ファンコミュニティによるビデオゲームの”グラフィック・オーバーホール”海外で根付く

Half-Life 2』は、2004年に米国のスタジオValveよりリリースされたFPSだ。初代Source Engineによる美麗なビジュアルと、リアルな物理挙動が高い評価を浴び、当時メディアより絶賛されたタイトルである。発売から11年が経過した今、本作のグラフィックやビジュアルを大幅に改善するMod「Half-Life 2: Update」が、3月27日にSteamで無料配信されることとなった。

「Half-Life 2: Update」は、ルーマニアのMod製作者Filip Victor氏らが手がけたMod作品だ。導入することでライティングやワールド内の影の描写が強化されるほか、ハイダイナミックレンジのライティングにより光の描写がさらに美麗になる。新たなパーティクルエフェクトやフォグ表現も追加される。独自のコメンタリが収録され、ゲーム内の一部バグも修正されるという。

 

 


海外で続く"ビデオゲームのオーバーホール"

 

『Half-Life』のMod「Black Mesa」
『Half-Life』のMod「Black Mesa」

『Half-Life 2』では「Half-Life 2: Update」以外にも、ビジュアルを強化するだけでなくキャラクターのモデルをも置きかえるMod「FakeFactory Cinematic Mod」などが配信されている。国内ではあまり聞かない話かもしれないが、海外では、発売されたPC向けビデオゲームのビジュアルを、ファンコミュニティがオーバーホールする事例が珍しくない。一部アイテムやキャラクターのスキンを張り替えるようなものではなく、ゲーム全体のビジュアルを向上させるModだ。

例えば『Half-Life 2』の前作『Half-Life』をSource Engineでリメイクした『Half-Life: Source』には、「Black Mesa」と呼ばれる大規模Modが存在する。このModは、約9年間もの歳月をかけてファンの手により製作されたビジュアルオーバーホールModであり、テクスチャやモデルにマップ、さらにはサウンドトラックやボイスアクティングまでもが作り替えられている。最終的には、Mod製作者たちの熱意が開発元であるValveにも伝わり、「Black Mesa」を有料で販売することを認められるまでに至った。

 

『Dark Souls: Prepare to Die Edition』。スペックだけでなく、Games for Windos LIVEの採用もファンから非難を浴びた
『Dark Souls: Prepare to Die Edition』。スペックだけでなく、Games for Windos LIVEの採用もファンから非難を浴びた

開発元が安定性を考え、あえて設定したビジュアルを、ファンコミュニティらが解放することもよくある光景だ。2012年8月PC向けにリリースされた『Dark Souls: Prepare to Die Edition』は、解像度1024×720の30fps固定という、PC版とは考えられないようなパフォーマンスの移植作だった。リリースから数時間後、動作が不安定なテストバージョンではあったものの、同作を高解像度化するModが海外フォーラムNeoGAFに登場している。発表当時のビジュアルからダウングレードしたのでは、とささやかれていた『Watch Dogs』では、その後PC版にて隠されていたビジュアル設定ファイルが発見され、グラフィックを強化するModが登場した。Ubisoftによれば、このグラフィック設定ファイルは、安定性を高めるため封印していたのだという。魅力的に見えるビジュアルオーバーホールModだが、安定性や動作パフォーマンスが無視されているパターンが多いことには気をつけたい。

 

『TES V: Skyrim』のグラフィックでフォトリアリズムを追求したENB「RealVision」
『TES V: Skyrim』のグラフィックでフォトリアリズムを追求したENB「RealVision

Bethesda Softwareの『The Elder Scrolls』やRockstar Gameの『Grand Theft Auto』は、グラフィックのオーバーホールが頻繁に行われるゲームシリーズである。Mod製作が活発なこともあり、高品質な代替テクスチャなども頻繁に登場するのだが、なかでも際立っているのはBoris Vorontsov氏が製作した「ENB」だ。『Half-Life 2』も含めた様々なゲームに対応しており、グラフィック調整だけでなく、ゲーム全体の"色調"を変更することができるModである。グラフィックの表現力をアップさせるだけでなく、ゲーム全体のグラフィックを温かみのあるものにしたり、調整を極めて写真のようなリアルなビジュアルにしたりということが可能なのだ。

 

Shuji Ishimoto
Shuji Ishimoto

初代PlayStationやドリームキャスト時代の野心的な作品、2000年代後半の国内フリーゲーム文化に精神を支配されている巨漢ゲーマー。最近はインディーゲームのカタログを眺めたり遊んだりしながら1人ニヤニヤ。ホラージャンルやグロテスクかつ奇妙な表現の作品も好きだが、ノミの心臓なので現実世界の心霊現象には弱い。とにかく心がトキメイたものを追っていくスタイル。

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