任天堂といえば、『スーパーマリオ』や『ゼルダの伝説』、『どうぶつの森』や『ポケットモンスター』シリーズといった名だたるIP(知的財産権)を抱えていることで有名だ。さらには『F-ZERO』や『メトロイド』、『スターフォックス』などもあり、人気フランチャイズの多さは他社と比較しても群を抜く。そしてそれらのタイトルには、全世界に熱烈なファンが存在しており、それが任天堂の強さでもあるだろう。しかし、そのファンの熱烈さゆえに任天堂が頭を悩ませる機会も少なくない。特に「ファンメイド」作品は頭痛の種になりつつあるのではないだろうか。その作品の質が高ければ尚更だ。
生まれては消えるファンメイド
『Another Metroid 2 Remake』(以下、AM2R)はその最たる例だろう。ファンが制作した『AM2R』は、『メトロイドII RETURN OF SAMUS』の非公式リメイクだ。シリーズの中でも特に人気のある『メトロイドゼロミッション』をベースにしながら、より遊びやすいアレンジをほどこし、元作品を丁寧にリメイクしている。『メトイロド』シリーズは特に海外で人気のある作品であり、数多くのファンメイドが生まれているが、その中でも最も質が高く期待されているのが2012年から開発されてきた『AM2R』だった。同作はシリーズの30周年記念日である8月6日に無料公開されたが、3日後の8月9日に公開中止となった。
公開中止の理由はもちろん、任天堂からの要請だ。Polygonがこの件について問い合わせたところ、任天堂は以下のように返信している。
“任天堂の幅広いキャラクター、商品、ブランドは世界中の人々に楽しんでもらっていますし、ファンの情熱には感謝しております。しかし、任天堂が他社IPを尊重しているように、私達も自分達のキャラクターや商標などを守らなければいけません。非公式にIPを使用されることは、私達がIPを守る力、保護する力、そして新作を生み出す力を弱める可能性があります”
開発スタッフもまたブログを更新し、思い出を回想しつつ今後の『AM2R』の開発は個人の範囲で続けていくことを宣言。また「任天堂を憎まないでほしい。彼らは自分たちのIPを守ろうとしただけだ。抗議のメールを送るぐらいなら、Nintendo eShopで名作『メトロイド2』を購入してくれ!」とコメントし、怒りを見せるファンをなだめている。
任天堂の要請でファンメイドが中止に至った事例は今回だけではない。昨年公開された『スーパーマリオ64』をHDリメイクする作品が公開中止となったニュースを覚えている方もいるだろう。またシリーズ30周年を祝う、ブラウザでも遊べる『ゼルダの伝説』3D化プロジェクトが公開されたが、のちに公開中止となった。ほかにも生まれては消えるファンメイドは数知れず。今月11日には9年の歳月をかけて制作された『ポケモン ウラニウム』が公開。原子力に汚染された大陸が舞台の同作には、「Nuclear」というタイプが追加されるなど、美しいドット絵のみならず話題性十分の作品だ。しかし、こちらも公開中止になるのは時間の問題だろう。
ファンメイドに熱烈なファンが生まれる
任天堂が自社IPを守るために公開中止を要請するのは、至極当然のことだろう。特に最近の任天堂はユニバーサル・スタジオ・ジャパンへの進出やカービィカフェの出店など、従来よりもIPを軸にした商業展開に熱心だ。非公式のIP使用を認めたがゆえに氾濫してしまい、ブランド価値が下がってしまうのは望ましくない。そういった背景を考えても、今後はこれまで以上にファンメイドへのチェックが厳しくなるのは間違いない。
そして任天堂にとって厄介なのは、ファンメイド作品の質が高く“ファンメイドのファン”が生まれてしまうところだ。『AM2R』はその出来から多くのファンを抱えるタイトルのひとつで、公開中止になったことにより一部には怒号を飛ばすユーザーも存在する。中には続編が生まれるよりもファンメイドの存続を望む声もあり、穏やかではない層がいるのも確かだ。熱烈なファンがファンメイドを作り、そのファンメイドから熱烈ファンが生まれ、任天堂へ抗議をおこなうというのはさすがに“ファンの情熱”には収まらない。それほどまでに人気なIPを抱えているという証ではあるが、今回の公開中止への反響は大きく、先日無断でアップロードされた「Nintendo Powerが取り下げ」となったこととあわせて、任天堂はファンを蔑ろにするとの声が一部フォーラムでは上がっている。
最近セガが非公式リメイクを作るソニックファンを雇い、開発チームに参加させていることが話題となったが、どの会社にも同様の対応を要求するのは難しいだろう。方向性は違えど、IPへの愛は任天堂もファンも同じのはず。着地点の設定は難しいが、お互いに納得できる妥協点が生まれることを祈るばかりだ。