『Overwatch』のアクセシビリティに脳性まひを患うファンから賞賛の声、障害に縛られないゲーム体験

Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)から先日リリースされた『Overwatch』が、脳性まひを患ったファンのゲーム体験を一変させたとして、海外フォーラムを中心に賞賛されている。

Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)から先日リリースされた『Overwatch』が、脳性まひを患ったファンのゲーム体験を一変させたとして、海外フォーラムを中心に賞賛されている。ゲーム本編が大いに評価されることは数あれど、オプションの内容が絶賛される例はそう多くないだろう。そんな中、細部までカスタマイズできる本作の操作設定が、一人のゲーマーの人生を変えた。

 

アクセシビリティに救われる全てのヒーロー体験

『Overwatch』をこよなく愛するZakさんは、生まれながらにして脳性まひを患っている。歩くことはおろか、手先の動きも制限される。しかし、そんな彼にとってゲームは人生を支え続けたかけがえのない趣味だという。初めてゲームを触ったのは3歳の時。嬉しい時も悲しい時も、彼のそばにはいつもゲームがあった。ありとあらゆるジャンルが好きで、最も親密な友人たちもゲームを通じて知り合ったのだとか。彼らにとって『Overwatch』もまた、共通の趣味である。Zakさんの恋人は本作の世界観が大好き。親友は「ロードホッグ」の「チェイン・フック」(フックを投げて命中した敵を近距離に引き寄せるアビリティ)が成功するたびにニヤニヤが止まらない。一方で、Zakさん本人が最も気に入っているのは、本作のオプションメニューだという。

身体が不自由なZakさんは、片方の手につき1つのアクションしか入力できない。つまり、コントローラーでの操作を例に挙げると、両手を用いても最大で2つのボタンしか同時に入力できないことになる。そのせいで、どんなゲームを遊ぶにしても、特定のプレイスタイルやキャラクターでしか操作できないのが悩みの種だという。FPSでは、攻撃する際に右手親指でエイム操作をしながら、人差し指でトリガーを引かなければいけない。精密な射撃には素早く正確な入力が求められる。それがかなわないZakさんには、ショットガンのような細かいエイムを必要としない武器しか選択肢がない。ボタンの同時押しを多用する格闘ゲームにいたっては、もはや論外であると彼は述べる。

スナイパーの一人「ウィドウメイカー」
スナイパーの一人「ウィドウメイカー」

しかし、『Overwatch』のオプションメニューが、彼の人生を変えた。本作の操作設定は非常に細かくカスタマイズできるようにデザインされており、あらゆるプレイ環境に合わせて臨機応変に対応できる。たとえば、Zakさんの場合、エイムと攻撃を片手で同時に入力できないのならば、エイム動作を切り替え式に変更し、攻撃ボタンを左のアナログスティックに割り振ればいい。左スティックでキャラクターを移動させながら、右手親指でエイミング。そのまま左親指を押し込めば攻撃できる寸法だ。これにより、Zakさんはゲーム人生で初めて、それまでは絶対に不可能だったスナイパーキャラクターでのヘッドショットも達成できたのだという。その感覚は一際新鮮なものだったに違いない。

Zakさんは、この感動をフォーラムサイトRedditでシェアするとともに、『Overwatch』のアクセシビリティに注力したBlizzardに対して、心から感謝の気持ちを述べている。「とにかくBlizzardにお礼が言いたかった。Overwatchの操作設定を徹底的にカスタマイズできるようにしてくれて。それが開発の意図したことだったのかは分からないけれど、広範囲にわたるオプションのおかげで現存する全てのキャラクターを楽しめる。それって最高の気分なんだ。あなたのおかげで、今あるゲームで初めて狙撃を体験できた。ありがとう、Blizzard。永遠のファン、Zak」。Blizzardには、コミュニティ内の全てのユーザーに力強いヒロイズムを味あわせたいという想いがある。操作設定の多様性に関しても、その理念が反映されているのではないだろうか。

なお、こうしたアクセシビリティへの配慮は、Blizzardに始まったことではない。先日にも、『Uncharted 4: A Thief’s End』の開発に際して、身体の一部に障害を抱えるファンの要望を、Naughty Dogが全面的に取り入れた功績が報じられていた。また、2015年1月には、障害者支援を目的とするAbleGamers財団が、前年にリリースされたゲームの中で最もユニバーサルデザインに秀でた作品として、『ベヨネッタ2』を選出したこともある。主な選出理由として、タッチスクリーンやコントローラーを組み合わせて遊べる幅広い操作設定が高く評価されていた。加えて、色覚異常に悩むユーザーへ配慮した字幕やグラフィックデザインも、受賞理由の一つとして挙げられた。

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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