Kickstarterで資金集めたJRPG『Project Phoenix』の発売が2018年に延期、人材難とプロジェクト拡大で開発が停滞


『Project Phoenix』を手がけるCreative Intelligence Arts(以下、CIA)は、同作の発売が2018年まで延期することをKickstarterで報告した。当初の予定から約3年ずれ込むことになる。『Project Phoenix』は、2013年にKickstarterで約102万ドルのクラウンドファンディングを成功させた鳴り物入りの新規タイトルだ。本作はストラテジー要素をからませたJRPGを目指して開発されており、当初はPC/PlayStation VITA/PlayStation 4/モバイル向けに2015年中期の発売を予定していた。すでに2014年中期から延期を何度も発表し、そのつど謝罪を繰り返してきたが、今回は最低でもあと2年半もの開発期間が必要だということを正式にKickstarterで資金提供者に伝えることとなった。この発表による返金は受け付けていないという。

『Project Phoenix』は当初、数多くの有名なスタッフによって開発されるとアナウンスをしていた。プロデューサー兼ディレクターの由良浩明氏は幼いころから数々のコンクールで賞を取ってきたヴァイオリニストで、かつて『Diablo3』『戦場のヴァルキュリア』の録音監督を担当していた。シナリオは小説家の榎木洋子氏が担当しており、アートディレクターには『FINAL FANTASY XII』の開発にも関わっている新井清氏を起用。作曲家に植松伸夫氏を迎え、このほかにも国籍を問わないさまざまな個性溢れるスタッフで構成されている。

クラウンドファンディングの開始当初は3Dモデリングを開始するための10万ドルをゴールと決めていたが、瞬く間に金額が伸びていき、最終的に102万ドルに到達。この成果によってキャラクターやモンスターの数が当初の予定の倍になり、ワールドマップが作成され都市が3Dで描き起こされるなど、大規模なプロジェクトとしてゲームの開発が本格的に始まった。

開発が始まった頃はKickstarterの更新はほぼ毎週行われており、そのたびに新たな絵や小話が公開されファンの期待も膨らんでいた。2014年はコメント欄も終始温かい雰囲気に包まれていた。3月をさかいに更新ペースがゆるやかになり、CIAの更新担当だと思われるCronus氏は7月に「自分はアメリカで半年兵役についており、更新の頻度を落としてしまった、開発は順調だ」と突然の告白をした時も、「気にしないで!」といった好意的な反応に包まれていた。それからしばらくゲーム内容の紹介ではなく子どもの誕生やパーティーをしたといった個人的な和むような報告が続く。8月に発売予定を2016年Q3まで延期すると明かした時は支援者から不満のコメントが集まったが、その後しばらく映像を公開するなど更新が続き順調な様子を見せていた。

しかし当初の発売予定であった2015年に入ってもアルファ版の遅れや、具体的なゲームプレイの報告が見られない開発状況が続き、不穏な空気が生まれていく。そしてとうとう業を煮やしたのか、8月20日の開発の遅れを弁解する記事に対して支援者はコメントで怒りをぶつけ始めた。この批判を鎮静化させるかのように開発状況の細かい進捗が公開されたが、支援者の不満はなかなか収まらずKickstarterの更新があるたびに辛辣なコメントが寄せられるようになった。この開発状況の公開の時点であと2年以上開発に時間がかかると由良氏は述べていたが、それよりも更に長い2年半以上が必要だという結論に至ったようだ。

去年の12月にアップされた動画では開発の順調さが見て取れたが……。

Kickstarterでも言及はされていたが、日本人向けのブログ「Project Phoenix日本語速報」ではより詳しく内情が伝えられている。ゼネラルマネージャーであり由良浩明氏の妻でもある瑞希氏によると、『オリとくらやみの森』と並行してプロジェクトに関わっていたメインプログラマーDavid Clark氏が、そちらの開発が長引き『Project Phoenix』の開発にあまり参加できなくなってしまっていたようだ。また、プロジェクトから複数の離脱者が出ており、それらによって生まれる赤字を由良氏が補填していることなども明かしている。また氏が返金を考慮しないのは、返金をしてしまうとゲームを完成させることができないからだとも述べている

プロジェクトがスムーズに進行しているとは言いがたい現状があるのは事実だが、かといってKickstarterの経過を見ていてもCIAはクラウンドファンディングで手に入れたお金をむやみに浪費したり、あぐらをかいたりしているようには思えない。Kickstarterに寄せられる不満や怒りを抱えた支援者のコメントに対してひとつひとつ返答しているし、ある時はGoogle Hangoutによる公開チャットを実施し、さらにはE3のプライベートセッションでは支援者と対話する機会を設けるなど、少なくとも説明責任を果たす努力をしているように見える。今回のプロジェクトは、奥さんの瑞希氏が認めているように、由良氏にはゲーム開発の直接的な経験がなく不慣れな状態であるということ、当初は少人数のスタッフで開発するそれほど大きくないプロジェクトであったはずが予想以上の支援から規模の大きいプロジェクトへ発展してしまったこと、スタッフの入れ替わりがあり特にプログラマーを慢性的に欠いており足並みが揃いにくいことの3点が考えられるだろう。Kickstarterで目標金額を集める難しさは勿論、成功した後そのストレッチゴールをどう実現するかは、以前から指摘されていた課題だ。松野泰己氏が開発にかかわっている『Unsung Story』でも同様の課題を抱えていることが指摘されている

由良氏が導き出した2年半という期間は、メインプログラマーDavid Clark氏がフルタイムで開発に取り組んだとすれば達成できる年月であるようだ。Clark氏を補佐するプログラマーも加わっているようで、2年半よりも早い達成も考えられるとも述べている。現時点でシナリオや音楽、グラフィックといった部分は既に完成に近く、それらをゲームにどう落としこむかという段階のようで、近日中には植松伸夫氏のコメント動画をアップすると宣言している。2013年にKickstarterで輝かしい成功を収めた『Project Phoenix』は2015年、厳しい立場に置かれている。由良氏率いるCIAはこのプロジェクトを“不死鳥が如く”生き返らせられるのだろうか。