MSX愛&インディー精神を貫いてきたNIGOROのこれまでの道のり。『LA-MULANA 2』の完成記念イベント「LA-MULANA 通の会」レポート

謎の巨大遺跡「ラ・ムラーナ」に眠る“生命の秘宝”を求め、遺跡の中を探索する遺跡探検考古学アクションゲーム『LA-MULANA』の続編となる『LA-MULANA 2』が先月7月31日にPC向けにリリースされた。それにあわせて「LA-MULANA通の会」が実施された。その内容をレポートする。

謎の巨大遺跡「ラ・ムラーナ」に眠る“生命の秘宝”を求め、遺跡の中を探索する遺跡探検考古学アクションゲーム『LA-MULANA』の待望の続編、『LA-MULANA 2』が7月31日にPC向けにリリースされた。

それに先駆けて『LA-MULANA 2』の完成を記念した「LA-MULANA通の会」と題したトークイベントが7月29日に東京・秋葉原で開催。『LA-MULANA』の開発であるNIGOROのメンバーである楢村匠氏、サミエルこと鮫島朋龍氏、duplexこと蛯原隆行氏、そして『LA-MULANA 2』から加わった中川啓己氏の4人が勢ぞろいした。彼らがどのように出会い、今に至ったのか、ゲームの制作秘話を交えながら3時間たっぷりと語られたので、そのレポートをお届けする。

左から鮫島朋龍氏、楢村匠氏、蛯原隆行氏、中川啓己氏

事実上の処女作『なんちゃってハイドライド』

ことのはじまりは、楢村氏が開設していたMSXファン向けの趣味のホームページだった。そこにはMSXファンが日夜集まり、掲示板ではさかんに交流していたという。楢村氏によると、当時、MSXユーザーはファミコンユーザーに対して少数派に置かれていた。ソフトの本数では勝てないが、『グラディウス』の移植の良し悪しは語ることができる。小学生でファミコンを持っているのは10人以上いたが、MSXは1人か2人だったという。サミエル氏もそれには賛同を示し、そういった幼少期を過ごした熱意あるMSXファンが掲示板に集まって、MSX談義をしていたのは想像に難くないだろう。

『なんちゃってハイドライド』

楢村氏は、MSX2で発売していたRPGツクール系統にあたる『Dante2』で事実上の処女作である『なんちゃってハイドライド』を作り、ホームページで公開していた。もちろん同作はタイトルどおりりT&E SOFTの『ハイドライド』を意識しているが、MSXのスペックではなく、『Dante2』のスペックに合わせて再構築された作りになっている。たとえばスクロールは、画面切り替えスクロールではなく、キャラクターに合わせたスムーズ・スクロールだった。だが、ベースは『ハイドライド』ながら、ボスやダンジョンを増やしたり、グラフィックもコピーするのではなく、楢村氏がドット絵をイチから描いていた。

 

NIGOROの前身「GR3 PROJECT」結成

少し時を経て、掲示板からチャットでリアルタイムなコミュニケーションできるようになった。楢村氏とプログラマーであったduplex氏とチャットしていると、「ゲームを作ってみたい」「じゃあ作ってみましょうか」と意気投合。このとき、楢村氏が念頭にあったのは掲示板仲間でもあった「魚人様」という先駆者の存在だった。魚人様氏はMSX風シューティングゲームをすでに作り公開していたので、楢村氏もMSX風のシューティングゲームを作りたくなっていたという。ちなみに、この魚人様氏は『LA-MULANA』でもオマージュされている。そういうわけで、MSX版『グラディウス2』『ゴーファーの野望 エピソードII』のオマージュが濃厚な『GR3(Great Rainbow 3)』に着手する。ほどなくして、サミエル氏も合流して、NIGOROの前身であるGR3 PROJECTがここで結成される。もともとduplex氏は『グラディウス』を模倣した程度のゲームを思い描いていたので、ゲーム制作も「それぐらいなら」と思っていたが、楢村氏から挙がってきた企画書には、ステージクリアごとに装備が追加するようなオリジナル要素が構想として含まれており、「この人おかしいぞ」と驚いたと語っていた。

このように『なんちゃってハイドライド』もそうだが、オマージュするベースのゲームがありつつも、やるからには完全なコピーではなく、自分の解釈をいれることが楢村氏のこだわりだった。例えば『GR3』においては、ステージ1から要塞からはじまり生物的な敵が登場するのは、本家にないコンセプトを打ち出そうとする意図があったという。

「GR3 PROJECT」というチーム名になっているのは、『GR3』を作って解散するくらいの気持ちだったのだが、『GR3』公開後は、どこかのニュースサイトで注目されたのか、急にホームページのアクセス数が100から1万程度に急増したという。この件について楢村氏は、もっとしっかりしたゲームを作らなければいけないと、気を引き締めるきっかけになったと語る。こうして次に制作されたのはオリジナル版『LA-MULANA』だが、『LA-MULANA』シリーズについては、後でまとめて記述する。

2001年の『GR3』の発表から、GR3 PROJECTを解散し、NIGOROをスタートさせる2007年の間、楢村氏の心境としては、GR3 PROJECTがこれだけ注目されて急伸していくなか、個人がゲーム製作して、ネットで売るのが仕事になる時代がくるのではないかという空気をすでに感じていたという。今でこそこうした販売は当たり前になったが、15年以上前のサミエル氏は当時、大学生。楢村氏は「ゲーム制作するのを仕事にしよう」と二人に切り出すのは責任が伴うため、言い出すまで数年を要したようだ。

 

幻の未完成アドベンチャーゲーム『MSX王国』

GR3 PROJECTはそもそも魚人様氏という先駆者が存在し、リスペクトという形で出発したので、一旦これをリセットして、自分たちのブランドを立てて、新しいグループであるNIGOROとして再スタートすることを考えていた。その解散までの短い期間に、いくつかゲームを制作しようとしたが、そのなかでもGR3 PROJECT時代の最後の企画が『MSX王国』という幻に終わった未完のゲームである。MSXのネタをふんだんに詰め込まれたアドベンチャーゲームで、「MSXの時代よ、さよなら」というテーマを盛り込まれた感動巨編にしようとしたが、結局、完成には至らなかった。

気になる内容だが、サミエル氏いわく、同じコンセプトなのが、モノクロ8bitから始まり3Dに変化するというインディーゲーム『Evoland』。この作品のMSXバージョンともいえる作品だったという。
最初はMSX1のスペックの簡素なグラフィックからはじまり、音楽はPSGも3音のみで構成。イベントグラフィックはLINE&PAINTで描かれる。ロールプレイング地方、シューティング地方、パズル地方と、さまざまに分かれており、各地方にいるMSXの発展を妨げる魔王を倒すと、次の時代に進むことができる。

『MSX王国』のコンセプト画面。イベントのスライドを独自に繋ぎ合わせたもの。

たとえばMSX1の時代では、それまで画面には4人までしかキャラが同時に表示することしかできなかったが、魔王を倒してMSX2のスペックに進むことができると、5人目のキャラクターが表示されるようになり、その新しいキャラから情報が得ることができる。ここでは音楽はFM音源にアップグレードしている。次のMSX2+の時代になると、FM音源+PSG音源、次のMSXturboRのスペックになると、画面モードはSCREEN8のMIDI音源。グラフィックはより高精細に。このようにゲームのスペック自体がゲームの進行によって変化するゲームだったという。魔王は倒されるとき「自分で作ったゲームは、例えつまらなくても、その人に取っては最高のゲームなんだ」という風に、MSXファンの琴線に触れるような台詞を吐く。最終的には幻のMSX3のスペックに突入することまで構想されたという。

しかしこれを一か月で作ろうとしたため「できるわけがない」として、完成には至らずホームページにはスポーツ新聞風の謝罪する画像を開催。悪ふざけの形でGR3 PROJECTは幕を閉じた。

 

NIGOROとして再スタート

2007年、NIGOROを正式に立ち上げる。MSXオマージュから離れて、いくつものFlashゲームを制作する。しかしなぜFlashゲームを作り始めたのか、楢村氏も覚えておらず、今考えても不思議だという。これまで16色以上のドット絵を描いたことがなかったので、苦労したとのこと。
実はGR3 PROJECT時代は、ゲーム制作の会議はすべてチャットで行われており、これまで三人は実際に顔を合わせて会ったことがなかった。これから商売するのに顔を合わせていないのは流石にまずいと思い、楢村氏の地元に全員集まって、Flashゲームのアイディアを出し合ったようだ。

楢村匠氏。Flashのアイディアは学生時代のノートが再利用されたという。

『LA-MULANA』誕生秘話

Flashゲームの評判は上々で多くのファンを獲得したが、NIGOROは『LA-MULANA』リメイクで世界から注目を浴びることになる。ここで時間を戻してGR3 PROJECT時代のオリジナル『LA-MULANA』について振り返ってみよう。

『LA-MULANA』年評

もともと『GR3』を作ったあとに、二作目は何を作ろうと考えたとき、会議するまでもなくコナミの『魔城伝説II ガリウスの迷宮』(以下『ガリウスの迷宮』)みたいなものを作りたいと意見が一致したという。楢村氏いわく、当時、MSXが好きな人がトップ3に挙げるほどみんなが絶賛していたのが『ガリウスの迷宮』で、この種類のアクションゲームでは一番完成度が高かったとのこと。広大な城を探索する上でボスが10体存在し、かつそのボスごとに趣向が違っていた。ステージは一応はプレイヤーを誘導する作りではあるが、誘導を無視できる自由度の高さに魅かれたという。

楢村氏いわく、海外の人からはよく『LA-MULANA』は『メトロイド』と『ゼルダの伝説』から影響を受けたのだろうと指摘されることが多いが、実際は楢村氏はファミコンをもっていないがゆえにどっちもやったことがなかった。たとえば『ゼルダの伝説』は攻略に必要なアイテムや武器がそのダンジョンにあることが多い。しかし『ゼルダの伝説』をやっていなかっため、謎解きの近くにヒントを出すという、スタンダードなゲームデザインを知らなかったので、謎とヒントの距離が遠く散らばったものとなった。そもそも楢村氏からすると、ヒントを継ぎ接ぎが合わさっていくのが楽しいと考えたため、『LA-MULANA』の謎とヒントが離れている独自性が生まれていった。

オリジナル版『LA-MULANA』に関しては、さまざまな点で『ガリウスの迷宮』をオマージュしているという。たとえば『ガリウスの迷宮』では1ブロック分上で横ボタンを押すとハシゴを降りれる点や、ジャンプボタンを1フレーム内でボタンを離すと、ジャンプせずにジャンプをする挙動だけ行う。そんな細かいところまでも『LA-MULANA』では再現されている。

鮫島朋龍氏、蛯原隆行氏、イベント終盤から登壇した中川啓己氏。

迷宮の作り方に関しては、duplex氏から楢村氏にアドバイスをしたという。体験版『LA-MULANA』の前に存在した暫定版『LA-MULANA』は、非常にマップがシンプルだった。『ガリウスの迷宮』よりもコナミの『キャベッチパッチキッズ』を思わせるようなシンプルな構造で、敵がいないとゲームを始めて、5分でボスが辿り着けてしまうくらいの単純な迷宮だったようだ。
そこで参考にしたのは、やはり『ガリウスの迷宮』である。たとえば『ガリウスの迷宮』では画面上部でジャンプした場合、そこに天井がなかったとしても、上の画面にジャンプで行けるわけではなかった。そのルールがあるため、もし下の画面に落ちてしまったら、すぐには上の画面に戻ることができない構造だった。そういった遠回りして辿り着く迷宮の構造や、画面の密度に関しては、duplex氏からのアドバイスによってダンジョンが構築されていった。

『LA-MULANA』というタイトルに関しては、なかなかいいのが思いつかなかったが、楢村氏が当時観ていたアニメで、設定にスタッフの名前を反転させたものを使っていたケースがあったという。その話をduplex氏にチャットで相談してみると、「じゃあ、楢村を逆さ読みして、『悪魔窟LA-MULANA』でいいじゃん」と提案された。その流れで、duplex氏の逆さ読みでゼレプド長老、サミエル氏の逆さ読みで主人公のルエミーザ・小杉が誕生した。

『LA-MULANA』の公式グッズでは昭和の説明書や攻略本を再現しようと、ページはよれていたり、ブラウン管で撮ったゲーム画面を載せたり、こだわりを見せた。ネットの好評サイトやwikiがデータ集になっているため、そうじゃない当時のわくわく感を再現しようとしたとのこと。

 

『LA-MULANA 2』

本編のゲームから攻略本までこだわり抜いた『LA-MULANA』だった。そして2014年のKickstarterのキャンペーンを経て、続編『LA-MULANA 2』の開発が進められた。ここでワンダースワンのゲームにも関わっていたゲームクリエイターの中川啓己氏が、NIGOROの新メンバーとして加入したと発表し、イベントにも登壇。一方で、duplex氏は今後ともNIGOROとは関わっていくが、仕事の事情でフルタイムで関わることが難しくなったという。

『LA-MULANA 2』では、前作の主人公であるルエミーザ・小杉は、遺跡を破壊したために行方をくらましている。そこでルエミーザ・小杉の娘であるルミッサ・小杉が新たな主人公として、今度は「イグ・ラーナ遺跡」に挑戦する。

前作のラ・ムラーナ遺跡は観光遺跡化しており、遺跡のなかはしっかりと蛍光灯がついていて、足場が補強され、前作ではヒントだったものが、観光地の案内板になっていたり、遺跡の奥にあった石像が元の場所から移動して展示されている。これによって村にはお金が潤い、城を思わせるような豪邸に長老は住んでいたり、賢者がデジカメをもって現代人になっていたりと、まるで前作『LA-MULANA』をパロディにしているかのような、批評性をもった続編のアプローチになっているのが面白い。

前作『LA-MULANA』のエンジンの段階から、光をキャラに当てて壁に影が出ないかという実験をしていたとのことだが、本作でも2Dグラフィックに光の演出を取り入れたかったという。Unityという3Dのエンジンを使って、2Dのゲームを作るからこそ、光の表現に打ってつけなのだとか。楢村氏いわく、海外では『Hyper Light Drifter』などドット絵ながら、グラデーションのような光のフィルターがかかっており、ドット絵の表現が次の進化を提示されており、『LA-MULANA 2』でも光の表現にこだわりたかったという。ただし『LA-MULANA 2』は舞台が洞窟なので、朝日と夕日といった逆光は不可能。手を変え品を変えアイディアを捻りだして演出を実現したようだ。

また前作でもあったハードモードだが、本作でも健在。アルゴリズムが変わるだけではなく、敵キャラが増え、ボスの攻撃手段が変化するという。これはサミエル氏いわく『魂斗羅スピリッツ』で難易度によって敵が撃つ弾がビームになっていることに驚いたとのことで、あの体験をプレイヤーにも味わって欲しかったから取り入れたのだという。またボスがそれぞれ個別に音楽が違う理由は、『サークI』を挙げていた。楢村氏は『ロマンシング・サガ2』の七英雄の要素が今回は存在すると言及し、これはボスを倒す順番の自由度はあるが、最初のボスを後回しにすると、そのボスはプレイヤーに合わせて強くなっている仕様にしたとのことだ。

話は尽きないが、イベントの最後では『LA-MULANA 2』の出来たばかりのトレーラーが流され、発売日が7月31日と告知されており、現在ではすでにリリース済み。8月5日時点で、Steamでは「非常に好評」の評価をプレイヤーから得ている。

イベントを通して筆者が抱いた感想は、メジャーに比べてインディーシーンでは開発者が他のゲームのリスペクトを隠さないことだ。MSXから始まり、『ハイドライド』『グラディウス』『キャベッチパッチキッズ』『魂斗羅スピリッツ』『サークI』『ロマンシング・サガ2』、そして『魔城伝説II ガリウスの迷宮』、こういったハードや会社の垣根を越えた発言はなかなかメジャーシーンでは知的財産権もあり、保守的になってしまう。もちろんメジャーでもそういった他社や既存のゲームに言及する価値観は少しづつ出てはいるが、海外やインディーほど、ここまで開けっ広げに語れる土壌ができるまではまだ遠い。しかし、ゲームクリエイターが会社や個人を超えて、既存のゲームに言及することによって、新しい文脈と価値観が生まれることによって、ゲーム文化がより成熟に向かうことだろう。今回は、そのようなゲームファン目線のトークイベントを間近で体感することができた。

最後に、楢村氏とサミエル氏から、まだまだ『LA-MULANA 2』をアップグレードをしていくという抱負が語られた。『LA-MULANA 2』は4年の開発期間を経ても、いわば暫定版であり、これからもプレイヤーに新たな挑戦状を叩き付けて、楽しませてくれるに違いない。

Koji Fukuyama
Koji Fukuyama

小学2年生のときに、『ドラゴンクエスト5』に出会い、「ゲームは、ゲーム独自の手法を使って人間のドラマや物語を伝えることができる」ということに衝撃を受けました。そこから一貫して、ストーリーメディアとしてのゲームに注目しています。

同時に中学生から映画を浴びるように見始め、西部劇やホラー、SF映画など、アメリカの古典的なジャンル映画をとくに偏愛しています。

オールタイムベストゲームは『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』。このゲームで感じた面白さや感動を再び体験するために、ずっとゲームを続けています。

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