売上50万本ヒットホラー『Cronos: The New Dawn』開発者に「なぜ成功したのか」を訊いてみた。「妥協のないサバイバルホラー体験」のおかげの様子

『Cronos: The New Dawn』を手がけるBloober Teamのメンバーに、弊誌はメールインタビューを行う機会に恵まれた。

『Layers of Fear』シリーズやリメイク版『サイレントヒル2』などで知られる開発スタジオBloober Teamの新作『Cronos: The New Dawn』が好評を博している。販売本数が50万本を突破したことが報じられたほか、12月11日にはPS5およびNintendo Switch 2向けパッケージ版も発売予定。

そんな『Cronos: The New Dawn』を手がけるBloober Teamのメンバーに、弊誌はメールインタビューを行う機会に恵まれた。ゲームディレクターのJacek Zięba (ヤツェク・ジェンバ)氏と、同じくゲームディレクターのWojciech Piejko (ヴォイチェフ・ピエイコ)氏にサバイバルホラーとして快調なヒットを飛ばす本作の魅力についてうかがったので、本稿で紹介したい。

――最初に、お二人の自己紹介をお願いいたします。

Jacek Zięba氏 (以下、ジェンバ氏):
『Cronos: The New Dawn』のゲームディレクターを務めているヤツェク・ジェンバです。この度は私たちが手がける『Cronos: The New Dawn』についてお話しする機会をいただき、ありがとうございます。

Wojciech Piejko氏(以下、ピエイコ氏):
同じく『Cronos: The New Dawn』でゲームディレクターのヴォイチェフ・ピエイコです。どうぞよろしくお願いいたします。

――『Cronos: The New Dawn』のゲーム内容について紹介をお願いします。コンセプトやジャンルなど、本作の特徴を教えてください。

ピエイコ氏:
『Cronos: The New Dawn』は、サバイバルホラーのアドベンチャーゲームです。本作のストーリーは従来のサバイバルホラーの精神を受け継ぎながらも、SFとレトロフューチャーなテイストを融合させ、なおかつ独自性を加えました。本作の舞台は、ポーランドのクラクフに実在する地区をモデルにしています。実在する地区の豊かな歴史や独特の雰囲気を巧みに取り入れることで、本作の世界観を作り上げました。開発を通じた本作のテーマは、サバイバルホラーで深い物語性を追求することでした。

本作の主人公がどのような人物であるのかについても、具体的にお話ししましょう。主人公は、時空を飛び越える力をもつ「トラベラー」と呼ばれるキャラクターです。主人公は「コレクティブ」という組織に所属しており、本作では過去のポーランドを調査する任務に就くことになります。1980年代のポーランドへと飛び、対象者の「エッセンス」と呼ばれるものを抽出することが主な任務の内容です。

ジェンバ氏:
『Cronos: The New Dawn』のコンセプトは、2021年に発売された『The Medium』の開発を終えた頃から練り上げてきましたね。Bloober Teamのメンバーで次に挑むべきプロジェクトについて意見を交換していると、まったく異なる2つのアイデアが出てきたんです。

1つめは、未知の病に感染してしまった者が次から次へと異形の怪物に変わっていくというストーリーがアイデアとして出ました。1982年に公開されたSF映画の傑作として名高い『遊星からの物体X』を彷彿とさせる恐怖を、Bloober Teamの本拠地であるポーランドの集合住宅を舞台に表現するという試みです。ホラーのテイストが強い1つめのストーリーとはまったく異なるコンセプトとして、2つめのアイデアが出てきましたね。そちらは滅亡してしまった人類を救うために、主人公が時間をさかのぼるというSFのストーリーでした。

この2つのアイデアを融合させたのが、『Cronos: The New Dawn』です。本作で私たちは純粋な心理ホラーから一歩踏み出し、より「肉体的」で「現実に触れられる」ような恐怖に焦点を当てたいと考えました。本作の構想段階で、私とピエイコの2人が思い描くビジョンが一致していたのも大きかったですね。私たち2人は創作面で非常に相性がいいんです。『The Medium』の開発時に2人の相性の良さがわかり、互いの考えをすぐに汲み取れる関係性を築き上げることができました。その関係性が今回の挑戦を大いに後押ししたのです。

――ゲームシステムとしては、『Cronos: The New Dawn』にはどのような特徴があるのでしょうか?

ピエイコ氏:
ゲームシステムとしても、サバイバルホラーの醍醐味を堪能できるものとなっています。主人公は複数の銃を使い分けながら怪物と戦っていきますが、無尽蔵に弾薬を手に入れられるわけではありません。限られた資源を念頭に戦っていくという要素は、サバイバルホラーというジャンルを好むプレイヤーに大いに楽しんでもらえると思います。

プレイヤー側のゲームシステムがサバイバルホラーというジャンルに沿っている一方で、怪物側のゲームシステムもサバイバルホラーとして特徴あるものになっています。その最大の特徴は、怪物同士が「融合」するシステムです。これは『Cronos: The New Dawn』の最大の特徴といってもいいでしょう。プレイヤーが倒したはずの怪物を放っておくと融合して復活し、さらに強力な怪物へと変貌します。融合を遂げた怪物はパワーやスピードが向上するだけでなく、攻撃方法も変わってくるのでプレイヤーは状況に応じて対処しなければなりません。

化物の死体を焼却することで、怪物同士の融合を防ぐことができます。作中で「トーチ」と呼ばれるアイテムを所持していれば、それを使って死体を燃やすことができますよ。しかし、トーチを一度に持ち運べる数にも制限があります。そのため、トーチの使い所が重要になってくるでしょう。

好調な売れ行きはサバイバルホラー体験を追及したから

――本作の売上が50万本を突破したというニュースを読みました。世界中で販売されている本作ですが、その反響についてはどのように感じているのでしょうか?

ジェンバ氏:
『Cronos: The New Dawn』は発売時にとても良いスタートを切ることができ、私たちも心躍るような気持ちです。新規IPとしての参入は容易ではありませんでしたが、各地域での反響に非常に満足しています。今回このような結果を出すことができたのは、数多くの人々のサポートがあったからです。この場を借りて、感謝の言葉を伝えさせていただければと思います。本当にありがとうございます。

――なぜ、『Cronos: The New Dawn』は好調な売れ行きを記録しているのでしょうか?販売好調の理由について開発陣が考えていることを教えてください。

ピエイコ氏:
『Cronos: The New Dawn』が好調な売れ行きを記録している理由としては、開発に携わった全員の努力の賜物だと確信しています。私たちは緊迫感あふれるストーリーと、SF的なレトロフューチャーの雰囲気を巧みに融合させることで、サバイバルホラーのファンが心から没頭できるタイトルの完成を目指しました。ホラージャンルに日々情熱を注いでいるコミュニティーの皆さんに対しても、深い感謝を込めています。そのようにして、私たちは『Cronos: The New Dawn』を手がけています。

――Steamレビューで「非常に好評」のステータスを獲得している本作ですが、具体的にどのようなところがユーザーからの評価されていると考えていますか?

ジェンバ氏:
私たちは、「妥協のないサバイバルホラー体験」を『Cronos: The New Dawn』で追求しました。その体験を実現するために、あえてシビアな難易度と恐怖演出に踏み込み、ときに苦渋の決断を迫られるゲームデザインを選んでいるんです。それらが『Cronos: The New Dawn』の独自性を作り出し、妥協のないサバイバルホラー体験を求めているユーザーに支持されているのだと考えています。数多くのプレイヤーが何度も「死」を経験しながら学び、状況に合わせて独自のサバイバル戦略を組み立てていく過程を楽しんでくださっています。

Bloober Teamの考えるサバイバルホラーの醍醐味

――サバイバルホラーの醍醐味はどのようなことだと開発陣は考えていますか?本作はどのようにしてサバイバルの要素を高めているのでしょうか?

ピエイコ氏:
サバイバルホラーのゲームは、意図的にプレイする人の不安を煽り、常に窮地に立たせる演出にフォーカスするよう作られています。そうしたことから、サバイバルホラーはホラーゲームの中でも異色の魅力を持つジャンルだと思っていますね。そして、恐怖心というのは人によって異なるものなんです。そのため、サバイバルホラーはプレイヤーにとって唯一無二の体験を生み出す可能性を秘めています。

『Cronos: The New Dawn』は、ただのサバイバルホラーではありません。本作で私たちは意図的に弾薬などの資源を制限することで、プレイ時の緊張感を最大化しました。さらに、怪物同士が融合するシステムを設けることで、プレイヤーは常に警戒状態で行動しなければならないというより一層恐怖を深める要素を盛り込んでいます。

――Bloober Teamの過去作である『Layers of Fear』や『Observe』は一人称視点のゲームでしたが、本作は三人称視点のゲームです。三人称視点ならではのホラーゲームとしてはどのような恐怖を味わうことができますか?

ピエイコ氏:
『Cronos: The New Dawn』を三人称視点のゲームにした理由は、本作のゲーム性とメカニクスをより深く体験していただくためです。これまでに発売された数多くの名作ホラーゲームが三人称視点を採用しており、さまざまな場所を行き来する『Cronos: The New Dawn』にも三人称視点が最適だと判断しました。これは過去作である『Layers of Fear』シリーズの閉ざされた空間でのプレイ体験とは大きく異なります。

三人称視点にすることで、プレイヤーは「視界の端」で常に周囲の微妙な気配の変化を感じ取ることができ、緊張感や不穏さがより強まります。さらに、物語への没入感、空間演出によるストーリーテリング、そしてサバイバルホラーとしての駆け引きのすべてがバランスよく成立するのです。プレイヤーは周囲の環境をじっくり観察し、危険を肌で感じ取りながら、プレイヤーキャラクターの主人公とともに次の一歩を見極める体験ができます。三人称視点は本作の恐怖と戦略性を同時に引き立て、物語と環境の魅力を最大限に活かしてくれるのです。

――リメイク版『SILENT HILL 2』の開発を担当したことでBloober Teamはさらに知名度を高めましたが、同作の成功は『Cronos: The New Dawn』にどのように影響しているのでしょうか?

ジェンバ氏:
これまでの作品では、開発過程で非常に多くの学びがありました。数多くのプロジェクトを通じて、私たちは経験値と専門知識を確実に高めてきました。そうした経験を積み重ねることでようやく、Bloober Team独自のサバイバルホラーをテーマにした新規IPの開発に挑戦する準備が整ったんです。

『Cronos: The New Dawn』の開発は時間をかけてチームを拡大していき、戦闘やゲームプレイ設計に精通した実力者たちが次から次へと加わることになりました。そうしたことで、より深く、より完成度の高い体験を生み出せる体制を構築することができたんです。

主人公の装備デザインは潜水服や宇宙服を着想に

――主人公の重厚な装備が見た目として印象的ですが、どうしてこのようなビジュアルになったのでしょうか?

ピエイコ氏:
私たちは主人公である「トラベラー」を「敵の群れと戦う典型的な兵士」としてではなく、時間という海に飛び込み、滅亡後の世界から人々を救出する存在「タイム・ダイバー」として位置づけていました。その設定を踏まえて、昔の潜水服のフォルムに旧ソ連のパイロットスーツや宇宙服を融合させています。こうすることで、独自のSFテイストを持つデザインに発展させることができたのです。

さらに、パリの建築的象徴であるジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センターからも強い影響を受けています。具体的には配管や通気口などを外装の裏に隠すのではなく、あえて表に露出させて主役となるビジュアルへと昇華させる点ですね。私たちはその発想を主人公のスーツに取り入れました。ケーブルやフレームをあえてスーツの外側に配置することで、機能美を感じられるデザインを追求しています。

――『Cronos: The New Dawn』はGolden Joystick Awards 2025でBest Audio Designにノミネートされていますが、この点についての開発陣のこだわりを教えてください。

ピエイコ氏:
サウンド制作を手がけるArkadiusz Reikowski氏(アルカディウシュ・レイコフスキ氏)のチームは、『Cronos: The New Dawn』の世界を、私たちのビジョンに忠実かつ見事な精度で構築してくれました。どのサウンドも丁寧に作り込まれ、全体の仕上がりは私たちの期待を大きく超えるものとなりました。この素晴らしいオーディオデザインの成果が多くの方から評価され、注目を集めていることを私たちは心からうれしく思っています。

セガから発売のパッケージ版で日本のホラーゲーマーも手軽に

――日本でのパッケージ版がセガから発売されることについて、どのように考えていますか?本作の開発以前に、セガへの思い出や抱いていた印象も教えてください。

ジェンバ氏:
セガとのパートナーシップは、非常に実り多いものでした。世界的に長い歴史と強い影響力を持つゲーム企業の1つであるセガとタッグを組めることは、私たちにとって大きな名誉です。セガとのパートナーシップによって、本作の特徴である深い没入感、高い緊張感、戦略性を理解してくださるプレイヤーにしっかり届けることができると考えています。

私たちの力作である『Cronos: The New Dawn』を日本の情熱的なホラーファンにお届けできること、そして私たちの描くサバイバルホラーの世界観を共有できることを光栄に思います。本作が日本でどのように受け止められるのかを、Bloober Teamの全員がとても楽しみにしています。

――最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。

ジェンバ氏:
まず、すでに『Cronos: The New Dawn』のダウンロード版でゲームをプレイしてくださった皆さんに心より感謝申し上げます。本作のすべてを、余すことなく楽しんでいただけていれば幸いです。

そしてまだプレイしていない方は、パッケージ版が発売されるこの機会に『Cronos: The New Dawn』を試していただくことをおすすめします。本作はこれまでのホラーゲームとは一味違った内容になっていますので、きっと気に入っていただけると思いますよ。

――ありがとうございました。

Cronos: The New Dawn』のPS5/Nintendo Switch 2向けパッケージ版は、12月11日に発売予定。ダウンロード版はPS5/Nintendo Switch 2/Xbox series X|S/PC(Steam/Epic Game ストア/Windows)向けに発売中。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

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