BitSummit 2014 作品ピックアップ by Nobuki Yasuda 『Shapist』&『MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』


昨年に引き続き開催された BitSummit は、面積を数倍にして帰ってきていました。そのぶん出展者が増えたのはいうまでもありませんが、特筆すべきだったのは「実際にゲームに触れる時間が増えたこと」です。すでに ishigenn がレポートしているように、弊誌からは複数名が取材にあたりました。

それなりの時間会場に滞在していたため、プレイしたゲームの数は少なくありません。また、(残念ながら・そして当然ながら)玉石混交でもありまし た。そこで今週は、数本に絞りこみ各員が気に入った作品をご紹介します。様々な観点から BitSummit ならびにインディーへ一歩引いた眼差しが投げかけられがちですが、会場には文句なく賞賛に値するゲームが存在していたという事実をお伝えできればさいわい です。

 


『Shapist』 単純&複雑・イズ・ベスト

 

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「どれか1本だけ挙げろ」と言われたら文句なくこれ、『Shapist』。iPad 向けにすでにリリースされています。ジャンルはパズルゲームで、価格は300円。開発は Qixen-P Design。公式サイトでは、ブラウザで動作する体験版が公開されています。

上掲のイメージ画像からゲーム内容を想像できてしまう方もいらっしゃることでしょう。具体的には、カラーブロックをスワイプで1つずつ移動させるこ とでステージ上に指定された位置からブロックをどける、というもの。正式版には50面用意されており、途中から磁石的な性質を持つブロックや、形状の変化 するブロックなどが登場しプレイヤーを飽きさせません。また、その単純な操作体系とは裏腹にそもそもレベルデザインの設計が奥深く、「見た瞬間に答がわか る」・逆に「正解が遠すぎて見えない」がないよう創りこまれているのが好印象です。

この手の『倉庫番』ライクなパズルゲームはこの世に山のようにあります。しかしそんななか本作が際立っていた理由は、解法が”常識はずれ”である ケースがあるという点につきます。事細かに書いてしまうと興をそぐことになりかねないので詳述は避けますが、とにかくタブレット端末とパズルゲームの相性 のよさを見せつけられたと表現しても言いすぎではありません。

また、ゲーム以外の部分として印象的だったのはスペース活用のセンス。横並びに展示する出展者がほとんどだった一方、『Shapist』は2人が向 かい合う形で iPad を設置していたのです。ただこれだけでプレイヤーをムキにさせるには十二分であり、実際私と Dimitri はムキになっていました。プレイ時間は30分以上(メディア日です)。

ゲームのコンセプトから完成度、そして見せ方まで、あらゆる点で Qixen-P Design は高水準に到達していました。インディーらしさを満天下に見せつける快作です。ただし、複数名により知性の対決をおこなうときにこそ、その真価を発揮する であろう点には注意しなければなりません。未プレイのゲーマー2匹以上と iPad 端末2つ以上を用意するべきでしょう。

 


『MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』 アイデア賞もの

 

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『MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』は、大賞に該当する「朱色賞」を獲得したことでアピールに成功した作品です。開発は3DS『スティールダイバー』の VITEI(ヴィティ)。ジャンルはドライブアクション。客であるゾンビを乗せて目的地点まで届けます。

BitSummit 全体を俯瞰すると Oculus Rift を使用したゲームがいくつかあり、しかしそのほとんどが「Oculus を使った技術デモ」の域を脱却できていないなか、本作はきちんとゲームらしく創られていたのが大きなポイントです。けっして必要な要件をすべて満たしてい たわけではありませんが、それでも Oculus 界隈の状況をかんがみるに評価に値します。

ゲームの内容は、一言でいってしまえば「出来の悪い『クレイジータクシー』」 でしかありません。しかし、タクシー業務ならびにドライブゲームと Oculus の相性の良さはプレイした瞬間に伝わってくるもので、なるほど大賞受賞もうなずけます。街角から無作為に日本人を連れてきて片っ端から BitSummit 出展作品をプレイさせたら、おそらくは本作がやはり一番楽しまれるでしょう。

また、「ゾンビが自分の運転するクルマに乗ってくる」というシチュエーション自体が面白く、それを Oculus が力強くブーストするのです。振り向くと後部座席その他にゾンビが行儀よく乗っている様や、乱雑な運転で吹っ飛んでいく光景はそれだけでシュールな笑いを もたらします。雑なだけなのかポップなのか判別しかねるグラフィックスもそれに寄与しており、偶然か必然か、いわゆる”高い完成度”へ到達しているという ことです。

 


 

次点の1つ、『Phobos Children』。 うなりを上げる完成度、驚くほどの没個性。 ようするにタッチするだけの『斑鳩』ミーツ『パズドラ』。
次点の1つ、『Phobos Children』。

うなりを上げる完成度、驚くほどの没個性。

ようするにタッチするだけの『斑鳩』ミーツ『パズドラ』。

 

ほかにも印象に残った作品は多々あったのですが、今回はこの2本を選出しました。とくに深く考えたわけではありませんでしたが、この2作に共通して いるのは「完成されている」というところです。『MODERN ZOMBIE TAXI DRIVER』は商品になっていないものの、骨子が組みあげられていることは疑いようがありません。

「インディーといえばたいていが荒削りで、しかも思いつきみたいな作品ばかりなんだろう?」という向きもあるでしょう。そして、それはけっして100%間違った認識ではありません。

ならばこそ、コンセプトがはっきりしており、ゲームのフレームワークがきちんとしていて、かつ独特の発想が織り込まれている作品が心に残ったので す。商品状態でなければならない……そんなわけはありません。プレアルファ上等、トレイラーのみ出展望むところです。それでも、結局のところプレイして楽 しかったのは「真っ当なゲーム」だったということでしょう。