今年の9月、株式会社ポケモンの新事業戦略発表会の中で発表された『Pokémon Go』。『Ingress』の開発元であるNiantic, Inc.、株式会社ポケモン、任天堂の3社により始まった合同プロジェクトはまたたく間に全世界のニュースとなった。特に衝撃的だったのが、その映像だ。現実にポケモンが存在するかのような演出からはポケモンの、そしてゲームの新たなる未来を予感させた。その『Pokémon GO』を開発するNianticのCEOであるJohn Hanke氏とマーケティング部長のMike Quigley氏がVentureBeatに対し誕生秘話や開発のポイントなどを明かしている。
大部分は石原社長のおかげ
John Hanke氏はまず、株式会社ポケモンとの出会いについて語った。株式会社ポケモンとコラボレーションすることになったのは”大部分が石原社長のおかげ”だとHanke氏は語る。株式会社ポケモンの石原恒和社長は古くから「ポケモンカード」やアニメ版「ポケモン」をめぐってアメリカの会社とパートナーシップを結んでいた。石原氏はアメリカの業界にパイプを持っており、そのパイプからHanke氏は石原氏と出会ったと明かしている。
欧米企業と日本企業がビデオゲーム開発という分野でコラボレーションすることは、あまり例がない。この異例のコラボレーションを生み出したのは、以前から北米市場の開拓に腐心していた石原氏ならではの業界人との繋がりだったようだ。またHanke氏は、石原氏は今では『Ingress』でかなりのハイレベルのプレイヤーであり、夫婦で『Ingress』に没頭しているようだ。ふたりは最初に会った時よりずっとレベルが高くなりついにはHanke氏を追い抜いたと語っている。
「日本でイベントがあった後、株式会社ポケモンの人々がそばに来てお酒をともに飲み始めた。そして長年『ポケモン』に携わっているゲームフリーク増田順一氏も登場し、ひたすら『Ingress』のすばらしさについて語り始めた」とMike氏は明かす。それからHanke氏と増田氏は『Pokémon GO』を実際的にどのようにデザインするかの会合を持つことになったようだ。増田氏とポケモンの歴史やすばらしさを語りながら、これまで見たことのない『Pokémon GO』の新たなる構想に興奮し、シリーズの原点である「ポケモンに出会える世界」をHanke氏とともに作ることを誓ったようだ。
前任天堂社長岩田聡氏の存在もこのプロジェクトの鍵となったようだ。岩田氏は任天堂の新しい方向性を模索している最中だったようで、実際にDeNAと提携しており、新たなハードウェアへの挑戦へ向けて取り組んでいた。Hanke氏は、岩田氏は長年抗ってきたモバイル事業と真摯に向きあい、変革の必要性を感じながらいち個人として任天堂を助けたがっていたと語る。それゆえにDeNAと協働している任天堂がNianticと仕事をするのは決して偶然ではないとHanke氏は考えているようだ。
Hanke氏は最初からお互いに『Ingress』と『ポケモン』は相性が良いと考えていたようで、すばらしい仕事が始まったと感じていたようだ。それもそのはず、ポケモンは3年前のエイプリルフールにGoogle MapでHanke氏らとコラボレーションをしていたのだ。3年前のエイプリルと同じように『Pokémon Go』の動画を製作していたようだ。「出会いは決して偶然ではない。」Hanke氏はもう一度同じ言葉を繰り返し強調している。
「我々は『Ingress』の失敗から学んだ」
『ポケモン』のようなゲームで『Ingress』のシステムを導入するのにあたって利点は複数ある。しかし利点のみならず課題もまた生まれてくるだろう。特に『Ingress』のような陣取りゲームには人が必要になる。この人がいなければ成立しない懸念について、Hanke氏は「それらの問題は『Ingress』時に学んだ」と自信を見せている。人の多い街のみを前提とした設計ではなく、小さな村や、さまざまな場所で楽しめるアプリになると語った。
ゲームがどのように設計されているのかも部分的に明かしている。プレイヤーは家の外を歩き5分ほどするとポケモンに出会うようだ。それは決してレアなポケモンではないが、確かに人間の近くで生きている。ポケモンジムへ行けばもっとレアなポケモンに会うこともできるし、レベルアップもできるので、行く価値があるとHanke氏は語る。水べには水ポケモンが棲息するなど特定のエリアにしか住んでいないポケモンなども存在し、生息地はそのポケモンのタイプに依拠しているようだ。中にはごく少ないエリアに住まうポケモンもいるが、そのようなポケモンは交換で入手すれば良い。ポケモンのイベントや、それに限らない大きなイベントで、そこに会った人々とポケモン交換を行う。そういったつながりも『Pokémon GO』の醍醐味であるとHanke氏は話す。
『Ingress』ではゲームの目的を達成するために特定のモニュメントの近くに人が集まるようなある意味“ソーシャル”な仕組みとなっていたが、そのシステムは『Pokémon GO』でも変わらないとHanke氏は話す。歴史的であったり芸術的であったり、そういった特色のあるいずれかの場所に訪れるのは開発陣の望むことのようだ。今まで訪れたことのないような場所を、ポケモンを入手するために探索する、それが楽しいのだという。たくさん歩くことでもその距離に応じたポケモンが報酬としてもらえるシステムも組み込まれているようだ。
話は『Pokémon GO』発表時に注目された専用デバイスにも及ぶ。専用デバイス『Pokémon GO Plus』はスマートフォンを取り出さずに『Pokémon GO』を遊ぶデバイスのようだ。機能はスマートフォンのアプリよりも限定されているようだが、より手軽でありただ電話を持ち歩くことよりも子ども達に想像力が与えられるだろうとHanke氏は語る。『Pokémon GO Plus』を持って出歩き、近くにポケモンがいれば反応するのでボタンを押す。それらを持ち帰りスマートフォンやタブレットで確認する。そうした遊び方をイメージしているとHanke氏は示唆している。なお『Pokémon GO Plus』はマルチLEDカラー液晶とボタンが搭載され、バッテリーは長く持ち充電もそれほどかからない小さなブレスレットのようなサイズで開発されているようだ。
Nianticといえば最近Googleや任天堂、株式会社ポケモンから合わせて2000万ドルの出資を受けたことが話題になっていた。これにあわせてGoogle傘下にあったNiantic Labは独立し、Niantic, Incと改名した。この件を受けてHenke氏は「『Pokémon GO』のために必要なことだった」と示唆している。独立することで任天堂やポケモンと共に仕事ができる。投資することや会社の共同オーナーになることもできるようになる。つまり、非常にタイトな協力関係も持てるようになる。任天堂や株式会社ポケモンは生涯手がけてきた大きなビデオゲームフランチャイズをこのプロジェクトに投じており、利害の一致があったとHanke氏は述べた。また、Niantic,はGoogleから少し離れて独立することで異なる道を歩むことを望んでいたことも明かしている。
ある程度の情報は明かされたものの、『Pokémon GO』はまだまだ謎に包まれている。Hanke氏は、現在Nianticには41名のスタッフが在籍しており、その多くが『Pokémon GO』に全力投球しているとも明かしている。任天堂は年末に予定していたモバイルゲームのリリースを3月まで繰り下げると発表しているが、『Pokémon GO』の開発は順調そうだ。