インディーゲーム開発者はヒット作がなくても食べていけるのか。海外開発者たちが明かす懐事情
年はゲーム開発環境を個人でも比較的手軽に揃えられるようになり、誰でもゲーム制作を始められるようになった。そしてもしインディー開発者になったなら、ひとつの趣味として続ける人もいるだろうが、ゲーム開発だけで生活できるようになりたいと考える人もいることだろう。とはいえ現実には、個人開発者で大きな成功を収めている人はそう多くはない。
海外掲示板Redditのゲーム開発者が集まる場にて9月6日、あるユーザーが「完全に個人で活動し、ヒット作もなく、ゲーム開発だけで生活している人はいるのだろうか」との質問を投稿。ヒット作に恵まれなかったとしても、ゲームを制作・リリースしながら、質素でも生活していけるのかどうか興味があったとのことで、これに対しいくつかの実例が寄せられている。
Hondune GamesのBrandon Proulx氏は、この10年ほどは手がけたゲームからの収益のみで生活しているという。同氏は、スキースタントゲーム『Santa’s Slippery Slope』などカジュアルなゲームを10本以上手がけ、PCおよびモバイル向けにリリースしている。開発コストを抑えるために、コードからアート、音楽まですべて自ら制作しているそうだ。
同氏いわく、手がけた作品の内の1本はまずまず売れたたものの、大金を得られたわけではなく、ニッチなコミュニティ以外では誰も聞いたことのない作品だろうと述べている。同氏の認識ではヒット作ではないということなのだろう。また、リリース後に各モバイルストアのトップ100に入った作品もあったが、特にそれによる成果はなかったという。なお同氏は、モバイルゲームにおける広告などによる収益化は、ゲームデザインや自身のこだわりなどから最小限に抑えているそうだ。
また同氏は、インディー開発者として活動しつつフリーランスとしての仕事も得たいなら、ゲームイベントやDiscordなどのゲーム開発者コミュニティに参加して、人脈を作ることが大事であるとアドバイスも送っている。
Bitter Extractsのraventhe氏は、放置型格闘ゲーム『Dragonfist Limitless』をモバイル向けに2019年にリリースし、同作を通じた収益のみでこれまで生活しているという。具体的な数字は明かされなかったが、インストール数も1日のアクティブプレイヤー数もそれほど多くはないとのことで、同氏自身はヒット作とは捉えていない模様。収益全体の5〜10%ほどは広告から、それ以外はゲーム内課金によるものだそうで、ソフトウェアエンジニアとして働くより少し多く稼ぐことができているという。
開発においては、一部のエフェクトを除きサードパーティのアセットは一切使用せず、コードからアート、音楽まで自ら手がけたそうだ。また、裕福な英語圏の国をターゲットにして制作したとも語られている。作品のPRについては、リリース時や大型アップデート時に関連するサブレディットにて紹介したほか、Google広告への出稿も試したとのこと。ただGoogle広告については、コストに見合う効果があったのか分からず取りやめたそうだ。
なお同氏は、ソフトウェア開発者として10年以上の経験があり、また20本ほどのゲームを作ってはボツにしてきたそうで、無経験からいきなり『Dragonfist Limitless』を制作したわけではないとしている。
インディー開発者のartoonu氏は、もともとAAAゲームを手がける会社に勤めていたが、自分の作品を作りたいとして独立。これまで20本以上のビジュアルノベル作品をリリースし、ヒット作もなくレビュー数も少ないが、フルタイムでゲーム開発をおこなえているという。もっとも、数年間の内に数十本のゲームを制作して、やっと今の生活ができるようになったそうだ。この間には、ワークフローの最適化や、短期間でそれなりの品質に仕上げる手法などについて学んだとのこと。なお、同氏は比較的物価が安い国に住んでおり、それもゲーム開発だけで生活できている背景にあるとしている。
MrZGamesのMr Zed氏も、開発したゲームからの収益のみで生活するには、どこで暮らしているかは重要であるとコメント。同氏はアルゼンチン在住で、生活費は米国の10%で済むという。また開発にあたっては、自分が好きで熟知している中でニッチなものを見つけ、そのジャンルが飽和状態にないかを調べるべきだとアドバイス。また、プレイヤーは特に作品のダメな部分に敏感だとし、そうしたフィードバックに耳を傾けることも大事とのこと。なお、この両氏はアダルトゲームを手がけており、Mr Zed氏はこの分野ならお金になるのではないかと考えたと明かしている。
このほか、Grey Alien GamesのJake Birkett氏による、2016年のGDC(Game Developers Conference)での講演映像を示す投稿もあった(上の映像)。Grey Alien Gamesは個人スタジオではないものの、ヒット作なしで11年間活動してきた経験が語られている。
今回「完全に個人で活動し、ヒット作もなく、ゲーム開発だけで生活している人はいるのだろうか」という質問に対し、数は少ないものの、インディー開発者自身によるいくつかの実例が示された格好。答えとしては、個人のケースにはよるもののそうした生活は可能ではあるということになるのだろう。ただ、何をもって“ヒット作”と捉えるのかは個人の主観によるところが大きい様子。ともあれ、先駆者らは制作・販売においてさまざま試行錯誤し戦略を練ったうえで、生活していけるだけの収益を得ていることがうかがえた。