昨年2013年の夏真っ盛り、8月3日から4日にかけてゲームジャムイベント『福島 Game Jam』が開催されていました。ゲームジャムとは、1日から3日程度の短期間にて即席チームでゲームを開発する、いわゆるハッカソンの一種です。イベントの詳細については他誌に掲載された拙稿をご参照ください。
即席ゲーム開発イベント「福島GameJam 2013」開催、各サテライト会場での参加者を段階的に募集中
私、安田はゲーム創りというものからは一切縁がありません。絵は描けないプログラムは組めない音楽は作曲できない企画は立てられないその他、n重苦の十字架を背負っています。しかし興味はあるのです。ですから、とりあえず取材という体で見学だけしてきました。
京都太秦会場では2作品が製作されました。そのうちの片方『JumpGun』は当日の選考でこそ受賞しなかったものの、東京ゲームショウのインディーゲームコーナーでは南相馬会場の『2秒間サバイバルシューティング』と並ぶ形で展示されていました。数十のタイトルのなかから TGS に選出されたということは、すなわち総合的にみてゲーム内容が優れていたということにほかなりません。
念のため強調しておきますと、本会場の選考員が節穴だったという話ではありません。大量の一芸から玉を見出すことは至難というより実質的にはほぼ不可能と思われ、現実問題として企画書や製作途中のモックなどから評価を下さざるをえなかったからと推測されます。
『JumpGun』と『2秒間サバイバルシューティング』はいずれも Unity で製作されており、また一般公開されています。どれくらいの水準のゲームが24時間ほどで創りあげられるのかという興味深い事例ですので、ぜひとも一度さわってみていただきたいところです。
さて、外野から京都会場を眺めた結果、いくつか気づいた点がありました。すべてがゲームの価値やクオリティに直結するものではありませんが、製作に苦戦していたもう片方のチームと対称的な部分がありましたので、それらを列記します。
まず、『JumpGun』チームはポストイットを活用した大量のアイデア出しからスタートしました。口頭ベースのブレストにはそれほど時間を割か ず、2時間足らずで実作業へと移行します。ゲームの触感やビジュアル面といった抽象的な部分はひとまず置いておき、とりあえず骨子を組み上げるスタイルで した。
また、雰囲気は若干淡々としており、静かに製作を進めていたのも印象的です。(半ば以上偏見ですが)エンジニアっぽいムードと表現すべきでしょうか。とはいえ会話がなく険悪というわけではなく、いきなりアニメの話が始まったりもしていました。
開発は常時実質的で、たとえば参加者の一人は「ぼくは黙々とゲーム画面創っていきます」と発言したのち有限実行していました。昼食をとりおえた段階 (つまりスタートから3,4時間程度)でアイデアが具体的な形となっており、”実装可能かどうか?”の議論がなされます。グラフィッカーはすでにキャラク ターのモックを書き終えていたほか、Unity のアセットストアを躊躇なく覗いていたのもポイントでしょう。
『JumpGun』チームはリーダーが常時具体的な指示を出す形が実践されており、「撃つと対象がジャンプするゲーム・ジャンプする弾」という概念 自体はかなり早期の段階で実現されていました。プロトタイプができあがったのは初日の14時半ごろ。つまり5時間たらずでモックが生まれていたのです。
しかるのちに「敵を撃ってジャンプさせてスクロールアウトで倒す」「ジャンプさせてスイッチを押させる」といった風にひな形を活かすアイデアを組み 込む方向へ舵が取られます。”ひとまず難しい面を作ってから削ぎ落とす”という、いかにもゲーム創りを知る者らしいアプローチもささやかながらも重大なポ イントでしょう。必然的に、この段階でレベルデザインも同時進行していました。
その後もときおり雑談をはさみつつも淡々と進行する『JumpGun』チーム。音をどうするか? という問題についてはチーム横断的に音源を利用したりフリー素材を採用したりする / 絵はどうするか? には簡略化できるところはするといったように、突然特定のメンバーの負荷を高めるような、いうなれば属人的計画をなるべく排除しようとしていたのも感銘を 受けた部分です。これはゲーム製作にかぎらず、ごくごく一般的にいえる話でしょう。
21時の段階でゲーム部分はあらかた完成し、リザルト画面やエンディングといった付随的な要素の練り込みに突入。アイドルタイムを低減させるのがミ ドルウェア導入のメリットとよくいわれますが、さすがに手持ち無沙汰のメンバーが出ていました。しかし、そこでもあえて開き直って寝てしまうというよう に、時間の使い方に無駄がありません。
日付がかわるころには、ゴールを見すえたレベルデザインにとりかかっていました。アイデアが複数出され、このタイミングで実装されたものの多くが最 終的に採用されます。なお、この段階でタイトルロゴも完成していました。疲労も蓄積しているはずですが、粛々としていた作業の手が心なしかスピードアップ していたことも付け加えておきましょう。
夜が明け午前8時、さすがに死屍累々とした状況へ。椅子寝・机寝・ごくわずかに聞こえる会話・蝉の声・蒸し暑い部屋。じつにそれらしい「温まりか た」です。ただ、プレイアブル提出直前になり、『JumpGun』はもう片方のチームの喧々諤々の様相とは異なり、やはり淡々としていました。
IGDA による公式配信なども流され、完成が見えてきた『JumpGun』チームはここにきてようやく和気あいあいとしだします。ガンガン絵を描いて実装して調整していく、ラストスパートをかけられる状況ならではの余裕ということでしょうか。
正午すぎ、ゲーム部分の挙動はほぼ仕様と割り切りブラッシュアップ作業へ突入します。エンディングで達成感を出すためにクリア後の一枚絵を用意す る、ストーリーを最小限のフレーバーテキストでも用意する、エキストラステージを用意する、サウンドをいじくる、デバッグするといった具合。時間的な余裕 をたっぷりともたせた進行だったといえます。
余剰時間の消化に投入されたデバッグを除き事実上の最終工程だったのがサウンド。これはおそらくゲームジャムならではのノウハウと思われますが、 「まずはゲームを動かすこと」に傾注したためと思われます。ただ、やはり音が鳴った瞬間ゲームが一気に存在感を放ち引き立てられたことも確か。ミニマル ゲームでも BGM と SE は必須かつ最後のトッピングなのでしょう。
そして幕引きとなる発表会の模様を実況した配信が会場のテレビで流されます。力尽き倒れる人、無視して製作し続ける人、食い入るように観る人。外様で眺めているのがつらいくらいのコントラストでした。
結果的には『JumpGun』は一つ頭の抜けたクオリティでした。イベント公式の受賞作品を並べて比べてもその評価は変わりません。これには言うま でもなくチームメンバーの能力によるものです。チーム編成運が良かったという穿った見方もできなくはありませんが、ここまでお伝えしたように進行が適切で あったことも重要なファクターだったに違いありません。
そして、そこに加えられた「ゲームを”完成”させるぞ」という気概こそが、たった1日半で創られたゲームが TGS の会場に並ぶという成果をもたらしたのです。素人目かつ傍目ではありますが、私にはそう見えました。
名言
「プログラマーはメシが残ると切れる。リスク管理だ。」
「独立したクリエイターの税金はやばいんだよ……」
(20時に)「寝る時間を考えてもあと10時間は残ってるわ。」(=わりと寝る気)
「背景が描けたら人生なんとかなるよ……」
「17分睡眠がベスト」
(朝一の公式配信を観て)「おはようベータじゃねえよ。寝たい気分だ。」
最後に蛇足ではありますが、福島ゲームジャムの公式 USTREAM 配信について、いくつか問題を指摘して締めます。
まずなにより、品質が低かったということ。具体的には配信用 PC の全画面配信をするシーンが散見された、ステータスバー丸見えの見栄えのしない絵を垂れ流してしまっていた、回線品質が悪くとぎれとぎれになっていたな ど。とくに内容がともなっていたインタビューで Skype のビデオ会議ウインドウをまるまる範囲指定してしまっていたのはさすがにセンスがなさすぎます。
製作途中のライブ感が伝わってこない構成にも問題があります。せっかくゲームのモックができあがっているのにカメラ直撮りでしか映像を映さず、「何 が面白いのか」以前に「何が盛り上がっているのか」すらわかりませんでした。さらに、しばしば”準備中”的な一枚絵を映しだしてしまっていたのは大きな過 失です。それこそ適当に本会場の様子を映せばいいだけのところでしょう。
配信の対象となっているのがゲームではなく、関係者や声優であるシーンが多数あったのにも意義を感じられません。特定の組織やクラスタで肩書きや人 気のある方なのかもしれませんが、一介のゲームファンにはさして興味をもてない話です。無理やり笑いを取りにきたりもしていましたが、それにもたぶんニー ズはありません。
また、そもそも福島ゲームジャムを認知させる意気込みがあったのか? という部分にすら疑問が残ります。イベントの規模や集まった人数と裏腹に USTREAM の視聴者数は多くなく、それは上記のような問題以前に告知、マーケティングのたぐいに欠陥があったといわざるをえません。ハッカソンに「誰が得をするの か」を求めてもしかたがないのかもしれませんが、作品と製作者に敬意を払う放送はありえたのではないでしょうか。
とはいえ、福島ゲームジャムはまだ第3回。この手のノウハウが無いのも致し方ないところ。今後もっと各会場の熱気が伝わる工夫がなされるよう期待しましょう。