今年はVR元年とされるだけあり、数々の機種の販売や予約が始まるなど、いよいよ機運の高まりを見せているVR市場。長年VRの研究を続けてきたOculusブランドも、VR機種の中で最もお手頃な価格かつ多くの独占タイトルを抱えるPlayStation VRも捨てがたいが、HTC Viveの存在は見逃せない。要求スペックや値段はVR機種の中で高い部類に入るが、注目すべきなのはHTCとValveが共同開発している点だ。Valveは言わずともしれたPCゲーム市場の中心となるプラットフォームSteamを運営しており、HTC ViveにもSteamVRという名の独自コンテンツを供給している。HTC Viveはそういった意味で最もPCゲームに特化したハードウェアとも言える。
このHTC Viveに対し、直接的な競合であるOculusは最近になり独占タイトルのリリースに熱心になってきた。VRゲームとして注目されている『Eve: Valkyrie』、Crytekが手がけるクライミングを体感するアクション『The Climb』 、キツネを題材にしたかわいらしいアドベンチャー『Lucky’s Tale』は、いずれもOculus Rift専用タイトルとされている。
Oculusはこの独占供給にこだわりを持っているようで、本体アプリケーションのアップデートにてOculus Rift専用タイトルをHTC Viveで遊ぶことをブロックするなど対策も周到だ。『Serious Sam VR』を発表したCroteamに所属するMario Kotlar氏もOculusから時限独占における巨額の資金援助オファーがあったことを認めており、タイトル囲いにもぬかりがない。この方針についてはさまざまな声があるが、Oculus自身は資金の援助によりタイトルのリリースが実現した事例もあると発言するなど、路線の継続を示唆している。
一方で、HTC ViveはOculusほど独占供給に熱心ではない。SteamVRの中でもOculus Riftに対応するゲームは存在しており、オフィシャルには対応していないものの、アプリケーション側の設定を変更すればプレイ可能だ。しかしOculus Riftの独占供給の勢いにのまれHTC Viveが同様の方針に変更しないかと危惧するユーザーが現れた。Redditユーザーelpollodiablo187氏は、Valveのボスでありアイドルでもあるゲイブ・ニューウェル氏にメールで質問を試みたのだ。
やあゲイブさん、『Serious Sam VR』をOculusが独占するために買い取ろうって話を聞いたんだけど、Valveもそういったことをするんですか?
このメールに対し、ゲイブ氏は返答したという。
独占はユーザーにとってもデベロッパーにとっても良いものではないよ。さまざまな点でリスクがあるんだ。経済的リスク、ゲームデザインのリスク、スケジュールのリスク、組織のリスク、IPのリスクなどがある。我々はデベロッパーのリスクをサポートするために資金援助をおこなっている。その援助を受けてもOculus RiftやPlayStation VRへリリースできるよ。我々の望みは、独占供給を求められないようにデベロッパーを援助することだ。
ゲイブ氏は、メールの返信の中で「リスク」という言葉を何度も使っており、いかにデベロッパーにとってVR開発が困難なものであるかを強調している。文中にある資金援助にかんしてゲイブ氏は、「前払いSteam報酬(essentially pre-paid steam revenue)」であると説明する。独占供給はそういったリスクを高め、デベロッパーはもちろん、ユーザーにも良くないものであると考えているようだ。その言葉どおり、Steamにリリースするタイトルが、他社のVRハードウェアに対しても開放的であることを表明している。
Valveの方針がはっきりしたとはいえ、Redditではそもそもこのメールの真偽にかんして疑問を抱くユーザーも多い。elpollodiablo187氏は「私もまさか返信がくるとは思わなかった。」「本当だと証明できるものは少ないが、本当に望むユーザーにはメールアドレスにログインしてもらいたい。」「もし本当だと信じるとしても、たくさんのユーザーがメールを送ると彼に迷惑がかかるからやめてほしい。」と信ぴょう性を問うユーザーに反応している。
もしこのメールが本当ならば、メール上でのゲイブ氏の発言はこれまでのVR市場でのValveの立ち回りと整合性をとれることも確かだ。そして、Oculusと全く逆の路線を強めていることになるというのも興味深いところだ。タイトルの独占の色を強めているOculusと、市場の開放性を重視するHTC Vive。VRの市場戦争から目が離せない。