『ポケモン』が「みんなのもの」になる日。『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』発表会から見るポケモンの次の一手

本日5月30日、『ポケットモンスター』シリーズのNintendo Switch向け最新作が発表された。 タイトル名は『ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・Let's Go! イーブイ』。『ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・Let's Go! イーブイ』がどのような方向を目指しているかを、取材を通じてあらためて考えてみよう。

本日2018年5月30日、『ポケットモンスター』シリーズの発表会が行われ、Nintendo Switch向けのシリーズ最新作が発表された。 タイトル名は『ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』。本作はかつてのカントー地方を描きなおした作品であり、モンスターボール型の連動コントローラー「モンスターボール Plus」や、『Pokémon GO』との連動要素がかなり大きな目玉になっている(詳細は速報記事を参照)。今回は会場に足を運び、発表内容をこの目と耳でしっかりと吟味してきた。その上で、筆者の目に映る『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』の内容をお伝えしたい。

唐突な質問になるが、あなたは『ポケットモンスター』シリーズが誰のためにあるのかと考えたことはあるだろうか?幼少期に親しんで経験にちなんで、 おそらく「子供のため」と答える人が多いのではないだろうか。そういった答えは決して間違いではないものの、その考え方は時代が進むにつれて古くなってきているかもしれない。

この発表会で 『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』のディレクターを担当しているゲームフリークの増田順一氏が語っていたように、ポケモンというものは「みんなのもの」になりつつある。より正確に言うならば、株式会社ポケモンおよびゲームフリークがそういう世界を目指していると書くべきだろう。

 

近年のポケモンは、特にどんな人を呼び寄せようとしていたか?

左からピカチュウ、野村達雄氏(Niantic, Inc. 『Pokémon GO』ゲームディレクター/シニアプロダクトマネジャー)、石原恒和氏(株式会社ポケモン 代表取締役社長)、増田順一氏(株式会社ポケモン 取締役 開発本部長)、高橋伸也氏(任天堂 取締役 常務執行役員 企画制作本部長)、イーブイ

そもそも『ポケットモンスター』シリーズは数年前から新規ファンの獲得に力を入れており、シリーズ本編においては初代となる『ポケットモンスター 赤・緑』に関するオマージュを多用している。

2013年に発売された『ポケットモンスター X・Y』では、最初にパートナーとなる御三家と呼ばれる3体の新ポケモンに続き、ヒトカゲ・ゼニガメ・フシギダネといったおなじみの存在がパートナーになるほか、それらポケモンは当時の新要素だったメガシンカに大きく絡むことになる。懐かしいポケモンたちともう一度冒険できるだけでなく、彼らの新たな姿を見ることもできるのだ。

そして、2016年の『ポケットモンスター サン・ムーン』では、かつて初代にいたポケモンたちが「アローラのすがた」という新たな装いをもって登場する。この作品の舞台はアローラ地方という暑い場所なので、そこに住むポケモンたちも生体が少し異なるわけだ。懐かしい存在ではあるが、これまでの作品での形態や性質とは異なる新しい存在になっており、旧作ファンの目を引くことになる。

そもそも『Pokémon GO』も配信当初はカントー地方のポケモンのみだったわけで、ここ数年のポケモンは懐かしさを特に推していたのである。つまるところ過去作のオマージュを用いることで一度離れたプレイヤーを呼び戻そうとしており、その目論見は成功したと言っていいだろう。

しかしおもしろいことに、『Pokémon GO』は50代以上のかつてポケモントレーナーでなかった人からも支持を得ているという話も聞く。このゲームは確かにポケモンに関連しているが、RPGとして展開されているシリーズ本編とは別ジャンルである位置情報ゲームとしても人気を集めているわけで、となれば株式会社ポケモン側からすればこの市場を開拓しないわけにはいかないだろう。

 

ポケモンの世界へ入ることを迷っている人の背中を押すゲームシステム

とはいえ、『Pokémon GO』を遊んでいる年配の方が、わざわざNintendo Switchを購入して新作を遊ぶのだろうかと懐疑的になる人もいるだろうし、実際のところゲームフリークもそう簡単に遊んでもらえるとは思っていないのだろう。

だからこそ『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』にはシリーズにとって異例の要素が盛り込まれている。まずは、これまでシリーズには必ずあった野生のポケモンとのバトルの廃止だ。この作品における野生のポケモンは、Joy-Conあるいはモンスターボール Plusを振って捕まえるだけという至極シンプルな作りになっている。もともとのシリーズを考えると驚くほど簡素になっており、『Pokémon GO』から入った人の心象を優先しているのだろう。

当然ながらこの変更を悲しむ従来のファンもいるだろうが、野生ポケモンとの遭遇はゴールドスプレーを使ってとにかく避けていたトレーナーも間違いなくいるので、野生ポケモンとのバトルがなくなったことは必ずしも悪いことではない。

そして異例なのがマルチプレイである。これまで対戦や協力を中心にマルチプレイが一切なかったわけではないのだが、一緒にポケモンを捕まえたり、ストーリー上においてトレーナーとのバトルといったプレイを同時に体験できるというのは、同作が初であると明言されている。家族や友人が遊んでいるところに「ちょっとやってみていい?」と参加できるというこれらのシステムのおかげで、本作は遊んでみるためのハードルがとても低いのである。これまでのシリーズならば、通信や対戦を楽しむまである程度はひとりでゲームを進めねばならなくなったのだが、それすら変えようというわけだ。

何よりわかりやすいのは『Pokémon GO』からポケモンを転送できるというシステムだろう。これならば基本プレイ無料のモバイルアプリ『Pokémon GO』しか遊んでいなくても、『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』を遊んでいる人と関わることができるのだ。おじいちゃんが孫のためにポケモンを捕まえてきてあげるなんて光景も、冗談ではなく本当に起こりうるだろう。ポケモンが世代を超えた共通言語になるだけでなく、一緒に遊ぶ体験すら与えるのだ。

 

「みんな」の中にはこれまでのファンも含まれる

こうして書いていくと新規向けの要素が多いように見える『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』だが、当然のようにこれまでのシリーズを熱心に追いかけてきたファン向けの要素も多く存在している。ハードがNintendo Switchに変わったことにより描写もより綺麗になっているし、何より今まで実現しなかったことができるようになった。

ひとつめは、ポケモンのきせかえ機能が用意されていること。公開されたPVではピカチュウとイーブイがさまざまな帽子や服を身に着けており、おしゃれを楽しんでいるのだ。これまでそれぞれのトレーナーが、一緒にいるポケモンたちを差別化するのは難しかったのだが、きせかえにより「自分だけのポケモン」が実現しうるだろう。これは筆者を含めたファンにとって感涙ものである。

 

そして、ポケモンの「つれあるき」要素が復活している点。これまでのシリーズでこの要素はいくつか実装されていたが(最後に登場したのは2009年の『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』)、開発者目線で考えると、実装するのが恐ろしくたいへんな要素だ。単純にポケモンは数が多いのでそれぞれの専用グラフィックを用意するのが手間だし、ポケモンの種類ごとのサイズの調整や歩き方などを考えると途方もない。しかし、シリーズを遊んだことのあるファンにとっては本当に復活してもらいたい大きな要素だった。この要素の有無により、ポケモンへの愛着が大きく変化するからだ。

ポケモンそれぞれのつれあるき用グラフィックが用意されたからか、本作はシリーズとしては珍しくシンボルエンカウントが中心となっている。ランダムエンカウントだとポケモンがその環境で具体的にどんな生活しているかわかりにくかったわけだが、本作ではそこも進歩しているというわけだ。ますますポケモンが生物として生活していることに、説得力が出てくるだろう。

ちなみに、モンスターボール Plusは単なるコントローラーではなく、ポケモンたちをゲームから移動させて外に連れて行くこともできるそうだ。これは「ポケットピカチュウ」あるいは「ポケウォーカー」といった、ファンなら知っているかつての要素を引き継いでいるのだろう。しかもPokémon GO Plusとしても利用できるそうなので、『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』のプレイヤーを『Pokémon GO』に呼び寄せることもできるわけである。

なお質疑応答で明らかになったのだが、今回ピカチュウの対にイーブイが選ばれたのはファンからの支持が厚いからだそうだ。イーブイは確かにかわいらしいポケモンとして人気はあったが、こうしてタイトルの主役になることはまずなかった。しかし開発陣がファンの熱気に影響を受けたそうで、ポケモンというシリーズがファンと彼らの声を大事にしていることがよくわかるだろう。

 

ポケモンがすべての人のそばにいる時代へ

このように、ここ最近のポケモン関連の動きを見ているとファン層を厚くしようという意図が見られる。ゲーム以外ではグッズ展開も多種多様だし、人間とポケモンが同じ環境で共同生活をおくっているという特殊な世界観が特徴の『名探偵ピカチュウ』はハリウッドで映画化までされる予定だ。

そして子供はもちろん、その親や祖父母をも対象とした『Pokémon GO』に、それと連動する 『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』……。ポケモンに少しでも興味がある人を、ポケモンの世界へと呼び寄せようという意図をありありと感じるうえ、しかも従来のファンを喜ばせることも忘れていない。

もし『ポケモン Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』が大きく成功し、ここからポケモンにハマるシニア層も増え、2019年に発売される新作をも遊ぶようになったら──。それこそ本当に、ポケモンが子供だけのものではなくなる時代が来るだろう。株式会社ポケモンの目指す先はもしかしたら、そういうものなのかもしれない。

Takuya Watanabe
Takuya Watanabe

マリオの乳で育った男と自称しているゲームライター。好きなキャラクターはカービィとしずえ。なぜか名人と呼ばれることもある。

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