Valveは11月16日、『Half-Life 2』の発売20周年を記念したドキュメンタリー映像を公開。同社社長のGabe Newell氏をはじめとする関係者が出演し、本作の開発当時のエピソードが語られた。この中ではゲーム開発面以外に、当時抱えていた訴訟についても言及。同訴訟によりValveは倒産の危機にあったが、1人のインターンによって救われたという裏話が今回初めて公にされ、ファンの注目が集まっているようだ。
問題の訴訟は、ValveとVivendi Universal Games(当時・以下、Vivendi)の間で2002年から2005年にかけて争われたもの。Vivendiは、傘下パブリッシャーのSierra Entertainment(以下、Sierra)が『Half-Life』シリーズなどのパッケージ版の販売元を務めており、Valveにとってのパートナーだった。そのSierraが『Counter-Strike』を世界中のインターネットカフェ向けに提供し、これを知ったValveが別途ライセンス契約が必要だと指摘したものの、新たな契約締結を拒否されたことから裁判に発展した。
ドキュメンタリー映像によると、同訴訟においてVivendi側は、Gabe Newell氏らValveの重役個人を相手取り、大量の反訴を展開したという。当時のValveはまだ小規模なスタジオで、一方のVivendiは資金豊富な多国籍大企業。また、取引を通じてValveがどれだけの収益を上げていたのかを把握していた。Vivendi側の戦略は、多額の訴訟費用によりValveおよびNewell氏らを破産に追い込んでゲームビジネスから追い出し、裁判の勝利につなげるものだったとのこと。
映像にてNewell氏は、法廷戦術ではなく脅迫のようなものだったと振り返っている。また、当時Valveおよび同氏自身は、実際破産寸前にまで追い込まれたという。そして裁判においてValveは、インターネットカフェ向けビジネスについての自社の正当性、およびライセンス契約なしでゲームを提供することは著作権侵害にあたることを裁判所に訴えることに。それにあたって、Sierraにアジア圏向けビジネスについての資料を請求した。すると、韓国語で書かれた膨大な資料が裁判所に提出されたそうだ。Newell氏は、Vivendi側は途方もない作業量の外国語の精査でValveに無駄骨を折らせ、さらに資金を費やさせようとしたのだろうと述べる。
ところが、その膨大な資料がValveにとって逆転の契機となった。当時Valveにはネイティブの韓国語話者だというインターンが在籍しており、資料の精査を依頼。するとその人物は、Sierraの重役らの電子メールでのやり取りを発見した。そこには、裁判でValve側に有利な証拠となる資料の破棄を指示され、そのとおり実行したことを伝える会話が記録されていたそうだ。Valve側の弁護士は前代未聞の内容だと驚いたそうで、一方のVivendi側の弁護士も真に受けなかったという。そしてValve側は、この電子メールを証拠として裁判を戦うことに決めたとのこと。
結果として、裁判ではValve側の訴えが認められ、2005年4月に両陣営は和解。SierraはValve作品のインターネットカフェ向けの提供を取りやめ、またパッケージ版の販売も終了することとなった。なお、この間にはSteamが正式にサービス開始され、2004年11月に『Half-Life 2』がリリースされた。
ドキュメンタリー映像にてNewell氏は、Vivendi側の訴訟戦略に対し、感情的になることも不安に駆られることもなく、ただ成り行きを見守る姿勢でいたそうで、風変わりな性格であると自らを分析している。また、経済的に苦しくなっていった当時、『Half-Life 2』の開発に影響を及ぼさないよう個人資産を投入し、自らの家を売りに出すことまで検討していたことも明かされている。
『Half-Life 2』は、PC(Steam)向けに配信中だ。発売20周年を記念して大型アップデートが先日配信され、続編である『Half-Life 2: Episode One』と『Half-Life 2: Episode Two』統合や、新たなグラフィック設定の導入、バグ修正なども実施されている。