IBMの『ソードアート・オンライン』体験プロジェクトに見る先進技術の大衆化、VR時代に広がるメタバース

日本IBMは、「ソードアート・オンライン」に登場するVRMMORPGの世界観を同社の最新技術で実際に体験できるコラボレーション企画「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」を発表した。

日本IBMは、「ソードアート・オンライン」に登場するVRMMORPGの世界観を同社の最新技術で実際に体験できるコラボレーション企画「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」を発表した。このプロジェクトは、IBMが提唱する次世代型コグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」と、同社が展開する高性能クラウドサービス「SoftLayer」を活用した、仮想空間におけるフルダイブ型オンラインゲームのプロトタイプだ。東京都内で来月の実施を予定しているアルファテストに向けて、現在、特設ページにてテスターを募集している。

 

アニメを使った先進技術のプロモーション

「ソードアート・オンライン」は、2009年に電撃文庫から刊行されたライトノベル。元はオンライン小説として作者が自身のウェブサイトに掲載していたものが高く評価され、商業化へいたった。2022年の日本を舞台に、天才プログラマー「茅場晶彦」が開発したVRMMORPG『ソードアート・オンライン』(通称、SAO)に閉じ込められた主人公たちが、仮想空間の中で死亡すれば現実世界のプレイヤー自身も死亡するというデスゲームを闘いぬくという内容だ。VR技術の危険な側面を描く壮絶なストーリーが大いに人気を博し、2010年からは漫画の出版、2012年からはテレビアニメの放送と、幅広いメディアへ展開されている。また、昨年10月には、原作者の書き下ろし完全新作となる劇場版の制作が発表された。

今回発表されたコラボレーション企画「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」のコンセプトは、フルダイブ型VRMMOゲームにおいて必要絶対条件とされる「高度なAI技術」と「最新の負荷分散ネットワーク技術」の壁にIBMが挑むというものだ。同社が誇る次世代型コグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」と、2013年に同社が買収を完了した高性能クラウドサービス「SoftLayer」を活用した先進テクノロジーを利用し、人気作品の世界観が体験できるアルファテストを開催する。特設ページには、いまだ理論に留まる革新的次世代ゲーム『ソードアート・オンライン』の開発に行き詰まった「茅場晶彦」が、IBMの技術に出会うことでプロトタイプの完成にこぎつけるという架空の開発秘話が、ライトノベル形式で掲載されている。

SAOアルファテストでは、イベント参加者みずからをスキャンした3Dモデルがアバターとして登場し、ヘッドマウントディスプレイの仮想空間で繋がれた他の参加者たちと共にゲームを楽しめる。現在、特設ページで参加者を募集しており、3月4日17時までエントリーを受け付けている。開催期間は、2016年3月18日から同20日までの3日間で、募集人数は208名。応募条件は、18歳以上で、日本国内に在住していること。また、アルファテストには、11時から19時の複数のセッションが用意されており、実施時間はおよそ20分間。テスト会場は東京都内某所とされており、イベント当日の集合時間や会場へのアクセスに関する情報は、抽選の当選者のみを対象に、3月9日から同15日の間にメールで知らされる予定だ。

ゲームではなくメタバースとしてのVR技術

『STEINS;GATE』とのコラボ企画
『STEINS;GATE』とのコラボ企画

日本IBMがアニメやゲームとタッグを組んで先進技術の理解や体験を促したのは、今回が初めてではない。2014年にも、タイムトラベルをテーマにした想定科学アドベンチャーゲーム『STEINS;GATE』とのコラボレーション企画「STEINS;GATE 聡明叡智のコグニティブ・コンピューティング」を発表していた。『STEINS;GATE』の物語に、特殊なコンピューター言語でしか動かせないオーパーツとして登場するキーアイテム「IBN5100」が、IBMが1973年に開発したポータブルコンピューター「IBM5100」をモデルにしていることから、41年の技術進化により生み出されたコグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」を、未来ガジェット研究所のラボメンが紹介するというショートアニメだ。

コグニティブ・コンピューティング・システム(通称、CCS)とは、プログラムに依存する従来のコンピューターとは異なり、自然言語を解釈し、蓄積した膨大な知識や経験から自ら学習するシステムを指す。なお、人工知能(AI=Artificial Intelligence)と混同されることもあるが、厳密な定義は異なる。その代表格が、IBMが開発した質問応答および意思決定支援システム「Watson」だ。名称はIBMの初代社長、Thomas J. Watsonから取られている。「Watson」は、言語を理解して仮説を生成し、複数の解答候補がどの程度正確であるかを評価することで、人間の意思決定を支援する。2011年には、アメリカのクイズ番組「Jeopardy!」に出場し、クイズ王者2人と対戦。総合で見事完勝するという実績を誇っている。なお、その際に獲得した優勝賞金100万ドルは、チャリティーに全額寄付された。コンテンツ分析や証拠に基づく推論から、意思決定の改善やコストの削減、成果の最適化を実現する「Watson」のソリューションは、患者に合わせた医療の実現や医学研究の迅速化、ビジネスにおける優れた業績の達成など、様々な分野で活用されている。

「ソードアート・オンライン ザ・ビギニング Sponsored by IBM」の発表を受けて、海外にも人気が広がっている「ソードアート・オンライン」が日本でついに現実のものとなると、一部海外メディアの報道も加熱している。しかし、日本IBMが「コグニティブ・コンピューティングが未来のゲームにおいて活用されたら?」というテーマを掲げているように、今回の主役はあくまでも、次世代型コグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」と、高性能クラウドサービス「SoftLayer」であるといえるだろう。過去の『STEINS;GATE』コラボレーション企画と同様、自社の先進技術をユーザーに体験してもらうのがIBMの目的だ。いわゆるリアルSAOの実現は、まだ遠い未来のことかもしれない。一方で、2014年にOculus VRがFacebookに買収された際、同社のCEO Brendan Iribe氏が「10億人を仮想空間に引き込むMMOとなるだろう」と、TechCrunchのカンファレンスにて発言していたように、ソーシャルネットワークとVRの融合がメタバースの進化へ繋がることは想像に難くない。

Ritsuko Kawai
Ritsuko Kawai

カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。

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