NVIDIAのクラウドゲーミングサービス「GeForce NOW」試遊。史上最大アプデにより「ほぼゲーミングPC」みたいな操作感、5K120FPSをほぼ遅延なく動かす

「GeForce NOW」に実際に触れて感じた“ローカルとクラウドの境界の消失”を中心に、その技術と体験を紐づけて紹介する。

クラウドゲーミングは、長らく「ローカル環境には及ばない」という評価に縛られてきた。低解像度、入力遅延、ノイズ、安定性の不安。遊べるが、本気で遊ぶには向かない……そんな印象を持つ人は少なくないだろう。だが、NVIDIAのクラウドゲーミングサービス「GeForce NOW(以下、GFN)」が実施した、“史上最大”だと謳う「Blackwell RTX アーキテクチャ」アップグレードは、その認識を揺さぶるものだった。

弊誌は今回、「GFN」の「Blackwell RTX アーキテクチャ」アップグレードに関するメディア向け説明会&デモ体験会に参加した。「GeForce RTX 5080」相当のGPUがもたらす5K120FPSでの精細な映像。減少した遅延。そして、新技術「CQS」によるノイズのない映像表現や、携帯機での快適な体験。これまでクラウドの弱点とされてきた要素が、次々と消えていく感覚があった。プレイ中、「あれ、これクラウドだったよな?」とふと我に返る——その違和感のなさこそ、クラウド技術がローカル環境に限りなく迫っている証だった。

本稿では、実際に触れて感じた“ローカルとクラウドの境界の消失”を中心に、その技術と体験を紐づけて紹介する。

「GeForce RTX 5080」相当のGPUが描く“ローカルに近い”映像

「GeForce NOW」は、SteamやEpic Gamesなどのプラットフォームと連携し、所有するゲームをクラウド上で実行できるサービスだ。PC本体の性能に依存せず、サーバー側で処理された映像をストリーミングで受け取る仕組みとなっている。今回のアップグレードは最上位「Ultimate」プランに適用され、利用料金は従来と同額のまま。内部的には大きく性能が引き上げられている。

体験会では、複数のタイトルを通じて新機能を確認できた。まず体験したのは、5K解像度・120FPS環境で動作する『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』。部屋に射す光の反射、毛穴まで見える肌、リアルな革や金属の質感……すべてが緻密に描かれていた。ローカル環境を完全に上回っているとまでは言えないが、ぱっと見ではクラウドだとわからないほどの精細さと安定感で動作している。プレイ開始直後、思わず「これがクラウドなのか」と疑った。サーバーを経由しているという実感が薄れるほどの品質だ。

その背景には、「GeForce RTX 5080」相当のGPU、48GBものフレームバッファ(いわゆるVRAMに相当)を持つBlackwell RTX アーキテクチャの高い演算性能がある。さらに、従来比で2倍に強化されたAI用チップ「Tensorコア」によって、フレーム補完とアップスケーリングをおこなう技術「DLSS」がより精密になっている。

最新の「DLSS 4」では、AIが前フレームやモーションの方向を解析して複数の中間フレームを生成するため、実際のレンダリング負荷を抑えつつ、体感フレームレートや解像度を引き上げることができる。タイトルによっては、従来のUltimateプランで使うことのできた「GeForce RTX 4080」相当のGPUより最大2.8倍のフレームレート向上が見込めるそうだ。

結果として、「GFN」上の『インディ・ジョーンズ』は破綻のない高密度映像を描き出し、ぱっと見はクラウドであることを感じさせない滑らかさで動作していた。もちろんこれは高速なインターネットが前提のうえに、「Blackwell RTX アーキテクチャ」は最高級のプランであるUltimateユーザーのみが恩恵を得られるアップグレードだ。サーバーの混み具合も影響を受けるだろう。ただ、少なくとも試遊中は素直に不満がないと思える映像品質に達しており、ユーザーの求める品質や予算、そして“どこにこだわるか”によっては、PC本体より高精細なモニターに投資して「GFN」を使う、という選択もありえなくはない……そこまで考えてしまうほどの体験だった。

体感の遅延がほぼない。「Reflex」がもたらす革新

クラウドゲーミングで、大きな壁となるのが「入力遅延」だ。映像の伝送経路が増える分、ローカルよりも反応が遅れやすい。どんなに映像が美しくても、反応がワンテンポ遅れれば没入は途切れる。この課題を、NVIDIAは通信技術の向上、そして「Reflex」という技術で低減してみせた。

とくにその恩恵を感じたのが、『ザ クルー:モーターフェス』をレーシングホイールでプレイするシーン。ハンドルを切ると車体が即座に反応し、オフロード走行時の路面のデコボコ感が伝わる振動や、クラッシュ時のフィードバックにも遅れがない。クラウドでここまで自然な操作感が得られるとは、正直想定外だった。

この体験を支える「Reflex」の鍵は、CPUとGPUの同期にある。通常、CPUが先に処理したフレームをGPUが順次描画する際、処理待ちの「フレームキュー」が発生する。この遅延を抑えるため、ReflexはCPUの処理タイミングを自動で調整しGPUと同期する。同期により常に最新の入力が反映されるようになり、遅延が減少する、という仕組みだ。

もともとは遅延が致命的なPvPジャンルのために作られた技術だが、「GFN」においては安定した動作に貢献している。体感では、ローカルでプレイしているときとあまり変わらない。実際、体験したタイトルでは遅延が平均4ms前後と表示されており、ローカル環境におけるプレイとほぼ同等。もしもこの数値を安定して保てるのであれば、クラウドが原因の遅延は大きく減少するだろう。今回の体験会ではオンラインプレイのあるタイトルは試遊できなかったため、PvPジャンルでどこまで実用的なのかはわからなかった。とはいえ、「クラウド=遅延がある」という最大の弱点を、知らぬ間に克服しつつあることに驚きを隠せなかった。

「CQS」が描く、“妥協のない”映像表現

クラウドゲーミングにおいて、次に課題となるのが映像のノイズだ。映像を圧縮してストリーミングしている特性上、とくに暗いシーンでは潰れやブロックノイズが生じやすく、せっかくの高解像度映像も台無しになってしまう。この問題に対し、「GFN」は新たに「Cinematic-Quality Streaming(CQS)」を導入した。

体験会では『黒神話:悟空』を使い、「CQS」のON/OFFを比較することができた。左右で比較しながらプレイすると、違いは明確だ。暗所での陰影表現がくっきりとし、毛並みや岩肌の細部が崩れない。動きの激しいシーンでも色にじみが発生しにくく、映像全体が一枚の絵のように安定している。Youtubeの低画質設定のような、いわゆる「ストリーミング感」の少ない映像だ。

この品質を支えているのは、複数の技術が組み合わさった「CQS」の総合効果だ。従来は、色データを4:2:0形式(元の4分の1)で伝送していたが、色情報を間引かないYUV 4:4:4出力を採用。さらにAIビデオフィルターによるノイズ除去やHDR10出力が加わり、光量の少ない環境でも比較的自然な色調を維持している。また、最大ビットレートを従来の75Mbpsから100Mbpsに拡張。動的解像度制御(RPR)により、通信状態に応じたフレーム最適化も行われている。ちなみに「CQS」の機能は、不要なものがあれば設定で個別にON/OFFの調整が可能だ。とはいえ決してオーバースペックではなく、あくまで「高いマシンパワーで描画した映像を少しでもそのままの品質で届けるため」の技術となっている。

結果として、暗所や激しい動きでも映像の乱れが少なくなり、クラウドとは思えない美しさを感じた。もちろんストリーミングである以上、ノイズがゼロになったわけではない。だがCQSをONにした状態では、ストレスを感じるほどのノイズは感じなかった。クラウドの画質が、もはや妥協ではなく「実用的」な領域に近づいていることを実感した。

手のひらで高品質。Steam Deckで体験する未来の標準

クラウドの進化を象徴的に感じたのは、携帯型ゲーミングPC、Steam Deckで『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』をプレイした瞬間だった。洞窟に反射する松明の光や高精細なテクスチャは、どこを切り取っても高品質。ローカルでは低設定・30FPS程度が限界のタイトルが、「GFN」経由だと最高レベルの設定・90FPSで動作する。手のひらの中で高品質な映像がスムーズに動く光景は印象的だった。

Steam OS向けのネイティブアプリ最適化により、Steam Deckの上限である90FPSをほぼ安定して維持している。もちろん、より高いリフレッシュレートを持ち、「GFN」のネイティブアプリに対応するデバイスであれば、それ以上のFPSを出すことも可能だ。デバイスによっては、“テレビ単体”で4K・120FPS動作するようなものまである。

Reflexによる入力制御とCQSの高品質映像も重なり、操作感・視覚体験のどちらもローカル環境に近い。ゲーミングPCを持たない層でも、高い映像品質でAAA級ゲームを体験できる——それは「相応の機材がないと良い体験はできない」という常識が崩れた瞬間だった。

クラウドは“妥協”ではなく、“プレイスタイルの拡張”へと進化しはじめている。高速なインターネットがあれば、自室ではデスクトップで、リビングではテレビで、外出先ではタブレットやSteam Deckで、「同じようなクオリティを維持したまま」遊ぶ。そんな切れ目のない体験が、夢物語ではなくなってきている。

クラウドが「現実的な選択肢」になる

サーバーのアップグレードに伴い、「GFN」は利便性の面でも進化している。これまでGFNはサーバー側で用意されたタイトルのみが対象だったが、新機能「Install-to-Play」により、クラウド上のストレージにゲームをインストールして遊べるようになった。これにより対応タイトルは一挙に2200本以上増え、合計で4000本超に拡大。クラウド環境が一段と日常的な選択肢に近づいている。

「Blackwell RTX アーキテクチャ」アップグレードの体験を通じて印象的だったのは、“所詮クラウドだから”という感覚が薄れつつあったということだ。美麗な映像は破綻が少なく、入力遅延もほぼ感じない。遠いサーバーで処理されているという事実を意識する瞬間がなく、ただ目の前のゲームに没入できる。かつて「クラウドはローカルの代替手段」とされていた構図は、もはや当てはまらない。それどころか、試遊時はローカル環境と同等の品質に思える場面すらあった。クラウドで遊ぶ、というより、“ゲーミングPCがそこにある”ような感覚。高速なインターネット環境さえあれば、クラウドのみでゲームを遊ぶ、というのも現実的な選択肢に思えた。

もちろん、通信帯域や混雑時間帯による変動など、現時点での検証課題は残る。また、毎月料金を支払うというスタイルを好まないユーザーもいるだろう。しかし、今回の体験が示したのは、「クラウド=不安定」という時代が終わりつつあるという事実だ。デバイスに縛られず、最新タイトルを高品質で楽しめる——そんな時代が静かに始まっている。

GeForce NOW」は無料プランを含む3種類のプランでサービス提供中。「Blackwell RTX アーキテクチャ」アップグレードは「Ultimate」プランのユーザーに向けて適用済みで、1日1300円で体験できる「Day Pass」(現在は完売中)のほか、毎月3580円の1か月プラン、35990円で1年ごとに更新する12か月プランがある。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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