ビデオゲームにおいても「プラシーボ効果」は発生するか、英国ヨーク大学で実施された『Don’t Starve』の実験
英国ヨーク大学で人間とコンピューターの相互作用を教えるポール・ケアンズ教授は、「プラシーボ効果」がビデオゲームの受け止め方に影響を与えるかどうかを調べる実験を行った。英国の科学メディアNew Scientistがその結果を報じている。
「プラシーボ効果」とは、実際には効能のない薬を本物の薬と思い込んで摂取すると、偽薬であるにもかかわらず効能が現れる効果のことだ。実際には存在しなくとも「ゲームの後ろではこういうシステムが動作していますよ」と伝えられた場合、人はそれを信じて作品の捉え方も変えるのだろうか。ケアンズ教授はKlei Entertainmentのサバイバルゲーム『Don’t Starve』を利用したテストを実施している。
存在しないAI信じる
『Don’t Starve』は、2013年にPC向けにリリースされたサバイバルアクションゲームだ。プレイヤーは悪魔によって未知の世界に引き込まれてしまった主人公となって、サバイバル生活をスタートする。奇妙なモンスターと戦い、見たこともない植物や道具を集め、タイトルのとおり「飢えず」にできる限り生き延び続けることが目標となる。マップは自動生成でランダムに描かれる。
ケアンズ教授が実施した実験では、21人のプレイヤーに2度にわたってこの『Don’t Starve』をプレイしてもらった。1度目のプレイでは、「マップはランダムに生成されていますよ」とプレイヤーたちに伝えられる。そして2度目のプレイでは、「今回、マップはAIがプレイヤーの腕前に合わせて変化させますよ」と伝えられる。だが前述のとおり、実際には『Don’t Starve』はマップを自動生成するゲームであり、プレイヤースキルに合わせてマップを調整するAIなどは存在しない。
だが『Don’t Starve』の2度目のプレイセッションでは、プレイヤーたちは没入感や楽しさがより増したという評価を下したのだという。あるプレイヤーは「AIは私を安全なエリアにおいてくれた、どうやら私に必要なりリソースをプレゼントしてくれたようだ」と述べ、またあるプレイヤーは「マップ探索の時間が減った、よりゲームを楽しむことができたよ」と伝えた。AIがあるとより難しいと伝えたプレイヤー、AIがいたおかげで簡単になったと伝えたプレイヤーの双方が存在したそうだが、1回目と2回目のセッションでどちらも同じチャレンジ性であることを見抜いたプレイヤーは1人もいなかった。
この後、実験は別の形でも新たに実施されたという。半分のプレイヤーにはランダム生成だと伝え、半分のプレイヤーにはAIがマップを生成していると伝えるやり方で、同じくプラシーボ効果が確認できたと報告されている。フロリダ州立大学でビデオゲームの研究を続けている心理学者Walter Boot氏は、プレイヤーの持つ予想がゲームのプレイ体験に影響を与えることを、同実験は証明したと伝えている。
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そもそも『Don’t Starve』はランダム性の強いゲームのため、1度目のプレイセッションと2度目のプレイセッションの結果が異なるのは当たり前であり、実験の確実性にはやや疑問が残るところだ。ただビデオゲームにもプラシーボ効果が存在するのかという考えは興味深い。たとえば今年発売された『Until Dawn』は、実際には細かな分岐はないものの、ゲーム中には“バタフライエフェクト”が存在すると伝え続けることで、プレイヤーに暗示をかけ高い緊張感を与えることに成功している。