『Virginia』田舎町の失踪事件を描くミステリーアドベンチャーの快作がリリース、日本語字幕も収録

 

505 Gamesは、一人称視点のミステリーアドベンチャーゲーム『Virginia』をリリースした。対象プラットフォームはPC/MacおよびPS4/Xbox Oneで、PC/Mac版はSteamにて販売中。開発はイギリスのインディーデベロッパーVariable Stateが担当している。すでにPolygonVideogamerEurogamerなど海外の主要ゲームメディアでは、高評価のレビューが続いているようだ。

 

『ツイン・ピークス』にインスパイアされた世界観

プレイヤーは新人FBIエージェントのアン・ターヴァーとなり、1992年米国バージニア州にある田舎町キングダムを舞台に、とある失踪事件の捜査にあたる。経験豊富なベテラン捜査官マリア・ハルペリンとタッグを組みつつも、秘密裏に局長からマリアの内部捜査依頼を受けているアン。冒頭こそ推理小説でいう「フーダニット(犯人は誰か)」としてはじまるが、そこから物語は二人の捜査官に焦点を置いた、パーソナルで、予想外の方向に進んでいく。

ストーリー自体は一本道だが、アパートのドアを開けると突然タクシー内にシーンが切り替わったり、警察署の廊下を歩いているかと思えば失踪者の家にいたりと、目まぐるしく映像が移り変わる。さらには主人公アンの無意識や回想が合わさり、時系列や現実感を失いながら、パズルのピースを埋めるようにバラバラの情報をひとつにあわせていく。どこまでが現実で、どこまでが夢の世界なのか、線引きが曖昧になっていく様は「ツイン・ピークス」のデヴィッド・リンチ監督の作品を彷彿とさせる。

主人公アン。「ツイン・ピークス」のFBI捜査官が白人男性ばかりだったのに対し、本作の主要キャラ二人は黒人女性
主人公アン。「ツイン・ピークス」のFBI捜査官が白人男性ばかりだったのに対し、本作の主要キャラ二人は黒人女性

田舎町を舞台にし、日常の中にひそむ闇をあつかう点にも「ツイン・ピークス」の影響が見られる。赤いコウカンチョウ、暗室、夢に現れるバイソンなど、リンチ作品のようなシンボリズムもふんだんに使われている。抽象的な作風のリンチ監督を引き合いに出すと、難解そうで近寄りがたく思うかもしれないが、重要なヒントを見逃さないようゲーム側がプレイヤーを導いてくれるのでご安心を。

また、シーンが次々と変わる中、オーケストラを導入したサスペンス映画調の音楽が、物語に強弱をつける役目を果たしている。コンポーザーLyndon Holland氏によるサウンドトラックは圧巻で、近年のミステリーアドベンチャー作品の中でも最高峰だろう。

 

『Thirty Flights of Loving』から受け継いだ映像手法とストーリーテリング

ビジュアルや世界観のインスピレーションは「ツイン・ピークス」「X-ファイル」といった90年代海外ドラマからきているが、映像手法については、ゲームデベロッパーBrendon Chung氏の『Thirty Flights of Loving』に強く影響を受けており、スタッフロールの中でも当作品にインスパイアされたと記載されている。『Thirty Flights of Loving』は、とあるスパイの逃走劇を映画のようなカメラワークとカット割りにより描いた、一人称視点の短編アドベンチャーゲーム。夢と現実が絶えず入れ替わり、次々とシーンが切り替わっていく『Virginia』の映像手法はこの作品から着想を得ている。

virginia-002
夢か現実か

また、Brendon Chung氏は言語に頼らないストーリーテリングを目指しており、こちらも『Virginia』に影響している。そう、『Virginia』にはキャラクター間の会話がなく、些細な仕草や表情の変化、そしてキャラクターたちが身を置く環境の小さなディテールといった非言語的な要素だけで、複雑な感情や関係性の変化を描いているのだ。カートゥーン調のビジュアルだからといってあなどってはいけない。

カートゥーン調でも表情豊か
カートゥーン調でも表情豊か

 

トレンドの真逆を突き進む

一人称アドベンチャーゲームにおけるストーリーテリングの常識を覆した『Thirty Flights of Loving』。そしてその血を受け継いだ『Virginia』。オーディオログ、テキスト、会話、独白などの言語表現により多角的な物語を構築した『Gone Home』『Dear Esther』『Firewatch』とはジャンルが同じでも毛色が違う。トレンドの真逆を突っ走っているといえるだろう。

およそ3時間のゲームにも関わらず、友情、忠誠心、裏切り、アイデンティティといった数多くのテーマを扱っている。また、同じく言葉に頼らない物語を展開した『Inside』のように、プレイヤーによってさまざまな解釈ができる作品となっている。

ウォーキングシミュレーターと揶揄されることも多いミステリーアドベンチャーゲーム。本作はそんなジャンルの新しい一歩として、広くインタラクティブなストーリーテリングを愛するゲーマーにオススメしたい作品だ。本作には日本語字幕も用意されているので安心してプレイできる。Steam上の販売価格は980円、9月30日まで期間限定で10%割引中だ。