昨今インディーゲームは「同じジャンルばかり」「新しいものを作れ」との提言に、ある開発者が苦言。新しいものに挑戦し好評だけど売れなかった

Panicは8月16日、戦略アクションゲーム『Arco』を配信した。はSNS上でのある議論に触れ、次回作では「売れる」ことにより焦点を当てて制作すると述べ、注目が集まっている。

パブリッシャーのPanicは8月16日、戦略アクションゲーム『Arco』を配信した。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch。

開発者のひとりFranek Nowotniak氏によると、本作は高い評価を得ているものの、売れ行きは良くないという。そして同氏はSNS上でのある議論に触れ、次回作では「売れる」ことにより焦点を当てて制作すると述べ、注目が集まっている。海外メディアGamesRadar+が報じている。


『Arco』は、4人の主人公による復讐劇を描く戦略アクションゲームだ。敵とのバトルでは、主人公と敵が一斉に行動を起こす“同時ターン制”システムが特徴。敵の次のアクションや移動先などの情報をもとに戦略を立てて、リソースも管理しながら行動させるシステムだ。刻々と変わる状況にあわせた立ち回りが勝利へのカギとなる。また、会話シーンでの選択によって主人公の罪悪感ステータスが増減し、物語の行方に影響が及ぶ要素も用意されている。

本作は本稿執筆時点で、レビュー集積サイトMetacriticにてメタスコア85(PC版・100点満点)を獲得し、またSteamのユーザーレビューでは約170件のうち98%が好評とする「非常に好評」ステータスとなるなど、メディア・ユーザー双方からかなり高い評価を得ている。ただ、本作のアーティストFranek Nowotniak氏によると、今のところ売れ行きは悪いとのこと(8月22日時点)。同氏は、『Arco』は今までにない作品として制作したが、すでに確立されたゲームジャンルを採用していればもっと売れただろうと述べている。


Nowotniak氏のこうした発言の背景には、人気アドベンチャーゲーム『McPixel』シリーズの開発者であるSos Sosowski氏のSNS上でのコメントがあった。Sosowski氏は8月20日、10年前にはインディーゲームが新しいものを開拓し、AAAゲーム(超大型作品)では同じ3つのジャンルのものが繰り返し制作されていたが、今はインディーゲームも同じ3つのジャンルばかりになり、AAAゲームは過去の3つのジャンルのリマスターをしていると指摘。そして「新しいものを作れ(Make. New. Stuff.)」と呼びかけた。

インディーゲームとAAAゲームそれぞれの“3つのジャンル”が具体的に何を指すのかは言及されていないが、各時代に人気がある=売れるゲームジャンルの概念として述べられたのだろう。そして、Sosowski氏のコメントに対しNowotniak氏は「面白いアドバイスだ」と反応した。

“新しいもの”は、ターゲットとなる消費者がいない状態で売ることが求められ、一方で開発者には家賃を払わなければならないプレッシャーがあるという。それに挑戦した『Arco』での結果が現状振るわないこともあり、皮肉として「面白いアドバイスだ」と述べたのだろう。そしてNowotniak氏は、最低賃金以下で働くことはしたくないとし、次回作では「新しいかどうか」ではなく「売れるかどうか」により焦点を当てて制作するとコメント。ただ、クリエイティブさを失わないためには、何かしら新しいことをする必要があるとも述べている。


Nowotniak氏のコメントには、ほかのインディー開発者からも共感の声が寄せられている。たとえばSuper Mega Teamは、2022年にリリースした『The Knight Witch』でも、『Arco』と同じことが起こったと述べる。同作は、メトロイドヴァニアに全方位STG、カードデッキ構築要素を組み合わせた作品だ。同スタジオは、新しい領域を開拓したいとの考えがあり、周囲からも独自性を求められるが、結果としてそこにオーディエンスがいないということは起こるとした。

売れ行きが良くない理由は“新しい”からだけではないだろうが、新しいものに挑戦することには、そもそも売れないリスクがあるということだろう。なおNowotniak氏は『Arco』の販売不振について、マーケティングのプランはあったが上手くいかなかったとも述べている。また本作の楽曲を担当したJosé Ramón García氏も、『Arco』の存在を周知できず、既に“隠れた名作”扱いになっていると嘆いている。

ちなみに、人気ローグライトポーカーゲーム『Balatro』の開発者LocalThunk氏はゲームの売れ行きについて、通常は理にかなった結果が出るが、『Arco』はそうではないようだとコメント。業界は時に宝くじのようであるとし、『Arco』を応援する投稿をしている。


今回の議論の発端となったSos Sosowski氏の「新しいものを作れ」という投稿は、一部インディー開発者にとっては、理解しつつもそう簡単に乗れる話ではないと映ったようだ。一方で、昨今のインディーゲームは「同じ3つのジャンルばかり」と指摘された点に関しては、実際にはむしろ多種多様なジャンルの作品がたくさんリリースされるようになったとして、ゲーマーから異論が寄せられている。これに対しSosowski氏は、投稿の真意はそこにあるとコメント。“3つのジャンル”ばかりが目立つが、よく探せばさまざまな作品との出会いがあるという意見に同意している。

『Arco』は、PC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch向けに配信中だ。Nowotniak氏によると、本作からはまだ十分な収益を得られていないが、長期的には開発費を回収できるかもしれないとのこと。また、体験版の再配信を今後計画しているそうだ。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

記事本文: 6889