1945年、第二次世界大戦の終わりにベルリンの街は壊滅した。復讐に燃えるソビエト赤軍の熾烈な攻撃と昼夜止まぬ砲撃により、多くの建物が文字通り瓦礫と化したという。第二次世界大戦前のベルリンはもう二度と戻ってこないが、それを再建するプロジェクト「The 1920s Berlin Project」が3D仮想空間『Second Life』にて数年前から進行している。
米国の企業「Linden Lab」が開発・運営する『Second Life』は、ユーザーたちがアバターを通じて交流する3D仮想空間だ。仮想空間上で「第二の人生」を送ることができるという触れ込みで、2007年に国内でもニュース番組に取り上げられるなどし注目を浴びた。ユーザーが作ったデジタルコンテンツの売買や仮想空間上の土地をレンタルできるといった特徴があり、国内外の企業が参入したことでも話題となった。
しかし2008年に入ると国内では急速にブームが過ぎ去っている。Jo Yardley氏も2007年当時、話題になった『Second Life』に触れてみたものの、プレイするのをすぐ辞めようと考えていたユーザーの1人だ。2012年のブログへの投稿によると、当時はポルノ俳優みたいな悪趣味な服装の人たちが通りを歩き、彼らがなにかを延々とチャットしている『Second Life』に興味が湧かなかったという。しかしプレイするのを辞めようとした数分前、Yardley氏は小説シリーズ「Flashman」をテーマにした空間を見つけ、流れる古い曲やほかのユーザーとのなりきり会話に心奪われた。
正しく歩く方法すらわからなかった完全なる『Second Life』初心者Yardley氏は、ナチス党が台頭する前の「1920年代のベルリン」を再建しようと心に決める。小さな土地を借り、四苦八苦しながら街の開発をスタート。「1920年代のベルリン」という設定に周囲の人々は興味を示し、彼女が作った汚いアパートに現実のお金を払って住み、さまざまな方法で手助けした。
2009年に「The 1920s Berlin Project」はオープン。貸主が土地の提供を止めるといったトラブルも乗り越え、現在も情緒ある場所を提供し続けている。第二次世界大戦に破壊されたかつてのホテルアドロンや、当時のポスターや装飾品などが存在する。この街に参加する人たちにはドレスコードも敷かれており、雰囲気を壊さないような振る舞いを求められるという。町並みだけでなく、住んでいる人たちも当時の生活をロールプレイしているというわけだ。
MMO的な要素を持つビデオゲームやBethesda Softworksのオープンワールドゲームなどで、作品の世界観に沿ってプレイヤーたちがロールプレイする例は多くある。ただ「The 1920s Berlin Project」のように、ユーザーたち自身が世界観を構築し、さらに自治しながら住むというのは、『Second Life』ならではの展開といえるだろう。日本ではすでに過去のものとなりつつあるように感じる『Second Life』だが、世界各地では現在もユーザーたちが独自のコミュニティを築いており、グラフィックの進化と共に素晴らしい世界が構築されていることもある。