オブジェクトに触ることで認識力が上がる『アウェアネス・ルームズ』開発者の新作は、「Hyper Light Drifter」に影響を受けた『Lunart』

2016年11月に秋葉原で開催された同人・インディーゲームイベント「デジゲー博2016」。多数の来場者でごった返すなか、控えめなブースにある淡い色彩のゲームが筆者の心を掴んだ。それがサークルGAME NA KIBUNのBomB氏による『Lunart』だ。

2016年11月に秋葉原で開催された同人・インディーゲームイベント「デジゲー博2016」。多数の来場者でごった返すなか、控えめなブースにある淡い色彩のゲームが筆者の心を掴んだ。それがサークルGAME NA KIBUNのBomB氏による『Lunart』だ。同ブースにはBomB氏が制作した前作『アウェアネス・ルームズ』も同じく出展されていたので、今回は『アウェアネス・ルームズ』と最新作『Lunart』の2つのゲームのプレイレポートをお届けする。

まず『アウェアネス・ルームズ』を紹介しよう。このゲームはSteamとPLAYISMにて498円ですでに発売中である。筆者はこれが初プレイだったが、国内ではインターネット上で話題にのぼったこともある作品だ。

『アウェアネス・ルームズ』はファミコン画面のようなピクセルアートが特徴の脱出ゲームである。プレイしながらBomB氏にお話を聞いたところ、本作は『The Room』や『ゆめにっき』から影響を受けたという。

筆者がプレイして思い出したのは、ファミコン版の『マニアックマンション』だ。画面右下に表示される「しらべる」「アクション」といったコマンドを切り換えながら進んでいくところは、『マニアックマンション』のような初期のポイント&クリックアドベンチャーの画面下部にコマンドが表示されていたスタイルを思い出させた。しかも『アウェアネス・ルームズ』は『マニアックマンション』のような画面スタイルより、もっとミニマルな表現に達している。本作は画面のスクロールを廃しており、画面が固定されたまま進行するので、これがシンプルな美しさを醸し出しているのだ。本作の最大の特徴としてゲーム進行を大きく変化させる「認識能力」システムがある。これはオブジェクトを調べていくと、認識能力のパラメーターが増えていき、漠然としか表現されていなかったオブジェクトの詳細がわかるようになるシステムだ。たとえば最初はただの白色の箱として表示されていたオブジェクトだが、調べることを繰り返すと認識能力が高まり、それがテレビや冷蔵庫であることが判明する。これによって固定画面に表示されている狭い部屋であっても、ダイナミックに情報の質が変化していき、パズルを解く面白さに繋がっていくというわけである。

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次に最新作の『Lunart』。BomB氏によれば本作の開発状況は1パーセント程度とのことだが、根幹のゲームシステムは完成しており、楽しみながらプレイできる状態にはなっていた。

『Lunart』は見下ろし視点型のアクションRPGだ。プレイしたデモは、森の中を進む剣士のような主人公を操作して、神殿のような場所で剣を使いモンスターたちと戦う内容となっていた。『ゼルダの伝説』に似ているといえば一番わかりやすいだろう。飛び道具を使ってくるモンスターなど、敵の姿やバリエーションが豊富だ。筆者のアクションゲームに対する腕前がイマイチなこともあるが、難易度はなかなか歯応えがあるものに感じた。今回出展されていたデモ版ではRPGの要素はまだゲームには反映されておらず、MPのようなパラメーターは確認できたが、MPを消費してアビリティを使うといった要素はなかった。このあたりについてはBomB氏によるとアビリティを使えるようにするとのこと。

アクション面で見ると、剣を振る以外では短い距離を早く移動できる「ダッシュ」が可能で、これを駆使して敵との間合いを計りながら戦うことになる。このダッシュの要素やアートワークから気づいた読者もいるかもしれないが、『Lunart』は『Hyper Light Drifter』の影響が濃厚である。だが『アウェアネス・ルームズ』の見事なコンセプトを見る限り、ただの『Hyper Light Drifter』のオマージュにはならないことが期待できそうだ。

『アウェアネス・ルームズ』も『Lunart』も一人で作ったというBomB氏。最後にそのあたりのことや作品のコンセプトについて語っていただいた。

 

BomB氏へのミニインタビュー

――『アウェアネス・ルームズ』の認識能力が高まっていって、物がはっきりと判明するというコンセプトがとてもユニークですね。この発想はどこから生まれたんでしょうか。

BomB氏
幼少期の物が認識できなかった経験が元になっています。幼少期、ビデオゲームの複雑なドット絵を白い四角形や赤い四角形だとか認識できないまま、それでもそのゲームを遊んでいました。ふと大人になって昔遊んだゲームをしてみると、これはイカだったのか、これはエビだったのか、とか。

――『アウェアネス・ルームズ』はお一人で作られたとお聞きしましたが、制作期間はどれくらいなんでしょうか。

BomB氏
テストプレイ以外はすべて一人ですね。制作期間は4ヶ月です。ドットも音楽も効果音もプログラムも企画も一人でやっています。プログラムは中学生ぐらいのときから触りはじめて、当時はシューティングゲームをよく作っていました。

――『アウェアネス・ルームズ』はストーリー的なバックボーンは最小限でしたが、新作の『Lunart』ではそのあたりはどうなんでしょう。

BomB氏
『Lunart』にはストーリー要素があります。『Lunart』のようなゲームではないんですが、中学生のときに作っていた作品に、「ルナ」というあらゆるものに宿るエネルギーみたいな設定がありました。そのゲームの続編じゃないんですが、設定だけ借りています。

――主人公はどういう立場のキャラクターなんでしょう。

BomB氏
主人公はただの人ですね。

――世界の設定はあるけど、主人公は匿名的な存在なんでしょうか。

BomB氏
そうですね。しゃべらないですし、プレイヤーの赴くままです。

――ドット絵のグラフィックや世界観もあいまって神話的な感じがしますね。プレイヤーは主人公が誰なのかわからずに進めていくことで、想像力が刺激されそうです。

BomB氏
そういう意味ではグラフィックを細かく書きすぎないようにはしました。

――何か影響を受けたゲームはありますでしょうか。

BomB氏
『Hyper Light Drifter』と『Titan Souls』ですね。

――『Lunart』も歯応えを感じさられるゲームになってますね。このゲームもお一人で作られているんでしょうか?

BomB氏
そうです。『Lunart』はアクションRPGで、今はまだ剣士しか作っていないんですが、剣士、弓使い、魔法使いの3人のキャラクターを用意してようと思っています。ショートレンジ、ミドルレンジ、ロングレンジですね。さらに2人で世界を旅するように遊んでもらおうかと考えています。2018年リリース予定です。

――制作期間が『アウェアネス・ルームズ』とまったく違いますね。

BomB氏
アクションRPGだとプログラムの量が全然違うので、それなりに時間がかかります。出展しているのも3ヶ月ほどで作ったものです。

――それでこの完成度は驚きです。ありがとうございました。

Koji Fukuyama
Koji Fukuyama

小学2年生のときに、『ドラゴンクエスト5』に出会い、「ゲームは、ゲーム独自の手法を使って人間のドラマや物語を伝えることができる」ということに衝撃を受けました。そこから一貫して、ストーリーメディアとしてのゲームに注目しています。

同時に中学生から映画を浴びるように見始め、西部劇やホラー、SF映画など、アメリカの古典的なジャンル映画をとくに偏愛しています。

オールタイムベストゲームは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。このゲームで感じた面白さや感動を再び体験するために、ずっとゲームを続けています。

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