『ウィッシュルーム』手がけた鈴木理香氏最新作アドベンチャー『ダークオークション』ってどんなゲーム?記憶オークションが展開されるミステリードラマ

『ダークオークション』を“連続ミステリードラマ的ADV”として捉え、推理が得意でなくても物語に没入できた理由や、その中心にいるキャラクターたちの魅力を、実際のプレイ感覚を交えながら振り返っていく。

ミステリーADV(アドベンチャーゲーム)が好きだ。映画やドラマを見るのもいいが、「ここで自分ならどうするか」を考えながらシナリオに首を突っ込めるのがいい。正解かどうかはさておき、「いまの判断あってたかな?」と考えながら物語を追っていく、その感じがどうにも楽しい。

ただし、そうしたミステリーADVには、しばしば“推理力”が求められる。推理はとにかく苦手だ。複雑なロジックを組み立てたり、細かな矛盾に気づいたりするのは不得意で、気づけば勘と勢いに身を任せている。筆者は雰囲気で探偵をやっている。

しかし、『ダークオークション』では、推理や探索で立ち止まる場面があまりない。選択肢の前で長考するというより、登場人物たちの会話や出来事に引っ張られて、自然と次の場面へ進んでいく感覚が強い。筆者にとっては、謎を解いているというより、物語の流れに身を預けながら先を見届けていく体験に近く、気づけば一本の“連続ミステリードラマ”を追っているような気分になっていた。

喜怒哀楽乱れるミステリードラマ

本稿では、そんな『ダークオークション』を“連続ミステリードラマ的ADV”として捉え、推理が得意でなくても物語に没入できた理由や、その中心にいるキャラクターたちの魅力を、実際のプレイ感覚を交えながら振り返っていく。

※本稿はデモ版でプレイ可能な序章から第1章までの内容を含む。未プレイの場合は留意されたい。

“記憶”を賭ける怪奇オークション

『ダークオークション』は、グッドスマイルカンパニーおよびイザナギゲームズが1月29日に発売したミステリーADVだ。対応プラットフォームは、PC(Steam)/Nintendo Switch/PS5。

本作の舞台は、欧州某国にある古城。そこでは、とある“オークション”が密かに開かれていた。主人公の青年ノアは、その競売に参加したまま帰らなくなった父を追い、森の奥にそびえる古城へと足を踏み入れる。シナリオを『アナザーコード』や『ウィッシュルーム』を手がけた鈴木理香氏が手がけていることも特徴だ。また音楽については、増子津可燦氏が担当する。

霧に包まれた本作の舞台


そこでノアが目にしたのは、金ではなく「記憶」を対価として出品物を競り落とす、前代未聞のオークションだった。参加者たちは皆、それぞれに失いたくないものを抱えており、競りの場に立つ理由も立場もさまざま。父の行方を追うノアもまた、その一人として、この異様な競売の渦中へと巻き込まれていく。

昼は探索、夜はオークション

『ダークオークション』は、大きく「昼」と「夜」を行き来しながら物語が進行する。昼の時間帯は探索パートにあたり、プレイヤーは3Dマップで描かれた古城の中を自由に歩き回りながら、オークション参加者たちと会話を重ねていく。ただしそこで得られるのは、決定的な答えというよりも、その人物の背景や過去、言葉の端々に滲む感情といった断片的な情報が中心だ。

そうした探索で拾う情報は多いが、ありがたいことに本作は覚え込みを前提にしていない。会話や調査で得た固有名詞や要点は「ワードクラウド」にまとまり、あとから簡単に見直せる。誰が何を言ったか、どの出来事と結びつく話だったかを画面上で再確認できるので「あの話、どこで出てきたっけ?」と立ち止まらずに済むのはありがたい。集中力に難がある筆者でも、流れを切らさず遊び続けられた理由のひとつだ。

スタイリッシュなワードクラウドシステム

操作面も同様に、必要以上にプレイヤーを煩わせない。複雑な入力や判断を求められる場面は少なく、画面の情報量も整理されているため、次に何を見ればいいのかで迷いにくい。考えることはあくまで「集めた情報をどう受け取るか」だ。結果として、推理や探索で足を止めることが減り、出来事を追いかける感覚が途切れにくい。この点も、本作を“連続ミステリードラマ”のように感じた理由だろう。

そうして夜になると、城の空気は一変。ついに奇怪なオークションが始まるのだ。その日に選ばれた参加者が“ターゲット”となり、EPOと呼ばれる記憶再現装置を通じて、自身の記憶を提示し、その内容が正しいかどうかを判定される。求められた記憶を見事提示できれば、希望していた出品物が手に入るという流れだ。

ただし、そこで映し出される内容はいつも正しい記録とは限らない。触れたくない過去や隠し事が絡むと、肝心の場面が抜け落ちたり、別の形で再生されたりすることがあるからだ。EPOが提示した映像が不完全なままだと判定は通らず、当然競りは成立しない。しかも失敗は、そのまま出品者の生死に直結するのだ。

記憶を紡ぐオークションパート


嘘がつけないスパイ探偵

そこで活躍するのが本作の主人公、ノアである。前述した通り、ノアは他の参加者のように城に招待されたわけではない。父を追って古城へ辿り着いた結果、オークションの存在と、その異様な仕組みを知ることになる。

混乱するノアの前に現れるのが、競売の進行役である「オークショニア」だ。彼はノアに対し、父の身に起きた出来事と、このオークションでは記憶が取引の要であることを告げたうえで、ある提案を持ちかける。それは、父親に関する情報と引き換えに、すべての競りを確実に成立させるための裏方として自分に協力しろ、というものだった。

真相を知るため、葛藤しつつも提案を受け入れたノアは、参加者でも主催者でもなくオークショニアと水面下で協力する“サポーター”として行動することになる。その日のターゲットや出品物を事前に知らされているのはノアだけであり、昼の探索で集めた会話や違和感を手がかりに、出品者が辿り着くべき本来の記憶へ導く役目を担う。この昼と夜の噛み合わせが、オークションパートの芯になっているのだ。

一日の出来事を振り返るノア


ただ、その役割は他の参加者には伏せられている。ノアはあくまで同じ城に集められた一人として振る舞いながら、オークショニアの存在や自身の立場を悟られないよう、いわばスパイとして立ち回らなければならないのだ。

もっとも、本作のシナリオが面白いのは、この「スパイ役」であるはずのノアが、あまりにも“正直すぎる”ところにある。立場だけを見れば、ノアは主催者側の人間であり、参加者を欺き、裏から誘導する存在だ。普通であれば、感情を押し殺し、言葉を選びながら慎重に距離を測る役回りになるだろう。

ところが、ノア本人の性格はその役割とまったく噛み合っていない。彼は見た目こそクールなガイだが、中身は驚くほど素直で、嘘がとにかく下手だ。警戒されないよう気を配ってはいるものの、気になったことは結局そのまま口にしてしまう。「君のことが知りたいいんだ!」と真正面から伝えるその姿は、スパイというより、ただの好青年である。

あまりにも好青年

しかし、その不器用な真っ直ぐさこそが、結果的にノアの武器になっている。打算や裏を感じさせない態度は、秘密を抱えた参加者たちに安心感を与え、少しずつ距離を縮めていく。他の人物には明かさない本音や過去が、ノアには自然とこぼれ落ちる。結果としてノアは、欺くことなく信頼を積み重ねることで、誰よりも核心に近い情報へと辿り着いていくのだった。

オウム男はデスゲーム主催者“じゃない”

本作において、もう一人忘れてはならないのがオークショニアだ。オークショニアは、この異常な競売を取り仕切る司会者であり、同時にオークションという仕組みそのものを体現する人物でもある。常に余裕を崩さず、丁寧な物腰と低く響く声で場を掌握する姿は、参加者にとってもプレイヤーにとっても、どう見ても主催者側、“敵”の立場に映るだろう。

黒スーツが似合うオークショニア

実際、オークショニアは主催者側の人間であり、参加者の記憶や命が懸かった競売を淡々と進行させる役目を担っている。外見も含めて、いかにもデスゲームの主催者といった風貌だ。公式設定では「オウムの被り物」とされているが、確実に瞬きをしているあたりも含めて、不気味さは十分。第一印象だけなら、申し訳ないが“悪人”と判断して差し支えないだろう。

ところが物語を進めていくと、その印象は少しずつ崩れていく。オークショニアは、オークションを成立させるためなら何でもする冷酷な存在というわけではない。自分なりの基準や線引きを持っており、無秩序な殺戮を楽しむ殺人鬼でもなければ、倫理観を完全に捨て去った狂人でもないのだ。ノアを“駒”として扱ってはいるものの、その接し方にはどこか奇妙な誠実さがあり、単純な悪役には収まらない人間味が滲んでいる。

加えてノアとのやり取りも思いのほか軽快だ。ノアに「オウム男」と呼ばれて静かに苛立ったり、競売が無事に成立した瞬間には「ハンマープライス!!」と上機嫌で木槌を振り回したりと、感情が漏れ出す場面も多い。この見た目と中身のズレこそが、オークショニアというキャラクターの魅力なのだろう。一直線で正直すぎるノアと並ぶことで、その食えなさや人間臭さがより際立つ。

マスクの下はきっと笑顔


ノアやオークショニアだけでなく、古城に集められた他の参加者たちも、本作を語るうえで重要な存在だ。本作のキャラクターデザインを手がけるのは、漫画『GANGSTA.』で知られるコースケ氏。線の強さと色気を併せ持つビジュアルは印象に残りやすく、各々の性格がひと目で伝わってくる。色々な意味でワガママなロレーヌ、皮肉屋で刺々しい医師エドガー、小動物のような雰囲気と芯の強さを併せ持つカルラなど、面々は実にわかりやすく、そして愛嬌がある。

こうしたキャラクターは、単なる舞台装置ではなく、会話を重ねるごとに印象が変化し、少しずつ距離が縮まっていく。第1章を終えた時点で、エドガーに対する印象は大きく変わり、「いけ好かないやつ」から「ズッ友」へとひっくり返ったことが、その好例だろう。

秘密を抱えた参加者たち


雰囲気探偵も輝ける“遊ぶ”連続ミステリードラマ

振り返ってみると、『ダークオークション』が印象に残った理由は明快だ。推理が得意でなくとも、立ち止まらずに物語を追い続けられる設計と、その中心に置かれたノアという“正直探偵“が、プレイヤーの迷いを最小限に抑えてくれる。本作は正解をロジカルに突き止めることよりも、人と人との会話や感情の揺れを見届けていく感覚に近く、まるで”連続ミステリードラマ“の中に身を置いているかのような手触りがある。

普段は“雰囲気探偵”の筆者でも、冷や汗をかく場面はほとんどなく、この奇妙なオークションに身を委ねることができた。この没入感こそが、本作を本作たらしめる最大の魅力なのかもしれない。

『ダークオークション』は、PC(Steam)/Nintendo Switch/PS5向けに発売中。

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Junya Shimizu
Junya Shimizu

ローグライクが大好きです。映画や海外ドラマも好きなので、常に時間に追われています。

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