フロリダ州の教員、授業用に開発したゲームで生徒の成績を引き上げる。「破壊された未来のアメリカ」を舞台に公民を学ぶ

アメリカ・フロリダ州の女性教員Elizabeth Box氏は、授業に導入するゲームを開発した。授業が始まると生徒は、ノートや教科書がわりにChromebookを開き、先生から与えられた“個人クエスト”をスタートさせるという。

アメリカのフロリダ州オキーチョビーにあるYearling Middle Schoolで教鞭をとる公民科の女性教員Elizabeth Box氏は頭を悩ませていた。フロリダ州は5年前まで、Education Weekが発表した“学校教育システムランキング”で上位にランクインしていたが、2014年度では28位まで落ちてしまっている。Box氏の持つ7年生(日本での中学一年生相当)のクラスも、近年こういった傾向の例外ではなく、子どもの勉学への意識の低さを危惧している。

“生徒たちは成績が落ちても気にしません。そこで親御さんを呼ぶんですが、彼らも子どもの成績を気にしないんです。でも私は教員ですから、何かしなければいけません。しかし、何をやってもうまくいきませんでした。”

Box氏は知恵を求めてインターネットを探しまわった。そして教育系SNSサイトSchoologyのなかで、生徒がアクティブになる手法など教育に関わる知識を学ぶ。最終的にたどり着いたのはビデオゲームの導入であったようだ。その内容をVentureBeatが伝えている

授業時間中であるにもかかわらず、Box氏は生徒の前でレクチャーをしない。生徒はクラスに来ると、まずノートや教科書ではなくChromebookを開いてゲームを起動し、Box氏から与えられたゲーム内の“個人クエスト”を始める。このなんとも大胆な教育の手法変更が良い結果をもたらしているという。実際の生徒の課題達成率は30%から100%まで上昇しているとBox氏は話す。クラスの誰もが学校が終わった後も“個人クエスト”に没頭し、落第者が多かったクラスのすべての生徒がBox氏の公民科の授業を合格したようだ。

 

教員自身が開発したゲーム

Box氏は今年の夏の時間をまるまる費やして授業に導入するゲームを開発した。舞台は「破壊された未来のアメリカ」だ。生徒はこの破壊されたアメリカを元通りに戻すことがミッションとなる。アメリカを元通りにする作業は、公民科の知識と密接に関係しているのだとBox氏は語る。実際にこのゲームには公民科のカリキュラムが含まれた設計になっている。このゲームを開発するにおいて、Box氏はSchoologyで学んだLMS(Learning Management System)を意識したようだ。LMSとは学習教材や成績を統合する学習管理システム。ただゲームをさせて公民を勉強させるだけでなく、ゲーム中の記録もまた成績や個人の特色として記録し続けたというわけだ。こういったBox氏の成果はSchoologyでも報告されている

画像出典: VentureBeat どのようなジャンルのゲームかははっきりとしないが、アドベンチャーゲームのように見える。
画像出典: VentureBeat
どのようなジャンルのゲームかははっきりとしないが、アドベンチャーゲームのように見える。

そういう理由から、Box氏の授業での仕事は生徒に勉強を教えることよりも、生徒のゲームの手伝いをすることがメインとなった。生徒が詰まってしまった時は新たなアドバイスを与え、時には新たなクエストを作り出し、かつゲームをしている感覚を崩さないように気をつけたという。それゆえに生徒はBox氏が画面を覗き込む時、授業であることを忘れ少し緊張を見せるという。ゲームをプレイさせるという手法を取り入れてから、Box氏は生徒の前に立つことがなくなり、生徒が困った時に指示を送るのみとなったようだ。

“私の授業を見に来る教員の多くが、何をしているのか理解するのに苦しむようです。そして古い慣習を重視するゆえに、理解するのをやめることもあります。しかしそれでも、私は生徒にレクチャーは与えません。生徒が課題に集中できるこのやり方は、従来のやり方よりもはるかに効果があるように思うんです。”

以前までは成績を気にしなかった生徒たちは、むしろより成績を争うことを好むようになり、Box氏も生徒から感謝されるようになったという。ゲームに真剣になればなるほど、博識になっていき、自己肯定感も得られ、人間としてもいきいきとした様相に変化していったようだ。教員にとってF(落第)をつけることは生徒自身の自信を喪失させてモチベーションを下げることにつながるので、生徒誰もが「自分は賢いんだ」と思える感覚を大事にしていきたいと話している。

型破りな手法に異論はあれど、課題達成率を100%に引き上げたことに対してはアメリカの多くの人々が目を見張った。このサクセスストーリーは瞬く間に広がり、早速近隣の学校は同じ手法を導入し始めたようだ。Box氏は、「世界はこの数十年で様変わりしているのに、教育のやり方が同じであること、教員が“知識の伝達者”のみに収まっていることに疑問を持っている」と話している。

 

広まるビデオゲーム学習

最近ではゲームが教育に導入されるというケースは少なくない。国内でも『Minecraft』が教材として用いられ効果も期待できるというニュース報じられたのは記憶に新しい。Microsoftは既に教育用『Minecraft』を開発していることを公表している。Electronic Artsもまた社会の仕組みを学ぶために教育用SimCity『SimCityEDU』を開発している。ノルウェーではなんとTelltale Gameが開発したアドベンチャーゲーム『The Walking Dead』が倫理や道徳の授業で使われているようだ。

教育現場にゲームが採用されることは年々多くなってきているが、今回のように教員自身がゲームを設計し、成果を報告するケースは珍しい。個人規模でもゲーム開発ができるようになっている近年では、このような事例はさらに増えていくかもしれない。

Ayuo Kawase
Ayuo Kawase

国内外全般ニュースを担当。コミュニティが好きです。コミュニティが生み出す文化はもっと好きです。AUTOMATON編集長(Editor-in-chief)

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