巨大スタジオで”インディーらしいゲーム”を作った開発者、その後の道

 

UbisoftのクリエイティブディレクターYoan Fanise氏は、14年間勤めた同社を退職したことを明らかにした。Fanise氏は、海外でベストアクションゲームの1つとして度々挙げられる『Beyond Good & Evil』の開発に、かつてサウンドデザイナーとして参加した人物だ。近年は、戦争アドベンチャーゲーム『Valiant Hearts : The Great War』にてコンテンツディレクターを担当した。Fanise氏は、海外メディアGamasutraを通して退職の理由を語っている。

 


Ubisoftが取り組む"インディーらしいゲーム作り"

 

大きな成功を収めた小規模タイトル『Child of Light』
大きな成功を収めた小規模タイトル『Child of Light』

Ubisoftは、世界19か国に29ものスタジオを有する巨大ゲーム企業だ。カナダのUbisoftモントリオールを中心に、世界各国にあるスタジオが協力し、多数のトリプルA級タイトルを世に送り出している。毎年新作が登場する『Assassin's Creed』や、『Far Cry』および『Just Dance』などの人気シリーズ。また『Assassin's Creed Unity』などの次世代機をメインプラットフォームとしたタイトルや、『The Crew』といった新規IPにも取り組んでおり、ビデオゲームの開発"量"に関しては世界で一、二を争う存在である。

だがこういった大型タイトルの開発に注力している一方で、Ubisoftは近年、"巨大なスタジオ内でのインディーらしいゲーム開発"にも取り組んでいる。数千人の開発者らが働くUbisoftのスタジオ内部に、小規模なチームを構成し、彼らに"インディー風"の作品を開発させるという取り組みだ。小規模なチームにダウンロードゲームを開発させれば、開発費を抑えられリスクも減る。また、開発陣はトリプルA級タイトル開発にあるような制約から解放され、自由な発想とアイディアを持ってしてゲームを開発できる。これがこの取り組みの狙いである。トリプルA級タイトルばかりを開発している開発者らが、自由なゲーム開発に取り組むことで、心身をリフレッシュできる効果もある。

2014年に発売された『Child of Light』は、この取り組みの第1弾タイトルとなった。熱狂的な暴力が支配する『Far Cry 3』で成功を収めたクリエイティブディレクターPatrick Plourde氏が、次なるプロジェクトとして"小規模で女性的な作品"を目指し、誕生したファンタジーRPGだ。『Child of Light』は評価面でもセールス面でも大きな成功を収め、のちにダウンロード版だけでなくパッケージ版も発売されるに至った。

1年前となる2013年には、『Far Cry 3』のスピンオフ『Far Cry 3: Blood Dragon』もセールス面で成功しており、Ubisoftは"インディー風"のダウンロードタイトルの開発に注力する姿勢を見せていた。『Child of Light』で成功したPlourde氏は、現在はさらに小規模なゲームの開発に取りくんでいるという。とはいえ、Fanise氏の話を聞く限りでは、誰もがPlourde氏のように、巨大スタジオのなかで自分の理想とするゲーム開発ばかりを続けられるわけではないようだ。

 


"屋台からレストランに呼び戻された"

 

『Beyond Good & Evil』開発チームの一幕(イメージ by Gamasutra)
『Beyond Good & Evil』開発チームの一幕(イメージ by Gamasutra

『Child of Light』に続き登場したのが、同じく2014年にリリースされた戦争アドベンチャーゲーム『Valiant Hearts: The Great War』である。テーマは第一次世界大戦。運命に翻弄される3人の男女と1匹の犬の物語を描いており、緻密な歴史考証やプレイヤーの心を打つストーリーが魅力である。『Assassin's Creed III』の開発を終え『Valiant Hearts』に参加したFanise氏は、本作を100万人以上がプレイしたと伝え、セールス面で一定の成功を収めたことを強調している。同作はGame Awards 2014にて、"Game for Changes"や"Best Narrative"といったアワードも受賞している。一方で、インディーゲームからすれば100万本の売り上げは大きな成功だが、"巨大スタジオから見れば小規模な成功"であるというのが実情だと、吐露している。

Fanise氏は、100万人以上が本作をプレイし多くのポジティブな反響があったとした上で、『Valiant Hearts』の売り上げが『Assassin's Creed』などの巨大フランチャイズには太刀打ちできないと語る。「現実は時々厳しい。『Valiant Hearts』は、巨大レストランの駐車場にある屋台みたいなものだ」。

「つまり、ビジネスの面で見ると、もし100万人のプレイヤーがいて多数のアワードを受賞した成功作であっても、大ヒット作品と比較すると収益は低いということだよ。厳しい現実だ」。さらにFanise氏は、トリプルA級タイトル開発をレストラン、小規模ゲーム開発を屋台と例えて、以下のように続ける。「大成功しているチェーンレストランが、一部のコックに駐車場で屋台をやることを許可した。そして突然、レストランに戻るように指示した。あなたならどうする?」レストランに呼び戻されたコックことFanise氏は、その命令に従わず、店を辞めることを決意した。

Fanise氏が望むのは、かつて自身が『Beyond Good & Evil』にて体験したような、30人強ほどのチームでのゲーム開発である。数百人のような開発チームにはない、クリエイティブで人間らしさがあると説明する。レストランを辞めてなにをするのかを、Fanise氏は明言していないが、「『Valiant Hearts』で2年間も"偽のインディー"と呼ばれあとに、本物のインディーに行かない理由なんてあるか?」と、インディーゲーム開発に真剣に取り組む姿勢を見せている。

 


初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。