サンフランシスコに拠点を置く米ゲームテクノロジー企業MaxPlayは、クラウド技術をベースにした業界初となるゲームエンジン「Game Development Suite」(以下、GDS)を発表した。プロジェクトに携わる全てのデベロッパーが、世界中のどこにいても作業状況をリアルタイムでシームレスに共有できることから、隔たりを越えたゲーム開発を実現する狙いだ。ゲーム業界の先頭で活躍してきたベテラン集団が目指す、理想の開発プラットフォームとは。新進気鋭の代表者が、新時代のツールにかけた想いを語っている。
ゲーム開発者のためのGoogleドキュメント
MaxPlayのGDSは、固有のランタイムエンジンを結合したサービス指向アーキテクチャ(通称SOA、ソフトウェアの各機能をネットワーク上でサービスとして連携させることでシステム全体を構築する手法)を念頭に設計されている。ローカルエディターによる個々の開発にくわえて、クラウドを活用したサーバーアーキテクチャを介して他者と平行して作業できることから、プロジェクトに生じる仕様変更や調整作業をより円滑に進められるのが利点だ。プログラマーやエンジニア、デザイナーが開発プロセスをリアルタイムで共有することで、同時に問題の解決に着手できる。対応プラットフォームはモバイル、PC、コンソールにくわえて、ARやVRを予定しており、早期アクセス版を近日発表とのこと。
元Electronic Arts役員で、MaxPlayの最高経営責任者を務めるSinjin Bain氏は、GDSを“ゲーム開発者のためのGoogleドキュメント”と銘打っている。海外メディアGamasutraの取材に対して、「GDSは、ゲーム開発に必要な全てのスキルセットが、同一のシーンやプロジェクトにおいて同時に連携できるように設計されています」「ニューヨークにいるエンジニアやデザイナーがスクリプトに変更を加えたとして、ロサンゼルスにいる私がその変更をエディターやプレビュアーはもちろん、果ては対応予定のゲーム機で即座に確認できます。もはや互いの作業を確認するのに、日々のビルドを待つ必要はなくなるのです」と説明した。
“窓のない”開発環境に光を
ゲームエンジン業界は、モバイル機器からハイエンドPCまであらゆるプラットフォームをカバーするEpic Gamesの「Unreal Engine」や、世界で爆発的に利用者数を伸ばす「Unity」を筆頭に、今や名だたる競合でひしめき合っている。先日には、「Maya」で知られるAutodeskがゲームエンジン「Stingray」を引っさげて業界に参入した。そんな中、ゲーム開発に用いられるプロセス事態は長らく変化していないと、Bain氏は考えているようだ。海外メディアVentureBeatのインタビューを通して、これまでの開発現場における問題点を指摘するとともに、今後の発展を支えるには何が必要かに触れている。
分散開発の普及や、ゲームデザインおよびゲーム体験を劇的に変化させるハードウェアの驀進(ばくしん)によって、過去15年の間にゲーム業界は大きな変遷を迎えた。しかし、それらの変化は既存プラットフォームの側面に固定されてきたに過ぎないのだと、同氏は述べている。「要は、ゲームデベロッパーが楽しみをもっと早く見出して、それをユーザーのために最適化し続けられるよう、手助けする必要があるのです」。続けて、「ゲーム開発はチームスポーツです。にもかかわらず、今日の開発者たちは、まるで窓がないサイロの中にいるかのように、いまだ自己部門のことだけを考えて作業しています。これでは生産性が抑圧されるばかりか、協調性と創造力の妨げになってしまいます」と指摘。
「我々はリアルタイムに部署をまたいだ協力に重きを置いています。そうすることで、チームは各々のスキルセットを足場に、開発者の創造性を開花させられるからです。これまでバージョンの変更ごとに10分から20分かかってきたものをリアルタイムでこなします。全ての開発サイクルにおいて何千という工数の削減に繋がるでしょう」と、Bain氏は締めくくっている。急速な進化の末に過渡期を迎えたゲームエンジン業界で、MaxPlayが目をつけたのは個々の開発力の強化ではなく、クラウドの活用で全体との繋がりをより円滑にすること。結果として総合的な生産性を飛躍的に向上させることが狙いのようだ。