくちゃ」の言葉がなんとも切なかった。


シグリカは自分のやりたいことよりも、他人の期待に応えることを優先的に行う。これは幼少時から頼られ続けていたことが影響しており、笑顔で他人からの以来を受け入れてはいるものの、本心は枷で身動きできないようなものだ。Ver3.2前半の舞台となっているスタートーチ学園には反社会的組織のフラクトシデスがスパイとして入り込んでおり、シグリカが内心で辛いと思っていることを刺激して、ストレスを与えてくる。たとえ、これまでは上手くいっていたとしても、失敗したらがっかりされてしまう。こうしたシグリカの不安を幻術で見せつけることによって、シグリカに負荷をかけようとするフラクトシデスの手段にはプレイして腹が立った。
Ver3.2前半でも舞台になっているラハイロイにおいて、将来的に指導者的な地位に就くことがほぼ確実視されているのは仕方がない。しかし、シグリカが精神的には未熟であることへのケアも行わずに、盲目的に彼女に頼り切るのは間違っている。本来ならば支えになってあげるべき母親や教師も信じているのはシグリカだけでなく、彼女の才能だ。これはシグリカにとってもトラウマになっているようで、フラクトシデスが見せる悪夢のなかで度々登場する。


主人公とシグリカは、フラクトシデスが仕切る裏学園という異空間に乗り込んで事件を解決しようとするが上手くいかない。それもシグリカの精神的未熟さがあって、彼女は事件の捜査からは外されてしまう。このこと自体がシグリカにとっては期待に応えられなかったことの証明であり、彼女をより一層の辛い気持ちにさせた。しかし、理想と現実のギャップを主人公に打ち明けてくれたあと、シグリカは鳥の姿を観察を観察することが好きだと教えてくれる。早口で鳥に関する知識をまくしたてるシグリカの姿を見て、いくら才能があっても彼女もまたひとりの人間のひとりなのだとおもった。シグリカのひたむきさは彼女の優れた才能に関係なく、長所のひとつとなっている。

孤独じゃない英雄への道を見せる『鳴潮』の人間讃歌
たとえ挫折したとしても、シグリカは自分にかけてくれた期待には全力で応えようとする。
敵方のフラクトシデスが仕切る異空間の裏学園は負の感情が渦巻いており、そこにはシグリカと近しい人物だった生徒の負の感情も渦巻いている。再び挫折しそうになるシグリカと手を繋いでくれる主人公の優しさがどれだけ身に沁みただろうか。シグリカはかつて才能によってある種ひとりぼっちになってしまったが、いまは主人公という理解者がいる。
主人公の伸ばした手をシグリカが握り返してくれるところに信頼関係の芽生えを感じ、シグリカにこの手を繋いだことを忘れないでほしいと思った。シグリカは、もう決してひとりじゃない。『鳴潮』は三章のストーリーに入ってから、手を伸ばすシーンが増えた。ここでは天才であり、英雄としての先輩である主人公からシグリカの孤独を癒やす秀逸なシーンだったと考える。


主人公たちは裏学園を探索していくが、あるとき離れ離れになってしまう。主人公と離れるタイミングを図っていたのだろう。フラクトシデスはシグリカを徹底的に追い込む。シグリカが背負う期待に応えられなかった場合の未来を最悪な形で示し、彼女を絶望の縁に叩き込もうとするのだ。授業中に教師にあてられても答えられないことや課題が山積みで終わらないことは誰もが経験することなのかもしれないが、綱渡りをするかのように期待に応え続けてきたシグリカがもっとも恐れていた風景だ。先生のがっかりする様子やクラスメイトたちの好奇と蔑んだ目がシグリカに突き刺さる。

期待に応え続けるために、あれほど努力してきたのに。母に誇りに思ってもらうために青春を犠牲にしてでも英雄になろうとしてきたのに。シグリカの心はこのときに確実に折れかけた。シグリカとしても、期待に応えられなかった場合の反応を恐れていたのは事実だ。そうしたシグリカの負の感情が集積されたものが、裏学園ではもうひとりのシグリカとなってしまった。どっちが本当の自分なのかさえもわからなくなってしまうシグリカだったが、主人公が手を繋いでくれた暖かさや危機に瀕したシグリカに叫びかける声がきっかけとなって先に進む力となる。
失敗が許されない道を進んでいくのは、綱渡りをするようなものだ。これまでのシグリカは期待を裏切りたくないという恐怖心で綱渡りをしてきた。しかし、主人公たちの出会いによって、シグリカは期待を力に代えて先へ進んで行くことができるようになった。他人の願いを原動力に偉大なことを成し遂げる英雄の資質が花開いたといえるだろう。覚醒したシグリカの堂々した振る舞いは、私にひとりの少女が英雄としての道を歩き始めたかのような気にさせた。シグリカの成長を誇りに思うし、それを実感させてくれた『鳴潮』というゲームはやはり「人間讃歌」と呼ぶべきタイトルだと思う。

キャラ同士の交流が増えて人間関係に濃密に
葛藤を乗り越えたシグリカは一回り成長したことは間違いないし、その一方で地に足もきちんとついている。シグリカの性格から独断専行で物事にあたったりすることはないだろうし、必要ならば主人公たちに声を掛けてくれるだろう。シグリカは人望があるキャラクターだ。主人公をはじめ、リンネーや千咲といった学生のほかに先生たちもシグリカのことを気にかけている。Ver3.2前半のストーリーは、挫折からの再起が丁寧に描かれた天才の成長激であるとともに、周囲のキャラクターたちが光るものでもあった。
事件解決後に主人公たちが学生同士ではしゃぐシーンは青春の美しさを感じさせるシーンであったし、それぞれのキャラクターが乗り越えてきた過去を思うと胸に込み上げてくるものがあった。誰もがこうしてまた笑えるようになることが奇跡的なことであり、それを知っているプレイヤーとしては彼女たちが幸せであり続けることを願う。


過去Verのストーリーではキャラクター同士のやり取りが極端に少ないと思うシーンがあったが、Ver3.2前半はラハイロイ学園を中心に人間関係の描写が丁寧になっている。リンネーやモーニエとちょっとしたサブイベントがあるのはうれしいし、彼女たちが同級生や同僚たちとどのように交流しているのかをうかがいしれるのもいいところだ。今回のVer3.2ではスタートーチ学園の学園長であるルシラーが生徒への配慮を第一に尊重していることがわかったし、シグリカが立ち直れるように大人としての責任を見事に果たした。
主人公たちは今回の冒険で、シグリカの窮地を救うことができた。しかし、フラクトシデスの脅威が完全に去ったわけではない。裏学園も「ほとんど」が消滅したとルシラーが語っていたが、言い返せば完全に消滅したわけではないということだろう。今後もフラクトシデスと一波乱ありそうだが、闇に堕ちずに光り輝いたシグリカのように、主人公はこれからも仲間を増やして戦っていくのだろう。

『鳴潮』は、PS5/iOS/Android/PC(Windows/Steam/Epic Gamesストア)向けに基本プレイ無料で配信中。2026年4月9日からのVer3.2後半では、メインストーリー三章幕間「反転した世界に映る兎の影」が開放される予定となっている。
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