『FF10』戦闘チュートリアルのウォータプリンは55時間稼げばティーダでも倒せる。ただし人間の忍耐の限界も問う

 

ゲーマーというのは、「検証」が大好きな生き物である。それがお気に入りのゲームならなおさらだ。ゲームの挙動や仕様に関わるちょっとした疑問も、気付いてしまったら試さずにはいられない。そして今回そんなゲーマーの好奇心の標的になったのは不朽の名作RPG『FINAL FANTASY X』(以下、FF10)。その最序盤に存在する戦闘チュートリアルだ。

『FF10』では最序盤に訪れるビサイド村にて、強制エンカウントの戦闘チュートリアルが2回発生する。このうち2つめの戦闘ではウォータプリンが出現するが、このモンスターはティーダが攻撃してもほとんどダメージを与えることができない。すると魔法が使えるルールーが登場し、物理攻撃が効きにくいウォータプリンには魔法が、それも弱点属性である雷魔法が有効だという説明がされる。ここでプレイヤーに操作が戻り、ルールーがサンダーを使うことでウォータプリンを楽に倒すことができる……という流れになっている。


しかし、ここで当然(?)の疑問が浮かび上がってくる。もしティーダがウォータプリンを倒してしまったらどうなるのだろうか?ゲーマーというのは、こういった疑問に一度直面してしまうと検証せずにはいられない生き物であり、その検証は多くの場合3つのステップを辿る。すなわち「理論上可能なのか?」「人間にも出来るのか?」「どれだけ早く出来るのか?」ということである。


理論上可能なのか?

さて、まず気になるのは「そもそもゲームはこのウォータプリンをティーダに倒させてくれるのか?」「倒してしまったら一体なにか起こるのか?」という部分だ。これは4年ほど前にRequiemZer0氏が検証しており、YouTubeに動画を投稿している。動画では、全ステータスがマックスになったティーダが「たたかう」でウォータプリンに9999ダメージを与え、一撃で粉砕している。ウォータプリンの撃破アニメーションが発生し画面に敵はいなくなるが、チュートリアルの会話はそのまま発生する。ルールーもしっかり登場しセリフを言い切るが、その後プレイヤーに操作が戻るタイミングで戦闘が即座に終了することが、動画では説明されている。

Image Credit: RequiemZer0 on YouTube


最初の謎は解けた。別にティーダがウォータプリンを倒しても、チュートリアルの会話をスキップすることはできないようだ。しかしこの動画に登場するのは明らかにデータを弄ってステータスを上げたティーダであり、動画の説明文でもそう明記されている。となると次の疑問が浮かび上がってくる。データを弄らずに、普通に人間がプレイしてティーダのステータスを上げることで、これを達成することはできるのか?ということである。


人間にも可能なのか?

結論から言うとこれは可能である。ただこれを達成するために具体的にどこまでティーダのステータスを上げればいいのか、計算してみよう。こちらに有志が作成した『FF10』のダメージ計算用スプレッドシートが存在する。これをコピーして使用すれば、ウォータプリンを1回の「たたかう」で倒すために必要なティーダの能力値が判明するはずである。

具体的な計算内容は今回の記事内では割愛するが、まずティーダのこの時点での攻撃力は16であることが多く、この数値からは「たたかう」の基礎ダメージ158が算出される。次にウォータプリンの物理防御は120であり、この数値からはダメージ軽減率である0.34(実際のゲーム内では小数点第10位まで有効)が算出される。また『FF10』の攻撃には「威力」というものが存在し、これを16で割ったものがダメージに乗算される。「たたかう」の威力は16なので倍率は1倍となり、この場合は基礎ダメージ×軽減率がそのままダメージ値となる。結果は53だ。

最後に、このダメージ値にプラスマイナス約6%の乱数や弱点属性、武器による倍率などがかかる。クリティカルによる倍率もここにかかるが、このチュートリアル戦闘は特殊仕様でクリティカル判定がオフになっているため、クリティカルが発生することはない。この時点のティーダの場合はフラタニティの物理攻撃+5%による1.05倍が適用されるので、以上の計算から攻撃力16のティーダがウォータプリンに与えるダメージは51-58となる。

同様の計算でHPが315であるウォータプリンを一撃で倒すのに必要なティーダの攻撃力を算出すると、30であることが分かる。ティーダのスフィア盤でこれを達成するためには「ディレイバスター」のあたりまで到達する必要があり、スフィアレベルに換算すると58レベル。実に63178APも稼ぐ必要がある。

Image Credit: DoctorSwellman on YouTube


このチュートリアル前にAPを稼ぐこと自体は可能だが、選択肢はサルベージ船もしくはビサイド村にたどり着くまでの海中でエンカウントできるピラニアしかない。ピラニアはオーバーキルでも2APしか入手できないので、ウォータプリンを一撃で倒すステータスにたどりつくまでには、3万匹を超えるピラニアを狩る必要がある。が、不可能ではないならやるのがゲーマーである。2021年、Alymere氏がYouTubeに手動でレベルを上げたティーダがウォータプリンを倒す動画を投稿した。攻撃力は少しオーバーした32。プレイ時間は、110時間であった。


どれだけ早く出来るのか?

さて、時間をかければ人間にも達成できることが分かった。しかし、ゲーマーの中でも一部の特に業が深い人種は、こういったチャレンジを見かけるとこう考えずにはいられない。「どこまでタイムを縮められるのだろう」と。そこでこの問題に着手したhallowcorehammer氏が注目したのは、まず武器だ。ウォータプリンとの戦闘の前にはもうひとつチュートリアル戦闘が存在し、そこではディンゴとコンドルと呼ばれるモンスターが出現する。

このうちディンゴは約3%で装備をドロップし、この装備が武器だった場合、アビリティは「貫通」「パワーチェンジ」「炎攻撃」「氷攻撃」「雷攻撃」「水攻撃」の6つの中から抽選される。そう、ウォータプリンの弱点である雷攻撃の武器をドロップする可能性があるのである。前述したようにダメージ計算のなかでも弱点属性は最後に乗算されるためこの雷攻撃による1.5倍ダメージは強力であり、この武器を手に入れることができた場合、ティーダに要求される攻撃力は30から27まで引き下げられる。しかし、このチャレンジにおいて、ティーダのスフィア盤上で進むルートでは最後のスフィア(攻撃力+4)で一気に26から30まで上がるため、残念ながらこれでは1APの節約にもならない。


しかしこれはあくまで通常のスフィア盤上での話である。『FF10』にはより柔軟なキャラクター育成を可能にする「上級者向けスフィア盤」というオプションが存在。こちらを選んだ場合はティーダの攻撃力をより効率的に伸ばしていくことが出来るということに、hallowcorehammer氏は気付いた。上級者向けスフィア盤を選択した場合、攻撃力27に到達するまでに要求されるスフィアレベルは37。APに換算すると12370APとなり、当初の要求APの1/5以下となる。

これらの新しいルートを組み上げたhallowcorehammer氏は、実際にこれに挑戦。その結果を2週間ほど前にredditにて投稿している。かかった時間はまずティーダの攻撃力を27まで上げるのにピラニア狩りを53時間44分。そこから最初のチュートリアル戦闘でディンゴが雷攻撃の武器を落とすまでに117回かかっており、合計54時間40分での達成となった。約半分、50時間以上の短縮である。

さて、「全ての敵を一撃で倒してクリアする」なるチャレンジを決行しているhallowcorehammer氏はここで満足せずそのままゲームのプレイを続行したが、そこであることに気付いた。クリティカルが出ないのである。そう、ウォータプリンの戦闘における特殊仕様である「クリティカル判定の無効化」だ。これはルールーがウォータプリンを倒すことによって解除されると推察されている。つまりティーダがウォータプリンを倒してしまったことにより、これが正常に処理されずに残り続けているのである。思わぬ落とし穴と思われたが、この問題はゲームをリセットしてロードしなおすことによって治ったと同氏は付け加えている。


こうして、多くのゲーマーの執念と知恵によって、またひとつ『FF10』の謎と仕様が解明された。ゲームの遊び方は無限大であり、気に入ったゲームは骨の髄までしゃぶり尽くさんとするゲーマーたちの好奇心と意思力が実感できる、新たな興味深いエピソードだったと言えるだろう。