『CS: GO』のジャンプに人生をかける男たちの果てなき挑戦、物理法則を無視してマップを駆ける

 

欧州のe-Sportsシーンを筆頭に、競技用シューターの代表格として全世界で勤しまれている『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS: GO)。Steamの統計では、『Dota 2』に次いで常に2番目のプレイヤー人口を誇っている。FPSといえば、敵の急所を正確に射抜くエイム能力に関心が集まりがちだが、『CS: GO』のジャンプアクションにのみ全身全霊をかける男たちが存在する。さまざまなテクニックを駆使しながらゴールを目指し、そのタイムを競い合う「Kreedz Climbing」。世界中の腕自慢が集うコミュニティーでは、数百と用意されたジャンプマップの記録が日々塗り替えられている。今最も脚光を浴びている世界記録保持者とコミュニティーの代表者が、そんな『CS: GO』が持つもう一つの顔に馳せる想いを、業界メディアPC Gamerのインタビューで語っている。FPSのジャンプに人生をかける男たちの果てなき挑戦に密着する。

 

銃を捨てた男たち

「Kreedz Climbing」(通称、KZ)は、『CS: GO』に新たなゲームモードを追加するMod。プレイヤーは移動とジャンプのみを駆使して専用マップに用意された段差や障害物を乗り越え、ゴールにたどり着くまでのタイムを競い合う。通常のジャンプでは届かないような足場が設けられているのが特徴で、ゲームエンジンの物理法則を無視する複数のテクニックを使いこなさなければ完走すらままならないケースも少なくない。『CS: GO』のパルクールとも呼ばれており、FPS本来の試合テクニックとしても大いに注目されている。過去には、『Counter-Strike』や『Half-Life 2』でも同様のコミュニティーが盛り上がりを見せていた。

「単にゴールへたどり着くまでブロックの上をジャンプするだけがKZの全てではありません。大抵の場合、ストレイフィング(横方向への移動を繰り返すこと)やロングジャンプ、バニーホップ(連続して跳びはねること)といった多くの上級テクニックを駆使する必要があります。中にはさらなる難易度を追い求めて、チェックポイント(失敗してもやり直せる通過地点)を使用せずに走り切るPROランをあえて選ぶプレイヤーもいます」。そう語るのはコミュニティーサイトKZ-Climbの創設者であるKenneth氏。KZが秘める魅力はその高い競技性にあるという。「KZで個人的に最も気に入っているのは競技性です。現在、数百におよぶマップがリリースされており、その全てに世界ランキングが用意されています。プレイヤーは世界中のライバルと腕を競い合い、新記録は日々塗り替えられていきます。新たなマップが毎週追加されることもあり、KZコミュニティーは常に大盛況です」。

KZ-Climbには、技術の上達を目指す初心者から自分のスキルを見せつけたいベテランまで、ジャンプに魅せられた世界中のプレイヤーが集い情報交換が活発に行われているとのこと。「フォーラムでは、特定のテクニックのやり方を教えるチュートリアルを見たり、公式マップについて議論したり、最新の世界記録の走りを観たりできるほか、KZ関連のことなら何だって話し合えますよ。新参者はKZの競技性に及び腰になってしまうかもしれませんが、KZ-Climbは好きなゲームについておしゃべりできる和気あいあいとした場所も提供しています」。

 

宇宙の法則が乱れる

ゲームエンジンの物理法則を無視するテクニックとはいったいどんな業なのか。代表的なものに「ストレイフジャンプ」と「バニーホップ」がある。簡単に説明すると、「ストレイフジャンプ」は空中で進行方向を変えることなく移動速度を増加させる技術だ。「バニーホップ」はその応用で、スピードを落とさずに急激な進路変更を可能にすることを目的としている。FPSで敵の弾丸を回避するためにピョンピョン飛び跳ねることをバニーホップと指す場合もあるが、ゲーム物理における厳密な定義とは異なる。「ストレイフジャンプ」とは、文字通りストレイフィングしながら飛ぶことをいう。横方向へのキー入力を繰り返しながらジャンプすることでより遠くへ飛べるというテクニックだ。

これらの歴史は古く、「ストレイフジャンプ」は元々、Quakeエンジンのコードに発見されたバグに由来するといわれている。その仕組みは数学的に実に単純なものだ。方向キーが入力される際、ゲームエンジンはプレイヤーの進行方向に単位ベクトルを置く。しかし、連続したキー入力の後にそれらのベクトルが正規化されていないために、動体を現在のベクトルから90度以内の他方向に向けることで、通常のスピードを超えられるのだ。こうしたテクニックには、繊細で素早いマウスコントロールと正確なキーボード入力が必要なため、習得には長時間の練習と筋肉記憶の鍛錬を要する。

KZを『CS: GO』のパルクールと表現するスウェーデンの世界記録保持者ruben氏も、長い反復練習の末に物理法則を超越した人間の一人である。「KZを8年間プレイしてきたけれど、それでもまだ欠点はあるよ。例えば、私のロングジャンプをバカにする人はいつだっている。上達するには間違いなく長い時間がかかるね。そして強い忍耐力。近頃、新記録は簡単には出ないんだ」。そんなruben氏が最も誇りに思っているのが、マップ“kz_haki_v2”への挑戦だったという。新記録の7分台突破に数週間を要したとのこと。「残念ながら、少し前にValveがしゃがみバニーホップの仕様をパッチで変更してしまったんだ。現在もそう。記録が破られることは当分ないだろうね」。そのほか、“kz_gigablock_go”における3分16秒という記録もお気に入りに挙げている。

また、コミュニティーのリーダーとして数々の偉業を目の当たりにしてきたKenneth氏には、特に度肝を抜かれた伝説の記録があるという。「これまでで一番頭がイカれてたのは、eightbOが“kz_cursedjourney”で20分43秒25を叩き出したPROランでした。“kz_cursedjourney”は前代未聞の難易度で有名なマップなんです。挑戦するプレイヤーの大多数は4分の1にも到達できないでしょう。クリアできた者でも平均で2時間を要しています。この記録で特に印象的なのは、eightbOがチェックポイントを一切使わずにクリアを成し遂げたということです」。動画の画面中央に表示されている入力キーのシークエンスに注目すると、この優雅なジャンプアクションがいかに人間離れしているかが分かるだろう。

『CS: GO』の世界大会におけるプロプレイヤーの反射神経や正確無比の腕前はまさに怪物並みといえるが、舞台を変えて華麗に宙を舞い続けるジャンパーたちの類稀なスキルもまた、間違いなく常人を凌駕している。宇宙の法則が乱れるゲーム空間で、彼らは今日も高みを目指して跳ね続ける。ジャンプに人生をかける男たちの果てなき挑戦は終わらない。


カナダ育ちの脳筋女子ゲーマー。塾講師、ホステス、ニュースサイト編集者を経て、現在はフリーライター。下ネタと社会問題に光を当てるのが仕事です。洋ゲーならジャンルを問わず何でもプレイしますが、ヒゲとマッチョが出てくる作品にくびったけ。Steamでカワイイ絵文字を集めるのにハマっています。趣味は葉巻とウォッカと映画鑑賞。ネコ好き。