証言のウソを暴け、 『逆転裁判』と『428』を組み合わせたザッピング推理アドベンチャー『Armchair Detective』プレイレポート

「デジゲー博2016」では、多数のノベルゲームやポイント&クリックアドベンチャーが出展されていた。そのなかで既存の名作アドベンチャーゲームのシステムを組み合わせつつ、洗練された新しいアドベンチャーゲームのスタイルを作りだしていたのが、『Armchair Detective』だ。

「デジゲー博2016」では、多数のノベルゲームやポイント&クリックアドベンチャーが出展されていた。そのなかで既存の名作アドベンチャーゲームのシステムを組み合わせつつ、洗練された新しいアドベンチャーゲームのスタイルを作りだしていたのが、『Armchair Detective』だ。

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主人公は探偵事務所の助手、蒔苗未来(マキナミライ)となり、探偵の草薙椎名(クサナギシイナ)と共に事件を解決に導いていく。『Armchair Detective』というタイトル通り、本作は安楽椅子探偵がテーマだ。探偵たちは事件現場には直接赴かず、警察のバックアップのもと、探偵事務所に集められた複数の容疑者から事件の証言をかき集める。その証言同士におかしい点があれば、容疑者に矛盾を突きつけて追求し、それが正解だった場合はまた新しい証言が得られる。これを繰り返すことによって真犯人を見つけだすのが目的だ。本作はこのゲームの流れをシステム的に落とし込んでいるところが真骨頂である。そのことについて具体的に説明しよう。

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まずプレイヤーは、探偵事務所に控えている容疑者から証言を聞いていく。容疑者は複数存在し、どのキャラクターから証言を聞いていくのかは任意に選択可能だ。この証言は容疑者のそれぞれの視点から語られるため、本作はザッピングに近い構造になっている。『EVE burst error』や『428』のような、一つの事件や状況に対し、複数の語り手が入ることによって、ストーリーの立体性が生まれてくるストーリーテリングだ。だが、そこには矛盾やウソが紛れ込んでいるので、プレイヤーは細心の注意を払わなければならない。ザッピングを通した複数視点の矛盾点という観点に立てば、打越鋼太郎氏がシナリオを手掛けた『Ever17 -the out of infinity-』のようなミステリーの要素がここには含まれているとさえ言えるだろう。

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その容疑者の証言パートでは、キャラクターの立ち絵はなく、文章が画面全体で表示される『かまいたちの夜』のようなサウンドノベルのようなスタイルをとっている。興味深いのが、このノベルパートは三人称の文体が使われていることだ。基本的に三人称というのは全知である客観的な語り手として使われるものだが、本作においては台詞だけではなく三人称の地の文においてもウソや矛盾点が紛れ込んでいる。開発者の方いわく、一人称の文体にするかどうかは悩んだが、『428』が三人称の文体だったので、それに倣ったスタイルになったという。だがこの決断は、客観的な文体と信頼できない語り手という組み合わせにおいて、アドベンチャーゲームに新感覚をもたらすかもしれない。

ノベルパートでハイライトされた文字に注目して欲しい。これは容疑者を追求するときに使うキーワードであり、読み進めるとこのキーワードは自動的に収集される仕組みになっている。本作はノベルパートをすべて読み進める必要はない。追求すべきキーワードさえ見つければノベルパートを中断して、そこから容疑者を追求することができる。追求に関しては間違ったキーワードをプレイヤーが使ってしまってもペナルティは今のところ考えていないということだが、総当りしようにも容疑者×キーワードの数だけ選択肢があるので、推理しないと中々先に進めることはできないだろう。

本作のさらにユニークな点は、キーワードをクリックすると、そのキーワードに関する推理や裏づけ、予断などの補足情報がキャラクターから聞けるところである。要するに『428』や『シュタインズ・ゲート』でいうところTIPSなのだが、これがキャラクター同士が会話するスタイルになっているのだ。

左の二人が本作の主人公である蒔苗未来と草薙椎名。右が証言中の容疑者。画面の奥のテレビに写っているのがノベルパートの証言である。
左の二人が本作の主人公である蒔苗未来と草薙椎名。右が証言中の容疑者。画面の奥のテレビに写っているのがノベルパートの証言である。

このノベルパートから会話劇の体裁をとるTIPSへの移行する映像的な演出が巧みだ。完全に画面が切り替わるのではなく、ノベルパートはテレビの画面のなかに収まる構図になる。まるで探偵と容疑者がそのキーワードを囲んでディスカッションしているかのようにシチュエーションを盛り上げてくれる。本作は『逆転裁判』の影響を受けたということだけあって、UIのエフェクトがかなり凝っており、よく動いていたことが確認できた。

アドベンチャーゲームというのはキャラクターやシナリオこそが評価される最大のポイントだ。本作もまたプレイヤーの最終的な評価となると、結局のところシナリオがどうなのかというところになってくるだろう。だが本作は、ゲームの構造やUIを含めて、アドベンチャーゲームの新しい洗練されたスタイルを提示していることは間違いない。

『Armchair Detective』を制作したのはサークルADVangelistのぜろあや氏である。まだ高校3年生という若き新鋭だ。12月末に第1話がリリース予定になっている。筆者はデジゲー博の後日、ぜろあや氏にコンタクトを取ってSkypeでインタビューを試みた。

 

ぜろあや氏 インタビュー

――自己紹介をお願いします。

ぜろあや氏
ぜろあやという名前で活動しています。今、高校3年生で、この前デジゲー博に初めてゲームを出展しました。

――どれぐらいの制作期間でデジゲー博に出展されたんですか?

ぜろあや氏
高校1年ぐらいから作ってまして、期間的には2年ぐらいです。学生生活の合間を縫って作っていました。

――それ以前はゲームを作っていたんでしょうか。

ぜろあや氏
中学2年のときにぐらいに誰にも見せるわけでもなく何となく作っていました。『Fate/stay night』でも使われた吉里吉里というエンジンを触っていたり。今回の『Armchair Detective』はArtemis Engineを使っています。PC向けですが、このゲームエンジンはスマホにも対応しているので、UIを対応させてスマホ向けにリリースすることも考えています。

――画面のUIやエフェクトが凝っていますね。

ぜろあや氏
長い間、作ってましたからね。こういう細かいエフェクトの出しかたを考えるのが好きだったんで、それの積み重ねですね。

――お一人で作られているんですか?

ぜろあや氏
背景は写真やフリー素材を加工して、BGMもフリー素材から借りています。それ以外のUIやエフェクト、プログラムやキャラクターデザインは一人でやっています。

――完成まではどれくらいかかりそうですか。

ぜろあや氏
まず第1話を12月末に公開できたらいいと思います。ボリュームは2時間程度です。システムを作るのに時間がかかりましたが、デジゲー博に出展することを決めて徹夜で仕上げました。2話以降はシナリオとキャラクターデザインだけなんで、がんばります。はっきりとはいえませんが、最終的には5話ぐらいまで想定しています。

――どうしてこのようなコンセプトのアドベンチャーゲームを作ろうと思われたんでしょうか。

ぜろあや氏
『428』をプレイして、主人公が何人もいて、ストーリーが相互に作用するザッピングものが惹かれたんで、そういうゲームを自分でも作ってみたいというのが始まりです。自分のなかでオリジナリティを出そうとしてこうなりました。何かシステム的なギミックがあるアドベンチャーゲームが好きなんです。

――他にこれまでどんなアドベンチャーゲームをプレイされましたか。

ぜろあや氏
『逆転裁判』シリーズ、『ダンガンロンパ』シリーズ、『シルバー事件』、『Ever17』、『シュタインズ・ゲート』、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』などですね。これらはアドベンチャーゲームにはザッピングがあったり、フローチャートがあったり、ゲーム性があります。

――最後に何かコメントあればお願いします。

ぜろあや氏
ゲームのサイトもなくて自分のブログだけなんですが、ぜひブログとTwitterをフォローして頂いたら助かります。

Koji Fukuyama
Koji Fukuyama

小学2年生のときに、『ドラゴンクエスト5』に出会い、「ゲームは、ゲーム独自の手法を使って人間のドラマや物語を伝えることができる」ということに衝撃を受けました。そこから一貫して、ストーリーメディアとしてのゲームに注目しています。

同時に中学生から映画を浴びるように見始め、西部劇やホラー、SF映画など、アメリカの古典的なジャンル映画をとくに偏愛しています。

オールタイムベストゲームは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。このゲームで感じた面白さや感動を再び体験するために、ずっとゲームを続けています。

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