ゲームデザインのために 「難易度イージーモード」を搭載しなかったビデオゲーム


近年登場したほとんどのハイクオリティな3Dアクションゲームには、「難易度設定オプション」が搭載されている。ハードコアやインセインといった高難易度とともに、「物語を楽しみたいプレイヤー向け」のイージーが用意されていることは珍しくない。一方で、2014年に発売された大作『Middle-earth: Shadow of Mordor』は、ゲームデザインのためにあえてイージーモードを搭載しなかった作品だ。開発スタジオMonolith ProductionsのデザインディレクターMichael de Plater氏が、その理由を解説している。

 


イージーモードあればゲームは壊れる

 

『Shadow of Mordor』は、J・R・R・トールキン氏の長編小説「指輪物語」と、その一連のシリーズを題材とした3Dアクションゲームだ。家族を殺したサウロンへの復讐を誓ったレンジャー「タリオン」を主人公に、「ホビットの冒険」と「ロード・オブ・ザ・リング」のあいだをつなぐ物語が描かれている。『Batman: Arkham』シリーズ風のオープンワールド形式の作品であり、軽快かつ歯ごたえのあるアクションが魅力である。

海外メディアGame Spotのインタビューのなかで、Plater氏は「『Shadow of Mordor』にイージーモードを搭載することはできた。もしそうしていたら、ゲームは根本から破壊されていただろう」と語る。「考え込む必要がない、殺されることがない、敵のレベルアップがない、ゲームの世界が発展しない。そのようなタイプのハック&スラッシュにすれば、"ネメシスシステム"を体験することはできなかったはずだ」と続けている。

 

 

ネメシスシステムは『Shadow of Mordor』の根幹を成す要素だ。ゲーム中に登場するボス格のオークたちは、このシステムのもと自動生成されており、それぞれが独自の外見と個性、地位と派閥を有している。タリオンが狩りをしたり、奴隷たちを救っているあいだも、オークたちはAI操作で派閥抗争を繰り広げており、ゲーム内の勢力図はどんどん変化する。オークたちは敵対勢力やプレイヤーの分身であるタリオンを倒すことで、みずからの地位を昇格させ強大になってゆく。またタリオンと戦い、しぶとくも生き延びたオークは、好敵手として彼の顔を覚えたりもする。

タリオンは自身が持つ「幽鬼の力」によってオークの精神を支配し、軍団ごと指揮下に置くことができる。複数のオークを支配してターゲットへ一斉攻撃させたり、軍団長のオークを倒すために部下を裏切らせたり、様々な策略を仕掛けることができる。AIとプレイヤーの意思の交錯により、『Shadow of Mordor』では情勢が常に変動しているのだ。

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Plater氏は、実際に『Shadow of Mordor』にてイージーモードをテストしたことがあると明かしている。テスターの腕前が上達し、ゲームがほぼ簡単になってしまった状態では、ネメシスシステムの魅力をほとんど感じられなかったという。確かに、ネメシスシステムに不可欠なのは強敵だ。単身ではかなわない敵を倒そうとするからこそ、そこに因縁の好敵手とのドラマが生まれ、プレイヤー側が策略を練る必要性が出てくる。むしろPlater氏は、いくつかの面から見て、イージーモードよりもハードモードの方が『Shadow of Mordor』には必要だっただろうと語っている。

難易度設定が存在しないゲームなら、ここ近年では『Demon's Souls』や『Dark Souls』シリーズが挙げられる。プレイヤーを絶望させる高難易度のゲームデザインを尊重しようとする意図が読み取れる。とはいっても、全てのゲームが難易度設定を無くすべきではないだろう。『Halo』をノーマルでそれなりに苦労してから一度クリアしたあと、レジェンドで顔を苦痛に歪ませながら隠されたムービーやシーンを見るのは楽しいし、やりがいがある。難易度設定を用意すべきか、またゲームの難易度をどうするかは、ゲームデザインにあわせて考えなければならない。ゲームデザイナーにとっては、悩みの種の1つなのだろう。

今年9月に発売された『Middle-earth: Shadow of Mordor』は、北米欧州で高い評価を獲得した。Michael de Plater氏にインタビューをおこなったGame Spotは、2014年最高のゲームに選んでいる。年末最大のゲームイベントThe Game Awardsでは、惜しくも受賞とはならなかったものの、Game of the Yearにノミネートされた。また、『System Shock 2』や『BioShock』をデザインしたKen Levine氏は、同作の物語の表現手法を褒め称えている


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。