『バイオハザード』の参考にされたと言われる『Alone in the Dark』はリメイクで『バイオハザード』の影響を受けている。THQ Nordic開発者インタビュー

先月開催された東京ゲームショウ2022。同イベントにて、『Alone in the Dark』のプロデューサーであるTHQ Nordicのミハエル・ペック氏に本作の魅力を伺い、いくつか直接質問をする機会をいただいた。

今年9月15日から18日にかけて東京ゲームショウ2022が開催された。熱気溢れるプロレスリングが印象的なTHQ Nordicブースの中で、かたやひんやりとした印象を放つのは同社の『Alone in the Dark』の展示。90年代前半にカルト的な人気を誇り、その後のサバイバルホラーゲームに大きな影響を残した作品のリメイクだ。筆者は今回、注目作『Alone in the Dark』のプロデューサーであるTHQ Nordicのミハエル・ペック氏に本作の魅力を伺い、いくつか直接質問をする機会をいただいた。本稿では以下にそのインタビュー内容をお届けする。


原作へのラブレターとなるようなリメイク

――まずは自己紹介をお願いします。

Paeck氏:
THQ Nordicのエグゼクティブ・プロデューサー、Michael Paeckです。『Alone in the Dark』のプロデューサーを担当しています。

――まず『Alone in the Dark』リメイクという作品について教えていただけますか?

Paeck氏:
30年前に発売されたオリジナルの『Alone in the Dark』は、革新的なゲームでした。その後のホラーゲームに莫大な影響を与えた、3Dサバイバルホラーゲームの原点と言えるゲームで、このゲームがなければ現代のホラーゲームは全く違ったものへと進化していた可能性すらあります。このような伝説的なゲームのIPを獲得できたことは、非常に幸運なことです。


今回のリメイクのコンセプトは「原作へのラブレター」です。最近のホラーゲームはどちらかというと「テラーゲーム」という感じで、ジャンプスケア(椅子から飛び上がるような、びっくりさせるような演出のこと)が多かったりしますよね。原作『Alone in the Dark』にはそういう要素は少なく、その流れを汲んでいる本作も普通のサバイバルホラーとはちょっと違います。どちらかというと雰囲気を重視した作品で、すこし独特な、デヴィッド・リンチ的な世界観を描き出す作品となっています。とはいえゲームプレイ的にはオーソドックスなスタイルを踏襲していて、探索、パズル、戦闘といった定番の要素がバランス良く盛り込まれています。

原作のシンプルなリメイクだと、とても短いゲームになってしまいます。原作は長くても3時間半ほどのゲームですからね。原作シリーズは1992年から1994年にかけて3作存在しますが、現代的なゲームに仕上げるにはこの3つのゲームからなるべくストーリーの要素を拾い上げて深掘りしていく必要がありました。ちなみにシリーズはこの3作以外にも2000年代に続編が2つ、協力シューティングゲームが1つ、そして映画が公開されていますが、これらは今回のリメイク制作にあたって参考にしていません。90年代のオリジナル3作のみにフォーカスしています。この3作品のストーリーは短いですが、ゲームの各所に世界観や設定の断片を記したメモが多く存在します。実際にゲームには登場しない設定のみのキャラクターの名前などもありますので、そういった物語の欠片を繋ぎ合わせて、大きなひとつのゲームとしたのが今回のリメイクというわけです。

もうひとつの特徴としては、この作品はいわゆる「幽霊屋敷もの」です。このジャンルの作品はイングランドやニューイングランドを舞台にしていることが多く、これはエドガー・アラン・ポーのような作家たちの影響が大きい。ですが本作の舞台はニューオーリンズ。イングランドに比べると蒸し暑い地域で、ちょっとした舞台や気候の違いが思っている以上に雰囲気や世界観の目新しさに繋がっていると思います。


ゲームプレイについてもう少し詳しくお伝えします。戦闘パートは基本的に銃を使ったシューティングとなりますが、主人公はあくまでも一般人。特殊能力などもなく、モンスター相手には基本的に苦戦を強いられます。リソースは有限で、逃げるのも常に選択肢のひとつです。パズルは、ゲーム序盤は非常にシンプルなものから始まり、終盤にかけて難易度が上昇していきます。このパズル要素に関しては、なるべくゲームのストーリーと自然に噛み合うようなものを用意するように注意しています。ゲームプレイの合間に唐突に「浮いた」パズルが挟まって没入感が台無しになる、というのはホラーゲームのあるあるですが、そういったことがないようにですね。


デモ版としてプレイアブル・ティーザーを用意しているのですが、こちらはちょっと特殊なものになっています。デモとしてゲームの序盤を適当に切り抜いてしまうと、どうしてもネタバレになってしまいます。これについて悩んでいたところ、原作の『Alone in the Dark 2』には『Jack in the Dark』というプレイアブル・ティーザーが存在したということを発見しました。これはおそらくゲーム業界の歴史上で初のプレイアブル・ティーザーではないかと思います。なのでせっかくなのでこれを踏襲する形で本作でもプレイアブル・ティーザーを用意することにしました。

リメイク版のプレイアブル・ティーザー『Grace in the Dark』ではグレイスという少女を操作して、本編の前日譚にあたる物語を追うことになります。戦闘やパズルはなく、探索のみとなっています。繋がりはありつつも本編とは関係ない作品ですので、発売前にデモとしてリリースするか、ゲーム本編にエキストラ要素として収録される予定となっています。

『Alone in the Dark』リメイクには主人公が二人います。一人はエドワード・カーンビーで、原作の3作でも主人公となるキャラクターです。もう一人はエミリー・ハートウッドで、彼女は1作目には登場するものの何故か残りの2作には出てきません。ですが本作は「ラブレター」ですので、彼女を登場させないわけにはいかないと思いました。原作と同じように最初に2人のうちどちらでプレイするかを選ぶことが可能で、最初の主人公選択によって以降のムービーや会話の内容も全て変化します。ストーリーの内容や雰囲気にもかなり違いがあり、エミリーにとって屋敷の主人であり失踪したジェレミー・ハートウッドは彼女の叔父。要は当事者なわけですから、ストーリーの内容もシリアスです。対してエドワード・カーンビーはあくまで私立探偵ですから、こちらのストーリーはもうちょっとライトな感じに仕上がっています。どちらにせよ、ストーリーの全貌を把握するためには両方ともプレイしなければなりません。

当たり前ですが、30年前のゲームをみんながみんなプレイしたことがあるわけではないですし、それを前提にゲームを作るわけにもいかないので、本作はシリーズを知らない方でも楽しめるようになっています。ただ原作をリスペクトした要素や小ネタがゲーム中のあちこちに散らばっていますので、シリーズファンはそういった部分にも注目してもらえれば、より楽しめるのではないかと思います。

本作は現在鋭意開発中で、開発開始からは3年ほどになります。発売日は未定ですが、楽しみに待っていただければ幸いです。

ホラーゲームのエキスパートたちによる現代版再構成

――日本語対応とありますが、日本語の字幕と音声は収録される予定ですか?

Paeck氏:
字幕はもちろんありますが、ボイスに関しては未定です。各国での反応を見つつ収録する言語を決めていくことになると思います。

――あの名作『Alone in the Dark』のリメイクであるということ以外に、本作の純粋なホラーゲームとしての魅力や強みはどこにあると思いますか?

Paeck氏:
本作にはサバイバルホラーゲームの基本となる要素が余すところなく詰まっていますし、それでいて先程も言ったようにただ驚かせるだけのゲームではない、本作独自の世界観と雰囲気が構築できていると思います。優れたサバイバル探索ゲームでありながらも、シネマティックな体験の提供にも成功している作品だと自負しています。

――原作『Alone in the Dark』は当時非常に革新的なゲームでした。受け継がれたリメイク版にも革新的と言える部分はあると思いますか?

Paeck氏:
1992年当時に比べたら、現代においてサバイバルホラーというジャンルで革新的であることはなかなか難しいと思います。古い作品のリメイクということもあり、本作にはこれが斬新だ!というような強烈なポイントがあるわけではないですが、逆に当時から受け継がれてきたサバイバルホラーゲームのエッセンスがしっかりと、ひとつひとつ完成度高くまとまっているはずです。

――初代『バイオハザード』は原作『Alone in the Dark』を参考にしたと言われています(参考:Wikipedia)。今回のリメイクにあたって逆にそれを意識した点はありましたか?

Paeck氏:
もちろんです。『バイオハザード』シリーズは『Alone in the Dark』から影響を受けた上で今までの歩みがあり、今度は我々がリメイクをするにあたって『バイオハザード』シリーズから多くの影響を受けています。特に『バイオハザード RE:2』は素晴らしい作品でしたからね。どのジャンルでも少なからずこのようにして、優れた作品同士がお互いに影響しあって進歩してきていると思います。

――ストーリーに関しては、原作をなぞるだけではなくかなりしっかりと再構成されているのですか?

Paeck氏:
その通りです。原作に存在する断片的な世界観や設定といった「点」を繋ぎ合わせて、ひとつのしっかりとした「線」のストーリーに仕上げています。キャラクターも大幅に増えていますし、原作に名前だけ存在する人物などにも新たに役割を持たせて登場させています。


――サバイバルホラーゲームは、市場として大きな可能性を秘めていると思います。『Alone in the Dark』シリーズは今後もジャンルのファンを惹き付けるフランチャイズになると思いますか?

Paeck氏:
何よりもまずは『Alone in the Dark』シリーズの名声を取り戻さなければなりません。お世辞にも質が高いとはいえない続編や派生作品が出すぎていましたから、ここで一度しっかりと原作を踏襲したリメイクでシリーズの評価を取り戻す必要があります。今後続編が出て大きなフランチャイズとなるかは本作の評価次第ではありますが、この作品が最初の一歩であることには間違いありません。

――開発スタッフの規模はどれくらいでしょうか?

Paeck氏:
コアメンバーは40人前後になります。ただいくつかTHQ Nordicの他の開発チームに委託して進めている部分などもありますから、全体で見たら100人ほどが関わっている計算になると思います。

――原作の開発メンバーは本作に関わっていますか?

Paeck氏:
フレデリック・レナール氏(Infogrames社のゲームデザイナー、『Alone in the Dark』原作の開発に関わる)に連絡を取ったりはしていますが、それ以外は特に原作の開発メンバーを迎え入れたりしているわけではありません。

――最後に、好きなホラーゲームを教えてください。

Paeck氏:
最近だとやはり『バイオハザード RE:2』が素晴らしいゲームでした。それまでは一番好きなのはドリームキャストの『バイオハザード CODE:Veronica』でしたね。あとは『SOMA』も素晴らしい体験で、特に気に入っているゲームのひとつです。ですので、ミハイル・ヘドベルク氏(『Amnesia』や『SOMA』のシナリオを担当したクリエイター。本作でもシナリオを担当)をスタッフに迎え入れられたことを本当に喜ばしく思っています。彼以外もスタッフはホラーゲームのエキスパートと言うべきメンバーばっかりですので、ホラーゲームファンはぜひ本作を楽しみにしていてください。

――本日はありがとうございました。


『Alone in the Dark』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに開発中。発売日は未定で、日本語字幕に対応予定。

Mizuki Kashiwagi
Mizuki Kashiwagi

PCとPS4をメインで遊んでいます。自分で遊んでも、観戦していても面白いような対戦ゲームが好きで、最近は格闘ゲームとMOBAをよく遊んでいます。

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