マルチプラットフォームでゲームを発売し失敗したインディー開発者が想いを語る。「先を見通せなかった」
いまやゲームクリエイターのひとつの理想の形となりつつあるインディーゲーム開発。開発者同士が密接にかかわって協力し合い、より深い部分でゲームづくりに携わることができる魅力にひかれ大手パブリッシャーからインディーへと流れる開発者も後を絶たない。そんなインディーゲーム開発も近年さまざまな選択肢が見られるようになってきた。特にコンソール機での展開については顕著だ。成熟したゲームが世に出るようになってきたインディーゲームにたいし各ハードメーカーは精力的なサポートを行っており、過去と比較すればコンソール機への展開が容易になりつつある。
しかし、容易であったとしても展開するプラットフォームの数だけコストはかさむ。カナダに拠点を構えるJuicy Beast Studioはマルチプラットフォーム展開と真剣に向き合ったインディーデベロッパーだ。結果として、Juicy Beast StudioがPlayStation 4/Xbox One/Wii Uの3つのゲーム機で同時展開を行った新作『Toto Temple Deluxe』は失敗に終わってしまった。共同設立者Yowan Langlais氏が、このゲーム開発の舞台裏をGamasutraで告白している。
ゲームジャムから生まれた作品
『Toto Temple』が生まれたのは、2013年冬にトロントで行われていたゲームジャム「TOJam」がきっかけであったという。ローカルマルチプレイができるゲームを探していたゲームハードメーカーのOUYAは、カラフルなキャラクターが羊を奪い合うためにちょこまかと動くこの作品に魅入られ、Juicy Beast Studioに声をかけサポートを約束し、Langlais氏らはゲームジャム作品から、世に出せるものを目指して開発を始めた。Juicy Beast Studioは金銭的問題を抱えることなくゲームをより大きく拡張していき、のちにゲームは『Toto Temple Deluxe』と名付けられた。E3のOUYAブースでゲームを触った人々から良い反応を受け手応えを感じたとも語っている。OUYAでゲームがリリースされたのち、今までモバイルゲームやフラッシュゲームしか作ってこなかったLanglais氏らは、コンソール機でゲームを出せるという可能性に釘付けになったのだという。コンソール機やUnityの扱い方も知らないまま、彼らはGDCにてそれぞれのコンソール機のハードメーカーと会合し、リリースの約束を取り付ける。
Langlais氏らは、すでにOUYAでリリースされたゲームを、ひとつのコンソール機の独占で発売する意味がないと悟り、さまざまな点を考慮し、4機種同時にリリースをすることを決意したと語る。そして2015年9月にSteam/PlayStation 4/Xbox One/Wii Uにて改めてリリースされる。コンソール機でのヒットを夢見て送り出した本作だが、その夢は叶うことなく散ることになる。
1月終わりの時点で『Toto Temple Deluxe』の売上は約6000本。この数字はプロモーションや開発に投じた費用を大きく下回っている。今後売上が伸びる可能性があるものの、開発者は「財政的に失敗だった」と認めている。しかしJuicy Beast Studioの面々は転んでもただでは起きない。彼らは自分たちがなぜ失敗に陥ってしまったのか真剣に分析を始めた。
なにがいけなかったのか
Langlais氏らはゲーム内容については悪くはなかったと感じていたようだ。しかし、直感的な操作を目指したが一部複雑な操作があったという点、見ていて何が起こっているかわからないという点などを反省すべきポイントとして挙げている。ゲームは実際にSteamレビューにおいても投稿数は少ないものの、一定の評価を得ている。
Langlais氏らがもっとも欠けていたと考えるのは、タイトルやテーマといった、発売前にユーザーの関心を惹きつける要素であった。『Toto Temple Deluxe』の骨格となる「マヤ人が寺院で戦う」という設定は、“悪くはないが、使い古された良くもないありふれたものだった”と現在では感じているのだという。このテーマはゲームジャム直後からなんとなく変えなかったもので、奇抜さとオリジナリティが区別できておらず、もう一度オリジナリティのあるテーマであったか検討すべきだったと漏らす。タイトルにかんしても、キャッチーではあったものの、ほかの選択肢を模索しなかったことや、「Deluxe」と冠するゲームはパズルゲームが多く、そういったタイトルのひとつであると思われてしまったことなどを課題としてあげている。
プロモーションもまた彼らが大きく悔いている点なのだという。これまでマーケティングを経験してこなかったLanglais氏らは、ゲームイベントと動画配信という2点を中心にプロモーションをおこなった。前者のゲームイベントでのプロモーションは、アメリカでは権威のあるイベントのひとつPAX Eastでおこなわれた。PAXでのプロモーションはお手頃価格でサービスもよかったものの、Juicy Beast Studio側がいくつかの点で誤解をしていたり、イベントの当日災害に見舞われてしまったりするなど不運が重なり、プロモーション費用は無駄になってしまったと語る。後者の動画配信にかんしては、Twitchを用いたユーザー参加型の映像配信を行った。ゲーム内のCPU同士を戦わせ、どのキャラが勝利するのかをユーザーが予想し、その予想が的中したユーザーにはゲームを配布するというGiveaway(無料配布)の形式と組み合わせた企画だ。イベントは大盛況におわったが、あまりの盛り上がりにたくさんのユーザーが参加し、配布したゲームの数はなんと1600以上にものぼった。この企画も売上に影響を及ぼしてしまったかもしれないと明かしている。
そして、複数のプラットフォームでの展開が、彼らに決定的な打撃を与えた。コンソールへの移植作業に携わるプログラマーはたったひとり。このプログラマーへの負担は重く、精神体力ともに消耗させてしまう結果となった。移植作業がしやすいUnityを利用して制作していたが、3コンソールの性質が異なることから、コンソールごとにそれぞれ別のプロジェクトとして進めることとなり、時間がかかったようだ。Juicy Beast Studioには技術スタッフが少なかったこともあり、このプロセスは途方も無い困難を極めたと告白している。
一番の理由
非効率的なプロモーションをおこない、無謀なマルチプラットフォーム展開によって想定外の支出が生まれてしまったこともスタジオの財政にダメージを与えたことだろう。だが、支出が多かったことと売上が伸びなかったことは直接的に関係しない。さまざまな観点からプロジェクトの失敗を考察してきたLanglais氏らは話し合いのなかで、売上が不振に陥った理由を見出した。それは、「ローカルマルチプレイヤーモードは必要なかった」という結論だ。ローカルマルチプレイヤーモードは、このゲームの開発の原点であり、OUYAからオファーをもらった理由でもある。しかし、このローカルマルチプレイヤーモードこそがユーザーの心をつかめなかった原因であると感じ始めたようだ。
“ローカルマルチプレイヤーモードに焦点をしぼり、オンラインモードを搭載しなかった、それこそが失敗だったんだ。僕らは自宅に友人を呼びゲームをする特定のニッチな層のみを対象としていた。どのようなユーザーがゲームを買うのかを考えていなかった。Redditを見てもYouTubeを見てもいつも同じ意見を目にしていた。「面白そうだけど、プレイする友人がいないので買わないことにした」という声だよ。どうして発売前にこの意見を書いてくれなかったんだって思うよ(笑)ローカルマルチプレイヤーモードは人々の目に魅力的には映らないということを深く学んだね。”
移植作業の疲れから、発売後はどのスタッフも燃え尽きてしまい、スタジオは危機的状況に陥ったのだという。移植作業が大部分を占めた“クリエイティブさに欠けるゲームの発売日”には歓喜の声をあげるものもいなかったようだ。また、リリース以前は期待に満ちていたコンソール機への展開は、すでにOUYAでリリースされており、かつプラットフォーム独占でもないという点でも敬遠され、思うような売上を記録できず落胆したという。WiiUの移植作業はほかのコンソールよりも手間がかかったものの、ニンテンドーeショップでのみ『Toto Temple Deluxe』はトップ画面に表示されプロモーションのサポートを受けており、感謝を述べている。
よっつのアドバイス
そして、Langlais氏らは自身の経験にもとづきこれからマルチプラットフォームを展開しようとするインディーデベロッパーへアドバイスをおくっている。ひとつめは「ローカルマルチプレイヤーモードを搭載しない」こと。ゲームジャムではローカルマルチプレイヤーモードを中心としたゲームが作りやすい。しかしオンラインで遊べないと困難を強いられると語っている。ふたつめは「ユーザーの目を引くことを第一に」。コンソール機においてゲームを開発するならば、第一にコンソール機の所有者に何かしら注目してもらえるようにすべきだと述べている。みっつめは「ひとつのコンソール機に絞って開発する」こと。Langlais氏は次回ゲームを開発するならば、ひとつのコンソール機独占で開発するという決意を抱いており、少なくとも3コンソールを同時展開するようなマネはしないと固く決心しているようだ。よっつめは「まずマーケティングという観点からゲームを開発する」。ゲーム開発の際には、製品を買うユーザーを意識することが重要であり、それらを念頭において初日から取り組むべきであると話している。
『Toto Temple Deluxe』は成功には至らなかったが、Langlais氏はすでに前を向きながら今後のゲーム開発を見据えている。
“『Toto Temple Deluxe』は失敗だった、で終わらせるのは簡単だ。失敗どころか僕らは時間とお金を無駄にしたともいえるね。しかし僕らはたくさんのことを学んだ。落ち込んでいる暇はないよ。肩にかかったほこりを取り払って、また新たなクリエイティブなものを生み出していくさ!”
Langlais氏らは初期段階でうまく話が進みすぎた結果、研究の機会と多角的な視点が得られないままゲーム開発を強いられた印象を受ける。その結果、あとになって気付いたことがたくさんあったという状況になっているのだろう。これからはますます何をするにも資金が必要な時代となってくる。インディーといえども、ゲームデザインにせよプラットフォーム展開にせよ、先を見据えるビジョンが必要になってきたということだろう。