ピーターモリニューいわく「ゲーム業界よ、F2Pを愛せ」

基本無料プレイにて一定のプレイヤー層を確保し、収益はアイテム販売や有料メンバーシップなどで獲得していくビジネスモデル「Free-to-Play」。近年F2Pはモバイルやソーシャルゲームだけでなく、『League of Legends』や『Dota 2』に『Team Fortress 2』など、e-Sportsジャンルに属するハードコアな対戦ゲームでもよく見るようになった。いまだ買い切りのゲームを好むユーザーからはF2P、とくにPay-to-Win(P2W、勝利につながるような強力なコンテンツを有料で販売しているモデルを指す)に対する批判も多く見られるが、一方でPeter Molyneux(ピーター・モリニュー)氏はもっと開発者たちはF2Pゲームを開発すべきであると、自身の意見をGame Informerのインタビューにて語っている。

ピーター・モリニュー氏は『ポピュラス』や『Dungeon Keeper』、『Fable』などの有名タイトルを手がけてきたゲームデザイナーで、現在はスタジオ22Cansを設立しゲーム開発を続けている。今回のインタビューはElectronic ArtsがiOSとAndroid向けに2014年1月発売した新作『Dungeon Keeper』をきっかけとしたものだ。この新作『Dungeon Keeper』は『Clash of Clans』に類似している。ダンジョンを構築しはじめると、たとえば1マスを掘るのに1時間以上が必要であり、時間を短縮するにはゲーム内通貨のジェムを購入してインプをブーストさせなければならない。ようするに『Dungeon Keeper』の皮を被ったべつのなにかだった。原作ファンのダンジョンマスターたちは原作と似ても似つかぬこのゲームに怒り、こずるく有名タイトルの後釜を狙った同作としてIGNEurogamerは冷徹な評価を叩きつけた。シリーズの生みの親であったモリニュー氏すら「私は不意にこう言いたくなった、"こりゃ馬鹿げてる。私はダンジョンを作りたいんだ。掘削するブロックへ戻ってくるためにアラームを6日後にセットしたいわけじゃない"」と当時BBCにつたえていた

 

 

だが一方でモリニュー氏はF2P自体に悪を感じているわけではない。「もしもっと多くのデザイナーがFree-to-Playに参加すればよりよくなると思う」と語る。しかし現時点ではF2Pの開発に参加している"本物のゲームデザイナー"は多くないというのが彼の見解だ。

しかし現状では、Free-to-Playに参入している本物のゲームデザイナーは多くない。だからFree-to-Playはマッチ3ゲームやスロットやカジノの型で創られてしまうし、そういったゲームは身代金(大金)のためにFree-to-Playを採用しているんだ。私はFree-to-Playに挑戦するためあらゆる層のデザイナーを探しもとめており、われわれならFree-to-Playをすぐれたゲームにすることができるだろう。

むしろモリニュー氏は「Free-to-Playはゲーミングコミュニティにとって、もっともすばらしいことであるはずだ」とも伝える。逆に広報活動の人々がゲームを予約するように脅迫し、ゲームを一切プレイすることなく50ドルを支払うような予約販売を、ゲームを購入する上で"毒性の高い方法"だと主張する。初回生産限定版に予約限定版など、たしかにゲーム業界では特典が欲しいなら予約しろ、DLCが無料で欲しいなら予約しろと顧客に訴えかける(最近では「CEROレーティング」を国内予約特典とした『サイコブレイク』の例もあった)。

ゲーム業界はFree-to-Playを愛するべきだ。デザイナーたちがFree-to-Playゲームにさらに着手することをゲーマーたちは必要としているんだ。ただ、多くのゲーマーはF2Pゲームを創っている人に「それは本当のゲーム創りじゃない」と言うだろう。「お前の持っているゲームをいまからすべて焼いてやる」とか、「お前らは偽善者だ」とか言う人々に会ったことがある。実際に何度も殺害予告を受けた。だが筋が通っていないんだ。ゲーマーはフェアなFree-to-Playを求めているはずで、そしてフェアなFree-to-Playを創りだす唯一の方法は、もっと多くのデザイナーがF2Pを愛することだ。ゲーマーとして見るならば、『Call of Duty』はもしF2Pであったならもっといいゲームになったはずだとわれわれは思っている。

現在ピーターモリニュー氏は新作ゴッドゲーム『Godus』を早期アクセスにて従来通りの売り切りモデルにて販売している。だがその前には22Cansの第1弾タイトルとしてF2Pのモバイルゲーム『Curiosity』を実験的にリリースしていた。同作は多数の小型キューブから構成された1つの巨大立方体をユーザー全員で破壊し、最後の1つのキューブに到達した者だけが勝者となるゲームである。実は同作は勝者が『Godus』の神役になれるプロモーションゲームだったのだが、その事実が判明するまでゲーム内ではキューブを破壊するスピードがあがる50セントのつるはしが販売されていた。ちなみに5万ドルものダイヤモンドのつるはしも販売されていたが、これは高額アイテムを皮肉ったジョークとの見方が強い。

はたして氏の愛する"フェアなF2P"が世に広まるかは不明だが、Free-to-Playを採用したのゲーム自体は着実にゲーム業界に広がりつつある。

(画像出典: VG247

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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